United Future Creators Inc. CEO HiDE Kawada氏が語る 「日本の音楽出版の課題と業界で求められる人材」

 

エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。
エンタメ業界へ転職を考えている方たちへ向けて、エンタメ業界企業の事業内容や業界の課題や今後の展開などを探っていく。第37回は、音楽業界を支え、日本の音楽を世界に広めていく事業に取り組む企業を取り上げる。(編集部)

United Future Creators Inc.
CEO HiDE Kawada

1980年生まれ東京都練馬区出身。2000年にアメリカ・テキサスへ移住し、大学卒業までの約5年半を現地で過ごす。大学在住中にDJを始め帰国後も活動を続けるが、音楽ビジネスを学ぶためavexへ就職。海外戦略を担当したのち、同社グループの音楽出版社へ異動。そして、2012年に独立し現UFC社を設立。所属作家と共同で楽曲をプロデュースし、日本や韓国、欧米の様々なアーティストへの楽曲提供を行っている。

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音楽産業のパラダイムシフトに追いついていない法律の問題点

―― まず、貴社の事業内容について教えてください。

弊社は音楽出版、楽曲制作兼作家・アーティストのマネジメント会社です。元々は海外・国内の作家のマネジメントや楽曲制作がメインでしたが、現在はレコード会社が行うような原盤制作の委託業務も手掛けております。

また、ALISA UENOをはじめとしたアーティストやクリエイターのマネジメント、ブランディングも行っており、今後はより大きな事業にしていきたいと思っています。

  ―― 「音楽出版」という単語が聞き慣れず…。どのような事業なのでしょうか…。

音楽の著作権ビジネスに特化した出版社です。作家のIP(知財)をマネージメントし様々な役割を果たす仕事になります。

元々は楽譜を出版する会社でしたが、今では音楽のアイディア(楽曲)を様々な形で出版し、著作権の利用と開発、及び作品登録や印税分配等の管理を行う会社になっています。

―― 初めて知りました…。音楽出版の面白さについてもお教えいただけますでしょうか。

 「曲が生まれてくる瞬間に携われること」がいくつかある中の音楽出版業務の醍醐味かと思います。

私達が制作する楽曲は、自分達の子供のような存在です。その子供のような存在の楽曲がどのように成長していくのかを考えるのが一番の面白さではないでしょうか。完成した楽曲の未来を思い描いていつもわくわくしています。

最近はアーティストの方々と共に楽曲制作をする機会も多く、育ての親と楽曲を生むところから携われることは非常に嬉しいですし、とても貴重な体験が出来ていると思っています。

―― 音楽出版においての現在の課題はどのようにお考えでしょうか?

大きく分けると二点あります。

一つは法律面「著作権法の利用制限における定義」です。

私達が生まれてからの音楽というものは、レコード、カセットテープ、CD、MD、iPodなど含めて全て複製を行ったり、端末にコピーをして視聴をするという方式をとっていました。

ただ、2006年から音楽ストリーミングサービスが始まり、音楽の視聴方法は大きく変化をしました。ストリーミングサービスは、サーバーにアクセスして音楽を視聴しますが、この方法の場合「どこにもコピーを作っていない」という特徴を持っています。これは今まで100年以上続いてきた音楽のビジネスモデルとは全く異なる、新しく生まれ変わったビジネスモデルなのです。

また、現在はSNSで音楽の流行も生まれている時代ですし、今後はインターネット上の仮想空間などでも音楽は広がっていくでしょう。このように音楽の視聴方法や利用されるシーンは時代と共に変化をしています。

それに法律が追いついていないのです。

現在のストリーミング時代やSNSでの利用などを想定していなかった著作権法のまま、無理矢理当てはめているような状況です。その結果、利用制限がかかったり、プロモーション利用として扱われてしまうこともあります。

著作者の権利をしっかりと守りつつ、今の時代に適合した法律へ変えていくことでより多くの人に曲を聞いてもらえる機会が増え、そして、制作者側にもきちんと印税が分配されるようになります。

何をもって音源の公表とするのか。そして2次利用、3次利用が次々と行われていくプラットフォームの中で、それらと共存していく自由利用についての再定義をしなければいけないと感じています。現在の利用方法に合わせた法律に根本からシフトする必要があるということです。

