株式会社グローバルプロデュース・光畑真樹氏が語る これからのイベント業界の「働き方と求められる人材像」

 

『エンタメ人』がお届けする、エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。エンタメ業界への転職を考えている方へ向けて、若手時代の苦労話から現在の業界動向まで伺っていく。第2回は、コロナ禍を経て大きく変貌を遂げつつあるイベント業界にフォーカスする。

イベント業界では、Zoomなどのツールを使用したコミュニケーションの環境整備に伴い、「映像配信への参加」というスタイルが定着し、リアルなイベントの開催が以前に増して難しくなってきている。大きく変化しつつある業界では、今どのような人材が求められているのだろうか?

株式会社グローバルプロデュース、代表取締役社長兼クリエイティブディレクターの光畑真樹(こうはた・まさき)氏に、イベント業界の動向と展望について伺い、必要とされる人材像を探る。(編集部)

プロフィール

光畑真樹 (こうはた・まさき)

・GLOBAL PRODUCE 代表取締役CEO
・Event Producer
・TOKYO BIJIN PROJECT 総合Producer

JTB Groupでイベントプロデュースに従事。2012年GLOBAL PRODUCE創業。業界中のプロフェッショナルを集め、全社で国内外年間100本以上のイベントを企画制作。7年で年間取扱20億のプロデュース集団を創り上げる。2020年2月よりOnline Event 『Live Convention』を企画設計。9ヶ月間で約50本の企業Online Eventをトータルサポート。

書籍:
『The Age of Top Presentation-あなたのビジネスに革命を起こすトッププレゼンテーションの技術-』
※取材当時の情報になります

台風がイベント直撃!それでもみんなの記憶に残ればそれでいい

── 学生時代からイベントプロデュース業に興味を持たれていたのでしょうか?

実は、当時はまったく興味がなかったんです。木村拓哉さんが照明スタッフを演じるドラマをたまたま観て、ライティングってかっこいいなと漠然と…。それからエンターテインメントというか、イベントプロデューサーの存在を知って、気付いたらこの業界に入っていました。

── 当時、イベントに行かれるなど、個人的に興味関心はおありでしたか?

人並みといったところですね。大学では情報工学専攻だったのですが、プログラミングやパソコンの構造などでは凄く優秀な同級生には敵わない気がしていて、他の道を模索してはいましたね。

── まず、会社員時代に携わられたイベント事業で大変だったことを具体的なエピソードとともにお聞かせください。

2万人を収容する屋外イベントを台風が直撃したことがあって。スタッフだけでも1,000人ぐらいいたんですが、全員びしょびしょで(笑)。ただ、そのときのクライアントさんが「ひどかったなぁ!っていうくらいのイベントのほうがみんなの記憶に残りますよ」とおっしゃっていて、「すごくスケールが大きい、こうありたい!」と思ったのを覚えています。

 

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イベント業界に必要な資質は、「素直さ」と「焦らないこと」そして「心根の優しさ」

── 会社勤めの後に起業されたそうですが、起業を志したきっかけをお教えください。

会社員時代からイベントに関わっていたわけですが、「もっとすごいイベントプロデュースのチームを自分でもゼロから作れるんじゃないか」と。そのほうがスピードも速いし、内容もダイナミックなものにできるのでは?もっともっと社会に貢献できるイベントプロデュースができるんじゃないか?と思ったのがきっかけです。あとは、当時勤めていた会社での営業成績が毎年続いてとても良かったんです。それで、調子に乗ってしまっていたというのも本音としてありますね(笑)。

── 起業にあたり、なにか意識されたことはありますか?

イベントプロデュースというと、華やかなステージ演出のイメージがありますが、うちは創業者が3人とも地道な営業の大切さを重んじるタイプで。周囲を見渡してみても、起業する人は意外と地道なことをちゃんとやってる人がうまくいっている印象ですね。そういった基礎的な部分は大事にしています。

── 「地道に」というと具体的には?

たとえば、必ず1日のうちのどこかで「営業」の時間をとるということでしょうか。「イベント関連でお手伝いできることありませんか」とか、大使館などにも普通に電話でセールスしているんです。意外かもしれませんが、そういうのが大切。20代の方にも、ぜひそういう感覚を身につけて欲しいなと思っています。

── 20代の方を採用される際に重視されるポイントを3つ教えてください。

1つ目は吸収力ですね。今は未熟だとしても、素直に吸収していける力があれば、必ず一人前になることができますから。

2つ目は結果を焦らないということ。自分自身もそうだったのですが、1〜2年目で「プロデューサーになりたい」と思ってしまいがちです。しかし、イベントの仕事は専門職であって、半年や1年で習得できるようなものでないということはわかっていただきたい。

3つ目は思いやりですね。ビジネスは「人と人とのつながり」なので、人としての思いやりは欠かせません。

── 御社では、今どんな社員の方が多いのでしょうか?

一言でいうと、上でいう3つ目の思いやりの部分、心根が優しい人が多いと思います。単純に一緒に働きたい人となると、そういう人が多くなりますね。ビジネスは良くも悪くも戦いですから、それが正解かどうかはわかりませんが…永遠のテーマですね。

── 今後のビジョンはありますか?

