株式会社ココロドル・密本雄太社長が語る、映画予告編業界で働く醍醐味と求められる人材像

 

『エンタメ人』がお届けする、エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。エンタメ業界へ転職を考えている方たちへ向けて、若手時代の苦労話から現在の業界動向までを探っていく。第21回は、映画の予告編映像制作の会社を取り上げる。(編集部)

プロフィール

密本雄太(みつもと・ゆうた)

株式会社 ココロドル 代表取締役社長

デザイン・映像系専門学校の2校卒業後、ロサンゼルスにて映画予告編演出面での修行を積む。独学で始めたカメラでは多数のコンテストで入賞や金賞を受賞。映画予告編などの広告企画を得意とし、企画〜撮影・編集までクリエイティブに関わる全てのワークフローに精通し、各所から協力を要請される。
※取材当時の情報になります

「映像を通し、ココロオドル体験をお届けする」

──まずは、株式会社ココロドルの事業内容とビジョンについて教えていただけますか。

事業内容ですが、映画の予告映像(編集部註:映画館の本編上映前や、街中での大型ビジョンなどで上映されるもの)の制作事業をメインとして、他にも映像制作と撮影を行っています。

ビジョンについては、「株式会社ココロドル」という社名でも表現した「映像を通し、ココロオドル体験をお届けする」というものです。人の心を躍らせ、ワクワクさせる映像に自分自身が影響を受けてきたため、会社の方針としても決まり事にとらわれず、自由に制作物を世の中にお届けするということをビジョンに掲げ、スタッフ一同が映像制作に取り組んでいます。

──ホームページを拝見しますと、映像制作を「作品」ではなく「広告」としてとらえると書かれていますね。

映画作品の予告編は、本編である映画が面白いか、面白くないかを判断する最初の基準です。ここに「作品」という意味合いを持たせてしまうと、本編を魅力的に感じていただく広告としては成り立たなくなってしまいます。

例えば、バナー広告を出す際においても、バナー広告自体の芸術性を高めればよいという考え方ではなく、バナー広告には見る人にとって必要な情報を掲載するわけですよね。
作品を、より多くのお客様に届けるという目線をもって仕事をしていく意味で、当社は便宜上クリエイター集団として活動しておりますが、自分たちを「エディター」と呼んでいます。

映画の予告編制作は日本において狭き門だった

──どのような経緯で、密本社長が映画の予告編制作に携わるようになったのでしょうか。

そもそも自分の好きなSF映画などの予告編を見て、心踊らされた経験が多くあります。

ですが、みなさんと同じように、もともとは映画の予告編映像を専門で制作する会社があるなんて知りませんでしたが、その存在を知って仕事にしたいと思ったのです。

ですが、当時(10代後半)は、日本に専門の会社が全国で5社程度しかなく、未経験で入社するのは難しいという状況でした。

また、職人気質の世界でもありますので、師匠に弟子入りし、勉強していく中でディレクターに昇格するというキャリアプランが一般的でした。

そんな折、自分が通っていた専門学校の友人の親戚が、アメリカで映画の予告編の映像制作を行っているのを知りました。ぜひ住まわせてほしいと頼み込み、奇跡的にロサンゼルスでハリウッド映画の予告編を制作する現場で働くことになりました。

ロサンゼルスで学んだ予告編制作の方法論について

──とても貴重な機会を得られたのですね。ロサンゼルスで学んだ時のことについて教えてください。どのように技術を習得されたのでしょうか。

最初に映画の予告編の作り方を教わりましたが、決まったテンプレートはありません。

その人が几帳面なタイプか、感情的なタイプなのかで作り方は変わってくるそうです。自分は感情的な方なので、例えば映画本編の中で印象的なシーンを見つけ、そこに持っていくまでにどのようなストーリーを作ればよいのかを考える、という方法で制作を進めていました。几帳面なタイプであれば、また作り方は変わる、といったものでしたね。

──エディターとして影響を受けた方を何名か挙げるとしたらどなたでしょうか。

1人目は株式会社バカ・ザ・バッカの池ノ辺直子さん、2人目は株式会社ガル・エンタープライズの小江(おえ)英幸さんです。このお二方が作られる映画の予告編はロサンゼルスにいた時から大好きでした。アメリカの感覚で作るものと、日本人の感覚で作るものは違うので。このお二方からは、ものすごくインスピレーションを受けていました。

映画の予告編制作が必要になる時期を的確に読み、事業を成長させていく

 

──帰国後、会社を作るまでの経緯についても教えてください。

ビザの関係で、一時帰国することはありましたが、トータルで3~4年ほどロサンゼルスに滞在していました。

本格的な帰国後は、フリーランスのエディターとして活動をスタートしました。映画の予告編を制作したかったのですが、改めて、日本の映画予告編の制作業界はとても狭いことを思いしらされました。映画の配給会社は映画の予告編を制作する会社をすでに決めており、そこに入る余地はありません。