日本独自のシステム「代表者出版社制度」の課題点

―― もう一つの課題についてもお聞かせいただけますでしょうか。

先ほど説明した著作権法の問題については、日本だけでなく各国が取り組んでいることでもありますが、もう一つの課題というのが「日本独自のシステム上の課題」なのですよね。

日本には「代表出版社制度」という、著作権管理団体が制定した日本独特のシステムがあります。これは楽曲を使用したい人が使用しやすくするために代表出版社を決めて、その1社に著作権を管理させようとする制度です。

一方世界では、楽曲に携わった1人の作家につき1社の音楽出版社が登録管理できるシステムが通常です。例えば4名で曲を共同著作した場合、1曲に4社別々の出版社が作家ごとに存在することも可能です。そして、その出版社は母国以外の世界中のパートナー達に登録情報を共有して、各国で同一作家の楽曲を一元的に管理できます。

しかし、日本では4名で共作している作品であっても、1社の音楽出版社しかその曲の登録を行えないのです。その結果、同一作家であるにもかかわらず、楽曲ごとに異なる出版社が登録を行っているという事態が起きています。つまり、日本では、1社の出版社が1人の作家の曲を管理するということが難しいのです。

日本国内ではこの制度で問題がなくても、海外の場合は著作権を持っていないと整合性が取れなくなってしまい、海外のパートナーと連携を取ることが出来ません。例えば弊社が「マネジメントはしていますが、著作権は一部しかありません」となると、海外のパートナーから見た時にどの音楽出版社に所属しているのか不明な作家と見られてしまいます。

これは、日本人アーティストやクリエイターがグローバル展開をしたいと考えたときに、システム上ですでに弊害が起きてしまっていると言える一つの課題です。もちろん代表出版社制度があることでスムーズに曲を使用でき、ヒットにつながった事例も多数あります。

ですが、これからは日本人クリエイターやアーティストのグローバル展開を後押しするためにも、作り手の立場で著作権の取り扱いができるように、作り手にフォーカスしたシステムが構築されることを望んでいます。

―― 次に、音楽出版の今後について、どのようにお考えでしょうか。

 曲をただ管理するだけではなく、所属クリエイターやアーティストのブランディングをして、よりクリエイティブに制作し、管理楽曲の利用開発をしっかりと行う。当たり前のことを当たり前にしっかりと行うことが大切だと考えています。

具体的には3つ挙げられます。
1つ目に、ITテクノロジーの流れを把握しながら時代に合った楽曲管理方法を構築していくこと。

2つ目に、グローバル化の加速に合わせて、適切な市場拡大を図っていくこと。

最後に1番重要なのが、各国の優秀なクリエイターと繋がり、様々なマーケットのトレンドを理解して、新しい作品作りを行っていくこと、だと思います。

国内のアーティストが国際的に活動しやすい仕組み作りを

―― HiDEさんが最近注目されているサービスやコンテンツについて教えてください。

 最近注目しているアプリを三つご紹介します。

一つは「Auddly」という音楽制作者用のアプリです。最近はコライト※1という形式をとることが多く、制作に様々な人が参加することになります。

その際、誰かどのように楽曲制作に関わったのがわかりにくくなることがよくありましたが、Auddlyは、誰が何をやったか、その過程できちんとクレジットして、簡単に制作過程の共有ができるアプリなのです。

また、マスタリング※2機能もサービスとして付いているため、出来上がった曲をそのままマスタリングして配信までできるようになっています。ちなみに世界No.1プロデューサーと言っても過言ではないMax Martinさんも、このAuddlyをサポートしています。

※1 複数人が集まり、楽曲の共同制作を行うこと
※2 制作した曲を聴きやすいように調整を行う楽曲制作の最終行程のこと

次に「Audius」というアプリです。ブロックチェーンを使用した音楽のストリーミングプラットフォームで、インディーズアーティストが楽曲をアップロードでき、アーティスト同士でライブすることもできるようになっています。

このアプリの面白いところは、アップロードされた曲が、毎週のランキングの上位に入賞すると、$AUDIOという暗号通貨が得られる仕組みになっている点です。

最後の三つ目は、「OurSong」です。

台湾のストリーミングサービスKKBOXのFounderの方とアメリカのアーティストのJohn Legendさん等が賛同し、新しく立ち上げた音楽コンテンツに特化したNFTマーケットプレイス。

