double jump.tokyo株式会社 CEO 上野広伸氏が語る 「業界の課題に対する解決策とNFTの本来の価値」

 

エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。
エンタメ業界へ転職を考えている方たちへ向けて、業界の課題や今後の展開などを探っていく。
第34回は、長年のノウハウを活かし、ブロックチェーンゲーム事業を中心にNFTに関する様々な事業に取り組む企業を取り上げる。(編集部)

プロフィール

上野広伸  (ウエノ ヒロノブ)

double jump.tokyo株式会社 CEO
株式会社野村総合研究所にて数々の金融システムの基盤構築に参画。
前職の株式会社モブキャストにて執行役員、技術フェローを歴任し、プラットフォーム及びゲームサーバーの設計・開発、スマートフォンゲームの開発基盤の構築を指揮。
2018年4月にdouble jump.tokyoを創業。

NFTが生まれた頃から蓄積されたノウハウが独自の強み

―最初に、貴社の事業内容について簡単に教えてください。

主な事業内容はブロックチェーンゲームの開発・運用ですが、その他にNFT事業を展開されている会社に対して、様々なソリューションを提供しております。
特にブロックチェーンゲームに関しては、弊社で制作するだけではなく、大手のゲーム会社を含め、協業スタイルでの開発・運用にも取り組んでおります。

ブロックチェーンゲームはビジネスモデルとしても技術としても、まだ社会に浸透していない段階なので、NFTの黎明期からノウハウを蓄積してきた弊社の強みを活かし、協業させていただいている形です。

最近は市場も盛り上がり、競合も増えてきましたが、NFTを長年にわたって運用するというところに関してのノウハウは他社との差別ポイントだと思っています。

―double jump.tokyo株式会社創業の経緯をお聞かせください。

創業のきっかけとなったのは、2017年末にNFTの祖ともいえる「CryptoKitties(クリプトキティーズ)」が発表されたことです。これはブロックチェーン技術を応用して猫のデータを仮想通貨で売買・収集するというゲームです。

また、ちょうどその頃のゲーム業界では、海外の企業がソーシャルゲームの市場に参入し始めた影響で、一気に業界の技術が進化し、ユーザーが作品に求めるクオリティーも非常に高くなる、という現象が起きていました。
そのため、1つの作品に数十億円規模の開発費が投じられるような状況が生まれ、クリエイターが率先して小さな規模でゲームをリリースするということが、ビジネス的には難しくなっていました。

そんな状況下で「CryptoKitties」の存在を知ったことで、非常に面白い概念だと衝撃を受けました。何故ならこのゲームならば莫大な費用を投資せずともアイデアで勝負することができ、小規模でもビジネスとして成り立つと、NFTを使ったゲームコンテンツ開発に未来を感じたためです。

このように、当時の社会的な環境と1つのゲームと出会ったことがきっかけで、2018年4月に弊社を創業しました。

―貴社で取り組みたいと考えている今後の事業展望についてお聞かせください。

NFT市場が徐々に大きくなってきたので、マスアダプション(大衆に普及すること)に挑戦したいです。そのために、みんなが知っているようなIPを使用したり、より使いやすく分かりやすいコンテンツを提供したいと思っています。

最近はマスメディアなどでもNFTに関わるニュースなどが頻繁に取り上げられた影響で、NFTという言葉自体の認知度は上がっていきましたが、NFTを知っている人の中で実際にNFTを持っている人の割合は10%程度に過ぎません。

実際にNFTがマスアダプションしているという状態にはまだまだ遠い現状なので、さらにNFTを広げる必要があると思っています。

そのために、弊社としては
・NFTのマスアダプションを可能にするコンテンツを作る、もしくはそのようなコンテンツを作っている企業をサポートする
・弊社のサービスでマスアダプションを促進させる
ということを実現したいと思っていて、またそれが弊社の存在意義に繋がると思っています。