フリーランスから、会社としての活動に移っていったのは、「法人としか取引しない」という方針の企業も多かったり、フリーランスと比較すると法人の方が圧倒的に信用されやすいことがきっかけでしたね。

──映画の予告編制作の仕事は、その後どのようにして受注されましたか。

アメリカ滞在中に制作した映像は契約が厳しく、自分のポートフォリオとしては持ち出すことができません。また、アメリカでの制作実績のみで日本では実績がなかったため、なかなか予告編制作の仕事を受注できませんでした。ですが、アメリカで当時制作した映画の予告編が、日本でも公開され始めたため、そうした作品を通じて、配給会社に認知していただくことができました。

映画の配給会社の方が、映画の予告編制作を検討する時期というのは、業界にいればわかります。そのタイミングでアメリカにいた時制作した予告編をもとに、スキルや経験をアピールしました。結局、日本で初めて映画の予告編制作の仕事を受注するまでには2年かかりましたね。ひとつ良い予告編を制作すると、評判が独り歩きしてくれるので、そこから良い循環を生み出せたと思います。

映画の予告編制作の流れはどうなっているのか

──なかなか知られていないことだと思いますので、ぜひ予告編制作の流れについても教えていただけますでしょうか。

まず、打ち合わせをしてコンセプトを確認し、ターゲットを絞り込みます。そして本数ですが、意外にも多い時はひとつの映画で10本以上の予告編を制作しているのです。これは映画館用、テレビ用、SNS用など媒体に応じて使い分けるためです。

次に映画本編を何度も見ます。オフライン編集、オンライン編集と続き、クライアントがOKを出すとナレーション担当を決めて、スタジオでナレーション録音を行います。その後「初号」と呼びますが、関係者全員で完成した予告編を映画館と同じ環境で観るところがゴールになります。

下積み時代は映画が好きなのは当たり前。仕事に”お金”ではなく”やりがい”を求める人を重要視

──今働かれているスタッフの皆さんはどのようにして御社を志望したのですか。また、どのような人材を採用されましたか。

全員、映画関係の専門学校を卒業していますが、映画の専門学校に通っている人でも映画の予告編制作会社があるというのは卒業間際に知り、そこから探し始めて当社を志望するという流れが多いですね。中途入社のパターンももちろんあります。

上司と部下の関係が上下関係というより師弟関係となるため、基本的な礼儀や言葉遣いなどがきちんとできていない方は採用しません。例えば、”わかりました”と”かしこまりました”や”お疲れ様です”と”ご苦労様です”等の使い方を理解していないなど。

また、本気で採用されたいと思うならメールで応募書類を送るのではなく、郵送した方が望ましいでしょう。印象も良いです。郵送の場合、師弟関係における誠意を感じ取ることができます。

また、面接には業界的に個性の強い方がいらっしゃいますが、映画の予告編業界としては真っ白な状態で来てほしいと思っています。なぜなら、過度に個性を出したりすることは、映画の予告編を制作する上では方向性が異なるためです。

──仕事に対して熱意がある人かどうかや適性はどのように見分けているのでしょうか。

第一に仕事に”お金”ではなく”やりがい”を求める人。

面談していて気になるのは、「映画が大好き」と安易に口にして、それを志望動機にしてしまう人です。まず映画が嫌いな人なんていません。映画が好きで仕事にしたい気持ちはわかりますが、好きなことを仕事にするというのはそんなに簡単なことではないため、入社後にギャップが大きくなります。実際にも「思っていたのと違う」という方々が多くいらっしゃいます。映画が好きだけれど、そのうえでひとつのことに没頭できる人に興味を惹かれますね。

求める人物像としては、素直でまっさらな方です。吸収力があるとなおよいです。自分のこだわりが強すぎるとクライアントの要望をかなえることができないため、まっさらな気持ちというのはすごく大事だと思います。もし、自分の個性を出したいのであればテレビCMやエンターテインメント系のクリエイティブの仕事をお勧めします。

──ココロドルで働くことの魅力とはどのようなものでしょうか。

最大の魅力は、自分の制作したものが全国に広告として配布され、映画館やCMで見ることができるということです。加えて、映画本編のエンドロールに名前がクレジットされるわけです。

自分の制作物を世の中の人に届けられるというのは、大きなやりがいに繋がるでしょう。

私の作った予告編映像が、映画のプロモーションで電車と駅をジャックした経験があります。同じような経験をした際、これを感慨深い思いで見つめられる人は、一生この仕事を天職として続けられるでしょう。

自分のエゴを入れすぎてはいけない。そして、面倒くさがってはいけない

 