これは、クリプトネイティブの方以外にも優しいプラットフォームで、通常通貨で取引が可能なマーケットプレイスになっています。

―― では次に、HiDEさんご自身が今後力を入れていきたいことをお聞かせください。

事業としては、国際的な音楽制作事業を強化したいと思っています。

日本での活動はもちろん、これまでも楽曲提供を行っている韓国や欧米のアーティストとのコラボも徐々に始めています。今後は、音楽制作をする人が国際的に活動しやすいプラットフォームを作っていきたいと考えています。

例えば、アジア全般の音楽出版社やクリエイター、アーティストとコミュニケーションを密に取りながらパートナリングしあい、楽曲制作をする。欧米のコネクションも繋げながら、協力者全員で世界的なヒットを目指す。

最近のアフリカや南米のアーティストやクリエイターの方々もとてもカッコ良いですし、国際的に様々なパートナーとともに制作事業を進めていきたいと思っています。

個人的な部分で言いますと、最近DJを再開しました。17年以上活動は途絶えていたのですが、定期的にプレイさせていただける場所は決まってまして、私個人として非常に楽しみにしています。

また、キャンプとサウナは今後もずっと続けていきたいですね。いずれ、キャンプとサウナと音楽を融合させたイベントをやりたいと思っています。

心を動かし、一人ひとりが思い描く未来を実現できる原動力を提供する

―― では、ここからは人材についてのお話をお伺いできればと思います。
音楽業界において、
どのようなマインドやスキルを持った方が求められると思われますか。

音楽を仕事にする場合は、1人でも多くの人を感動させられる作品に携わることが重要ですので、良質な感受性を持てる方が求められると感じています。

想像力を働かせて小さなことにも感動を覚え、他人の気持ちを汲むことができるマインドです。また、双方で気持ちを理解し合えるコミュニケーションもとても重要な要素だと思っています。

スキルに関しては、自分自身でセンスを磨くスキルが大事だと思います。アンテナを張って時代の変化と時事の流れを察知し、常に新しい音楽や文化に触れている方は、自身でセンスを磨きやすいのではないかと思います。

―― HiDEさんが一緒に働きたいと思う人物像についてお聞かせください。

一番大事なのは、夢に向かってポジティブに生きていくマインドです。

常に前向きに主体性を持って行動して、チームワークを大事にする。そして、感謝の気持ちをしっかり伝えられる。そのような当たり前のことを当たり前にできる方と共に働きたいと思っています。

制作力や英語力、営業力などのスキルは努力すれば後からどうにでもなるものだと思っていますので。なので、弊社は業界未経験者でもマインドがあれば実際に採用をしています。

―― 会社にとって人材とは、どのようなものだとお考えですか。

 人材は会社にとって大切な資産だと思います。

会社と社員は共に学び、成長していく関係だと思っていますので、会社の成長も社員の成長なくしては生まれないと考えています。

会社は社員に投資します。自身の夢や目標を成し遂げるために、会社を舞台として自己実現を目指してもらう。それが会社にとっても大きな資産になっていくと考えています。

―― では、最後の質問です。HiDEさんにとってエンタメとは?

一言で言うと「心を豊かにする力」だと私は受け止めています。

弊社は2022年6月15日に創業10周年を迎えました。10年間会社を経営してきて、社員、作家、アーティスト、クライアント、他にも様々な人達と関わってきました。この場をお借りして、皆様に感謝を伝えたいと思います。いつも本当にありがとうございます。

そして今後の10年間、今まで関わってきた方々や、これから出会う方々とどう過ごしていこうか、ここ2〜3ヶ月ずっと考えていました。その中でふと思ったのです。

「私にとって音楽って何なんだろう」

私は音楽に魅了されて今の仕事をやっています。自分自身が音楽にすごく影響を受けて感動し、感銘を受けてきました。人は笑ったり、悲しんだり、喜んだり、時折怒ったり……心が揺さぶられて動かされるじゃないですか。

私にとってはそれが音楽だったのです。感動した後は、いつもの景色が今までとまったく違うように見え、勇気が出てきたり、決意が固まったりします。エンタメによって心が豊かになり、エンタメが前に進む原動力になっているのではないか、私にとってエンタメとはそんな存在だと思います。

UFCでは

「心を動かし、一人ひとりが思い描く未来を実現できる原動力を提供する」

ということをミッションとして掲げています。この目的をもって日本のみならず、アジア、世界の音楽産業を盛り上げていきたいと考えています。