NFTとは映画のパンフレットのような思い出になるもの 

―NFT市場やブロックチェーンゲーム市場においての課題は何だと思われていますか。

先ほども触れたように、NFTの認知度が低く「どう使えばよいのかよく分からないもの」と認識されている点がやはり大きな課題だと思っています。

どんな技術にも当てはまることだと思いますが、どんな機能があるのかを全て理解してから使い出す人はあまりいません。
実際に社会全体に浸透しているスマートフォンも、手にして使い出してから、どんな機能があるのかを詳しく知ったという人が多いのではないでしょうか。

NFTの認知度が低いことが課題ではありますが、解決策は認知度を上げることではなく、まずNFTを持ってもらう、使ってもらうことだと思っています。
そういう意味では課題と解決策は一致しておらず、まずは触れてみる機会を増やすということが非常に重要だと思います。 

―多くの人がNFTを持つようになると、どのようなことが起きると思われていますか。

価値のあるデジタルコンテンツは全てNFTになっていくと考えています。
デジタルコンテンツをNFT化する、またNFTを所有する、ということへのハードルがどんどん下がり、価値のあるデジタルコンテンツをNFTにしない意味が無くなるためです。

例えば、ライブのチケットや限定グッズなど、シリアルナンバーを付与することに意味があるようなものは全てNFTになっていくと思います。

このように、資産にする価値や記録する意味があるものは、全てNFT化される社会になっていくのではないのでしょうか。

また、ここでいう「価値」は価値=価格ではありません。
NFTは映画のパンフレットのようなものです。人がパンフレットを買う時、「それを読みたい」という気持ちも勿論あると思いますが、多くの場合は「良い映画を見たから記念にパンフレットを買おう」という気持ちだと思います。アーティストのライブ会場で購入するタオルやTシャツや旅行先で写真を撮ることと同じで、楽しかった思い出を形にしたいということです。

もちろんデジタル上のデータより、リアルなグッズの方が良い場合もありますが、リアルなグッズは劣化してしまったり、保管する場所に困るという問題があります。一方、NFTは劣化もしませんし、保管場所にも困りません。

NFTを持っていればもちろん価格という意味の価値が上がることもありますが、一般的には、思い出を残したり、記念にするという用途で一般的に使われるようになると思っています。 

―NFTは思い出やその時の気持ちを残すために使うことができるんですね! 

そうですね。そのため、持っていたNFTの価格としての価値が上がった場合も自分の利益になることを第一に考えるのではなく、自分よりもその「価値」を感じてくれる人に渡し、その対価として享受する、という営みがNFT市場の本来の姿だと思っています。

デジタルファッション市場が現実のファッション市場を上回る

―エンタメに興味を持たれた理由やきっかけについてお聞かせください。

ゲームと共に育ってきたので、元々ゲームという分野にはとても興味がありました。
ここ10年ほど、ゲーム以外の様々な分野にゲーム的な要素や技術を取り入れるゲーミフィケーションという動きが盛んになっていますが、それら全てを含めてエンタメ業界というのであれば、小さい頃からエンタメ業界にも興味はありましたね。

また、若い頃から重ねてきたエンジニア・プログラマーとしての経歴は、デジタル×エンタメの世界で活かせると思い、エンタメ業界に参入しました。
これまでの興味や経験が全て繋がって、今に至っていると思います。

―NFTの業界で、上野様が注目している技術やコンテンツ、サービスなどがあれば教えてください。

注目しているのはデジタルファッションです。
ハイブランドのアパレル企業が続々とNFT市場に参入してきているため、今後は現実世界のアパレル市場よりもデジタル上のアパレル市場の方がはるかに大きくなると思っているためです。

近年、コロナウイルスによる影響で、Web会議などネット上でコミュニケーションを取ることが格段に増え、また最近はFacebook社がMeta社になったことにより仮想空間であるメタバースが注目されています。
メタバース空間においてアイデンティティー=アバターなので、何を身に着けているかということが、アイデンティティーそのものになります。

そのため、デザインだけではなく機能性に優れているということが求められる現実世界のアパレル市場と異なり、デジタル上のアパレル市場では、機能性は関係なく、他者と差別化できるようなハイセンスなデザインが求められます。

