株式会社CyberHuman Productions 芦田直毅取締役・株式会社サイバーエージェント大木拓郎プロデューサーが語る これからのクリエイター集団と求められる人材像
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『エンタメ人』がお届けする、エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。エンタメ業界へ転職を考えている方たちへ向けて、若手時代の苦労話から現在の業界動向までを探っていく。第21回は、広告業界における最先端技術の活用事例を取り上げる。今回は、サイバーエージェントグループ内で、特にその領域に取り組まれるお二方にご登場いただいた。(編集部)
芦田 直毅(あしだなおき)
株式会社サイバーエージェント/ CyberHuman Productions
2013年サイバーエージェント入社。インターネット広告事業本部でプランナーを経て、2017年6月、3DCGを活用した動画広告クリエイティブ制作に特化した株式会社CGチェンジャーを代表取締役として設立。2019年8月より株式会社CyberHuman Productionsの取締役に就任。 現在は、インターネット時代の広告クリエイティブの「新しい作り方を創る」べく、3DCGクリエイター×デジタルコンテンツの最高のチームづくりに邁進。
大木 拓郎(おおき・たくろう)
株式会社サイバーエージェントFutureLive Group
2015年にサイバーエージェント入社、クリエイティブディレクターとして様々な広告を企画・制作。2020年6月、新組織FutureLiveグループを設立。新しいテクノロジーを用いて、広告だけでなく、エンタメ、アート、カンファレンスなど様々な分野でDXしたクリエイティブを創出。
技術と人間の融合によって、広告の作り方を刷新してきた
──CyberHuman Productionsは「『技術(Cyber)』と『人間(Human)』の融合を目指すクリエイター集団」という理念を掲げられてますね。まずは、こちらについて教えていただけますでしょうか。
芦田取締役:「技術(Cyber)」と「人間(Human)」についてですが、もともとサイバーエージェントグループでは、インターネットの広告代理業を営んでいます。
広告といっても、顧客ごとに嗜好性も違いますので、マーケティング施策によっては、理想としては100人いれば100通りの広告を、見せたいとなる事があります。
そうした状況に対して、AIや3DCG技術を活用し、それぞれのユーザーに最適な広告を見せる方法で、事業運営をしてきました。まず、「技術(Cyber)」はそこからきているものですね。
また、広告に出てくる人間も必ずしも実在の人間である必要はないという発想から、CG技術を使って実在する人間をスキャンしてクリエイティブに反映するなど、広告の作り方自体を刷新する方向へ進化させようと挑戦しています。
つまり、「技術(Cyber)」と「人間(Human)」を融合させていく試みを続けてきたわけです。私自身は、新卒で当社に入社して、その後、子会社の設立なども経験しましたが、こうした取り組みの延長として、今、CyberHuman Productionsで事業をやっています。
従来、広告を作るには撮影の工数や過程がとても多く、制作現場のハードな働き方も変わらず…こうした作り方には無理があると感じていました。そのため、技術を活用して「作り方をつくろう」と取り組んできました。
そんなタイミングで、コロナ禍によって、制作現場に多くの人が集まれなくなりました。そうした中でも、技術を活用することで、より良い広告制作ができるのではないかと。この状況を新しいチャンスだと捉えています。
──コロナ禍である2020年11月、大人数でのロケが困難な状況でも、CGにより色彩豊かな映像制作が可能な「LED STUDIO」を、西五反田・カムロ坂にオープンされましたね。
芦田取締役:巨大なLEDウォールを導入し、CG映像とLEDライティング技術を組み合わせたこの技術は、ドラマ版「スター・ウォーズ」など、ハリウッドではすでに使われていて、ここ数年、海外ではトレンドの技術でした(編集部註:2020年10月当時、これらサムスン電子製で最先端の巨大LEDウォールとLED照明を常設しているのは「LED STUDIO」が日本初)。