「イベントプロデュースを通して社会を元気にする」。20代の頃、会社にビジョンなんていらないと思っていたんですが、今は人のため社会のためだと本気で思っていて。うちのメンバーに対しても繰り返し伝えています。

ただ20代のうちは、「まずは自分」と思っていてもいいかもしれません。まずは一身独立。自分自身が立たないことには、人を支えることもできませんから。「もっと大きな仕事をやりたい」とか「お金儲けしたい」とか。それが歳を重ねるにつれて変わっていけばいいと思いますね。

イベントは「社会のための健康ドリンク」のようなもの

── イベントプロデュース業界についてお聞かせください。

イベントって本来楽しいものですから、もっと世の中たくさんあればいいと思っているんです。社会全体のための健康ドリンクだと思っているので、コンサートやスポーツだけじゃなく、商品の発表会から地区のお祭りまで、人が目的をもって集まる機会がもっといっぱいあればいいと。

── コロナ禍を経て、やはりオンラインが盛り上がっていますか?

そうですね。オンラインのほうにシフトしてきました。

これまでリアルでイベントをやったことない人たちからも、「オンラインでこういうことやりたい」とご依頼をいただくことも多かったです。コロナ禍が契機となって大きなチャンスが生まれているとも感じています。正直、当初は我々もリアルイベントの代替だと思っていました。でもやっていくうちに「違うな」と。
新たなイベントの形としての様々な可能性を、オンラインイベントに感じてきました。

─ オンラインとオフラインの全く違うところ、難しいところってありますか?

「リアルがいい!」と思われる方はやはり多いんですが、プレゼンテーションのメッセージ性の強さやインタラクティブ性などは、意外にオンラインのほうが強いケースもあります。1,000〜2,000人もいる空間で手を挙げて意見するのって難しいものですけど、オンラインだとチャット機能などを活用してけっこう簡単にできるとか。オンライン化したことで、双方向性は確実に上がりましたね。

あとは、大きい会社の総会のようなイベントや、バーチャル空間でのオンラインイベントなどが増えました。オフラインでは難しい、イノベーティブで未来的な演出ができるので、いろんな可能性があると思いますね。今後は、リアルが復活し、リアルとオンラインでハイブリッドになってくるはずです。

「近き者よろこび、遠き者来たる」求められる人材は身近な人を助けられる人

── 業界のトレンドや流れを踏まえて意識されていることはありますか?

トレンドというわけではないですが、常に意識しているのは「クライアントを元気にすること」に尽きます。自社の成長や差別化ということではなく、イベントを通じてどう取引先と良い関係を構築するか、社員さまのモチベーションを上げるか、新製品を社会で認知させるかを結構本気で考えていますね。そこだけブレなければいいと思っています。

── では、お客様の目線で一緒に考えられる人が業界で活躍できる人材だと?

そう思います。自分勝手な人は長く続かないですね。他人のために、どれだけ時間を割くことができるかが大事ではないでしょうか。個人的に大切にしていることがあって、それは自分の周囲の人たちに喜んでもらうこと。上司や同僚にまず喜んでもらえると、その半径が広がり、やがて向こうから仕事がやってくる。先のことばかりを考えてもあまりいいことがなくて、まずは足元から。“近き者よろこび、遠き者来たる”ですよ。

あとは上司に完璧を求めないことが大事ですね。自分が部下として完璧なのかと問うてみれば、決してそんなことはないはず。互いに助け合うという視点があれば、気持ちがずっと軽くなると思います。

── キャリアアップを目指す方にアドバイスがあれば教えてください。

僕がここまでうまくやってこれた理由を分析すると、モチベーションが高かったというより、育ちも高校も大学も九州だったことがあると思います。東京に古くからの仲間がいなかったので、やることもなく、新卒の頃から土日でも喜んで台本を書いていました。昔なじみがいつもそばにいたら甘えてしまっていて、今のようにはなっていなかったと思いますね。時には周りに上手く頼りながら、”何事もやり遂げる力”をつけていくことが大事です。

── どうやってモチベーションを持続されていたんでしょうか。

基本的にあまり下がることはありません。親の教育の影響もあるかもしれません。いくつになっても「お前なんかを入れてくれる会社のことをありがたいと思いなさい」と教えられていたせいかも。その都度、「けっこう売れっ子なんだけどな」と思っていましたが(笑)、調子に乗らずに済んだのは親の教えのおかげかもしれません。

── 20代の人が今日からタフになるためにできることとは?

たとえば、本屋に行って気になった本を10冊ぐらい買ってみてください。オンライン・ITが主流のいまだからこそ、言葉の表現力が重要になる面があると思っていて。ステージの用語辞典でもいいし、海外で使える交渉力の本でも、ジャンルは何でもいいです。

勉強するというより、専門知識をとりあえず頭に入れておくだけでもいいと思うんです。全部覚える必要なんてないです。今なら中古などで100円や200円で買えてしまうわけだから、そこを削ってしまうのはもったいないですよね。

── 光畑さんにとっての人材を一言で表わすとどのような表現になりますか。

一緒に大きいことをやる仲間、ですね。

── では、エンタメとは?

“永遠になくならないもの”ではないでしょうか。

形は変わっていくでしょうが、人にとって大事な営みだと思います。人はつながりを求めるし、刺激を、感動を求める生き物だと思っています。だから、エンタメは決してなくならないんです、永遠に。

〔取材は2020年10月15日、株式会社グローバルプロデュースにて〕

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