実際に現実世界では、ハイブランドが業界の象徴となるようなファッションを発表しながらも、一般的に売れるのは、普段から身に着けられる、あまりエッジの無い服でした。
一方、デジタル上の世界では、パリコレで見られるようなデザインの服が売れます。さらに、先ほども触れたように、デジタル上の服は劣化せず、かさばらないので、クローゼットの容量を気にする必要もありませんし、自分の体形やTPOを気にせず、自由にアイデンティティーを表現するものを購入し、着ることができます。

そうすると、作り手も買い手もより自由な表現を求めるため、新しいファッションが続々と生まれ、デジタル上のアパレル市場が今後急速に拡大していくと思っています。

―よりクリエイティブな業界になっていくということですね。

そうですね。そのため、デジタルファッションの世界では、一般の方が作ったファッションブランドや個人商店でもセンスや独自性があれば、ある日突然人気になり、有名ブランドになるということも起き得ると思います。 

また、ファッションショーやショールームなどの形も変化していくと思っています。
例えばメタバース上のファッションショーではその場で購入し、観客席で着用するということも可能になります。このように、次々と新しいイベントの形なども生まれていくのではないでしょうか。

個人が強みを伸ばしていくことが社会の発展に繋がる

―Web3.0関連の業界において、どのような方が活躍すると思われますか。

今まで弊社に関わってきた方を見てきた中にはなりますが、この業界に2年間コミットできる人は確実に伸びると思っています。

間違いなく言えることとして、Web3.0の業界というのは、あらゆる業界の中でトップクラスに成長率が高いと思っています。さらにアップダウンが激しい業界でもあるので、好調な時も不調な時も、フラットな気持ちで2年間コミットできる人材は確実に成長しますし、これから先のキャリアにおいても非常に良い経験だと思います。

―会社にとっての人材とはどのようなものだとお考えでしょうか。

新しいものを生み出す力そのものだと思っています。
そのため、個人的な想いではありますが、それぞれが持てる才能を最大限活かすということがこの社会にとって一番重要であり、良いことだと思っています。

弊社のメンバーに限らず、この社会で働く方には「最も才能を活かせるところに自分の身を置いてください」と伝えたいですね。 

もちろん好きなことがあってそれを仕事にすることも素晴らしいですが、大人になって「好き」は変化するものだと気づいたので、個人的には得意なことに軸足を置くことをお勧めします。 

私も好きなことはどんどん変化していますが、得意なことはあまり変わっていないと思います。自分の「好き」を仕事にするために転職する、またはポジションを変えるということも面白いと思いますが、個人のキャリア形成という点から考えると、得意な分野に軸足を置くと上手くいく可能性が高いのではないでしょうか。

―最後に、上野様にとって、エンターテインメントとはどのようなものでしょうか。

エンターテインメントは人生であり、人自体がエンターテインメントだと思っています。

人の営み自体が面白いものなので、アートや映像作品を通して、作り手側の思いや制作の経緯が見えた時はとても感動します。他の人は気付いていないような細かい部分に気付くことができたときは特に嬉しいですし、そこから人の営みを想像することも好きですね。

将棋においても、将棋が好きな人はAI同士の勝負を見たいわけではなく、プロ棋士の戦いを見るために将棋の試合を見ます。
今はAIの精度も高くなっており、AI同士の勝負も単純にレベルの高い戦いにはなりますが、そこに人と人の戦いに求める面白さはありません。将棋が人気のある理由は、将棋というゲームに人生を懸けた人と人の戦いを見たい、その戦いを通して人の人生を見たい、という気持ちが人間の根本にあるためだと考えています。

また、現代の社会になくてはならないSNSにも同じことが言えると思っていまして、「いいね」1つとっても、離れた場所にいる誰かの行動、営みです。「いいね」を通して人の趣向や人生が伝わってくることが面白い部分として社会に浸透したのではないのでしょうか。

このように、人間の才能や人間の人生がエンターテインメントであり、それがエンターテインメントの面白さにつながっていると思っています。