映画に使われるバーチャルプロダクション(編集部註:現実のセットなしで、バーチャル空間の中で実写の撮影とほぼ同じように撮影を行える技術)というこの技術を広告戦略に活用できると、他に類を見ない広告制作が可能になります。
実際にこの試みを始めてみると広告業界以外の、音楽業界などエンタメ系の人たちもスタジオに足を運んでくれるようになりました。広告の新しい戦略のひとつの形と考えていましたが、広告以外の活用幅もあると感じています。案ずるより産むが易しで、思いもよらず意外と面白い結果になりましたね。
大木プロデューサー:芦田さんが言うように、コロナ禍で撮影が難しい状況を受けて、「LED STUDIO」が従来のロケを代替する意味もありますが、それだけでなく、そもそも今までと全く違う表現ができるわけです。
「スピーディに」「安価に」できるということのみをアピールするのではなく、そもそも全く違う新たな表現ができるということの価値について、これからも考えていきたいと思っていますね。
──バーチャルな映像作品の制作エピソードなどもあれば教えていただけますか。
大木プロデューサー:私たちは、そもそもバーチャルやオンラインでやる価値・意義を創出する事を目指したい思っています。例えば当社では、ポルノグラフィティさんのライブ演出をしました。LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)というホールで行われましたが、コロナ禍の状況もあり、定員の半分しかお客様に入場していただくことができませんでした。
ポルノグラフィティさんの場合、全国にファンがいますが、全国をツアーで回ることができず、1か所のみのプレミアムライブを行うことになりました。そのため、ライブを観ることができないお客様も出てきてしまいます。そこでオンラインでライブを配信することとなったのです。
この時はオンラインでライブを観るお客様の方が多く、DVDのような感覚で観てもらうとリアルタイムの価値が損なわれてしまうので、AR(拡張現実)を使って、実際のライブ映像の中にCGを使った演出を行いました。
生で観ている人はARの演出を観ることができませんが、画面越しに観ている人は、曲に合わせてARの演出も含めて観られるようにしたのです。
ライブに来られないお客様には、ライブ当日にポルノグラフィティさんへのメッセージをCGの中で送れるようにし、届いたメッセージが集まると蝶に変わるという演出を行いました。蝶は会場の中を飛び交い、「ライブ会場にいる人も配信を観ている人も繋がっている」ということを表現できたと思います。
このように、リアルとのハイブリッド演出で、オンラインだからこそ観られるものを、どのようなジャンルでも実現できればよいと感じています。
株式会社サイバーエージェントの社風と、デジタル技術の融合「CA BASE AWARD 2020」について
──また、御社の社内イベント「CA BASE AWARD 2020」(編集部註:サイバーエージェントグループを代表するエンジニア、クリエイター、プロジェクト、プロダクトを発表する技術者のための表彰イベント)についても教えてください。こちらでもCG技術を活用した演出を行われたそうですね。
大木プロデューサー:サイバーエージェントグループには「他者を称賛しよう」という文化があり、活躍した社員を表彰する目的で、以前は会場を貸切って全社員が参加できるイベントを開いていました。
コロナ禍の中、最初はフルリモートでZoomを使用して開催しようという話でしたが、単なるビデオ会議のような形では称賛を表現することが拍手一つとっても難しいと感じたのです。3DCGによる特殊効果や、社員のコメントに反応して会場にGoodマークが湧き上がる演出など、技術を活用して表現しました。
──「活躍した仲間を称える」という企業文化を体現されたのですね。社内の文化や社風について、他にも教えていただけますか。
大木プロデューサー:みんないい意味でガツガツしています(笑)。
芦田取締役:新しいことに挑戦したがりますよね。
大木プロデューサー:ガツガツといっても自分本位という意味ではなく、目の前のクライアントに対して成果を挙げて、その結果を社内で認められたいという雰囲気が強いです。
広告の最先端を担うお二方のキャリアについて