──スタッフの方に指導される時の方針について教えてください。

映画の予告編は自分がメインで制作しますが、必ず他のスタッフ全員にも作らせます。お客様にはお見せしませんが、経験として作らせるということです。

制作物に対してフィードバックを行いますが、必ず伝えているのは「自分のエゴを入れすぎてはいけない」「面倒くさがってはいけない」ということです。

スタッフが、90秒という限られた尺の中で、テンポ感のある映像をうまく作れないケースもあるのですが、何か作業の一部に面倒くささを感じて作っているから、そうしたことが起こり得ます。「例えばここのカットは流れ的に少しだけおかしいけど、もう提出期間で時間がないしこれでいっか…」など、”妥協”してしまうのです。この時、制作した本人に「違和感を感じた?」とたずねると、違和感があると思ったけど変えていないことがほとんどだったりします。最初のうちは”出来た”という達成感で満足してしまうのです。

「自分が作ったものに少しでも違和感を感じたのであれば、それは他人が見ても違和感があります。それをお客さんに見せますか?」ということを耳にタコができるほど言っています。

これは私の経験からです。私が独り立ちできたのも、自分の精一杯を突き詰め、自分が納得し、「これ以上変えるところがない」という状態まで持っていくことを意識し始めて、大きな成長へとつながったのです。

また、先ほどもお伝えした通り、自分がクリエイターだと思っていると、どこか自己満足できる作品を制作してしまいがちです。映画の予告編は広告なので、そのような作品を制作しないよう指導しています。

ココロオドル環境・人間関係を作り円滑な仕事を

──ココロドルの組織作りで大事にしていること、心掛けていることはなんですか。

一番大事にしているのは人間関係です。集まって何かをする職種ではないため、どうしてもコミュニケーションの回数というのは少なくなってしまいます。しかし他人に無関心というのは良いことではありません。そのため人間関係がこじれないよう注意を払っています。

また、人間関係がこじれないようにするため、ストレスチェックは欠かさず行っています。

例えば、スタッフの悩みでパソコンのスペックが足りずに仕事に支障が出ると相談された場合、新しいパソコンを支給するよう検討します。他にも働く環境が良くなかった場合、逐一話し合いを行うようにしています。その過程もあってか、今まで社内の人間関係が仕事に大きく影響を及ぼしたことはありません。

おもしろくない職場でおもしろい制作物を作っても達成感がありません。「ココロオドル」が大事なビジョンなので、そのような環境にしたいと考えています。

映像クリエイターとしての技術だけ身につけても生き残れない世界

──映画予告編制作の業界における、ここ10年の変化と会社の今後の動きについて教えてください。

映画の予告編制作業界は、10年前には技術的にはまだアナログも健在していました。今ではほぼほぼデジタル化していますが、昔はテープで納品していたものです。

また映画のデータは、DCPという専門の形式で納品をする必要がありますが、以前には映画を上映するために35mmフィルムが標準的に用いられていましたが、撮影やポスト・プロダクションなど製作におけるデジタル化が進んだことと並んで、映画産業の縮小に対する合理化の流れのため上映のデジタル化が推進され、35mmフィルムに替わるものとしてDCPが劇場上映のスタンダードとされるようになりました。完全デジタル化、仕事もリモートで完結できるようになったのが昔との大きな違いだと感じています。

そしてディレクターにまで昇格しておけば、この先も技術的に大きく変わることはないと感じておりますが、求められるのはマルチな才能、特にコミュニケーション能力です。現在では自宅で手軽にあまりお金もかけず、3Dモデルやエフェクトを誰でも作成できるようになりました。そのため映像クリエイターは増えましたが、コミュニケーション能力や、専門ノウハウだけは師匠について学んだり、お客様に揉まれて身に着けたりしないと培われません。これは対人からしか学べない大きなスキルです。インターネットでは絶対に学べません。人から人へ技術の継承。この業界は師弟に近いのもその理由からだと思います。

映像クリエイターのスキルだけを身に着けている人は将来的に淘汰される可能性がありますが、ただやはり、スキルだけあってもダメで、お客さんとの信頼関係に勝るものはありません。もしディレクターを目指すのであれば、コミュニケーション能力は必須のスキルだと思います。

──最後に、御社が考える「映画の予告編制作」とは何でしょうか。

「エンターテインメントの最先端」です。街中で一番大きなディスプレイで流され、予告編によって映画の興行成績さえ決まるでしょう。同時に映画の評判や印象も左右するでしょう。あなたが映画を観るか観ないかの判断をする時、ほとんどは広告ではないでしょうか。先ほどの指導方針の話につながりますが、自分の”面倒臭い”が少しでも入ったものなんて絶対にあってはならないことです。映画の予告編制作というのは、時に人の人生を変えるほどのパワーを持っています。その責任の重さを受け止めてちゃんとした仕事ができるか、というとても素晴らしく、厳しい世界です。

〔取材は2021年2月22日、ココロドル株式会社にて〕