──お二方のこれまでのキャリア・経歴について教えてください。
大木プロデューサー:新卒で映像制作会社に入社し、大手広告代理店を経て、3社目がサイバーエージェントグループです。前職は営業でした。よりクリエイティブなことがしたいと感じていた時、サイバーエージェントから声をかけてもらったという経緯ですね。
最初は、インターネットに関する知識も少なく戸惑いましたね。ただやみくもに広告運用をしても、顧客には見てもらえません。たくさんの人に広告を適切に届け、喜んでいただくために、定量的な分析をし、効果を再現できる広告制作をするようになりました。
例えば、YouTubeを見る人向け、Facebookのユーザー向け、twitterのユーザー向けなどプラットフォームによって顧客属性も違いますし、いつ、どのようにそれらが配信されるかによっても違ってきます。それらを分析し、広告の効果が出るようなクリエイティブ制作をするようになったのが大きな変化だったと思います。
芦田取締役:私は新卒でサイバーエージェントグループに入社後、広告事業を担当するなどして、大木さんとも一緒に仕事をしていました。
もともと広告代理店事業をやろうと思って入社しているわけではなかったのですが、いざ取り組んで見ると、広告の面白さを感じると同時に、広告制作の作り方に疑問を感じました。珠玉の一本を作りきることが大きな価値を生む事もあります。ただ特定のケースにおいては、100人に100通りの広告を見せていくという方針もある中で、現状の制作体制やワークフローでは実現が難しいと感じました。
同時に、この体制や作り方を変えた方が、個人的にも世の中的にも面白そうだと思うようになり、広告制作のセオリー自体の刷新をする仕事がしたいと考えましたね。
セオリーが変われば、新しい時代を作ることができます。同時に、会社もさらに拡大していき、新しい表現を作っていける…と考え、今の事業に至っています。
チャレンジ精神を持って社会を変えていく意思を持つ人材を求めている
──お二方が採用したい、一緒に働きたいと思えるのはどのような人物ですか。
大木プロデューサー:まず、広告を作品と捉えるスタンスの人は少し違うかなと。自分が良いと思うものを作るというのは、広告の本質からずれてしまいますし、「自分を表現したい」「自分の作りたいものを制作したい」だけで動いてしまう人は、あまり広告制作には向いていません。
その逆に広告制作の面白いところは、商品やサービスを売るためにどういう手段があるのかをアイデアで解決していけることです。
とはいっても、広告もクリエイティビティを発揮する場所ではあるので、バランスは難しいところではありますが、クリエイティビティとビジネスの両方を考えられる人は向いていると思います。
そして、広告を配信するプラットフォームも日々進化していますよね。新しいものへの感度が常に高く、それを使って新しいことにチャレンジする気概のある人と働きたいです。
芦田取締役:目まぐるしく変化する世の中を俯瞰しながら、「こういう世の中にしたい」という意志を持ち続けられる人が当社の環境を楽しめるのではないかと思いますね。
大木プロデューサー:そうですね。それがうちの社風に近いかもしれません。いわゆる出世街道を歩きたいという人よりは、ビジョンを持ったり、変えたいという意思を持ったりする人の方が会社との相性が良いでしょう。言われたことをやるだけの人は埋もれてしまいますから。
──最後に、お二人にとってエンタメとは何でしょうか。
大木プロデューサー:来年には自分の考えも変わっているかもしれませんが、ちょっと先の世の中に向けて、何を問いかけたいかを表現できる仕事がエンターテインメントだと思います。
芦田取締役:まず前提として、エンタメそのものの素晴らしさはいつの時代も普遍的ですが、それらをどう感じるか、HOWの部分はどんどん変化しています。
5年前には、サブスクで音楽が定額料金で楽しめる時代になるとは誰も予想していませんでした。でも、今は当たり前になっています。
映画を楽しむ、ライブを楽しむということ自体は変わりませんが、このように時代の変化によって「どう楽しむか」は変わるのです。このHOWの部分を作るのが、自分たちがやっていくべき仕事だと思っています。自分にとってのエンタメは、そのような存在ですね。
〔取材は2021年3月3日、サイバーエージェントグループ本社で〕