株式会社DONUTS 執行役員・ゲーム事業部長の安藤武博氏が語る「エンタメ業界での夢追いと、キャリアと哲学の創造的な歩み」

エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。
エンタメ業界へ転職を考えている方たちへ向けて、業界の今後の展開や成長性について探っていく。
第40回は、スクウェア・エニックスでの長い経歴を経て独立し、
DONUTSでプロデューサーとして活躍しているゲーム業界の重要な人物だ。(編集部)

プロフィール

株式会社DONUTS
執行役員 安藤武博

1998年、同志社大学卒業後、エニックス(現スクウェア・エニックス)に入社し、数々のゲーム制作に携わる。
2015年9月にスクウェア・エニックスを退社後、ゲームを「つくる」「つたえる」「まぜる」、ゲームDJとして、ゲーム&総合エンタメサイト「シシララTV」を立ち上げ、シシララの代表取締役社長をつとめ、2019年1月10日よりDONUTSの社外取締役。
2019年12月9日、同社執行役員に就任。

スクウェア・エニックスから独立し、DONUTSでの新たな挑戦

―― DONUTSに入るまでのご経歴について教えてください。

1998年に大学を卒業後、当時は別々の企業であったエニックス(現在のスクウェア・エニックス)に入社し、17年半にわたりゲームプロデューサーとして活動。2015年10月には独立し、「シシララ」という会社を設立し、フリープロデューサーとしての道を歩み始めました。
「シシララ」で新しいゲームプロジェクトに携わる中で、DONUTSの優れたゲームディレクターと出会いました。2019年9月には、「ブラックスター -Theater Starless-」というゲームを協力して制作し、これがきっかけで同年12月にDONUTSのゲーム事業部長に就任。その後もDONUTSでの経験を積みながら、現在に至っています。

―― 学生時代にゲーム業界を目指したキッカケは何がありましたか?

元々私はおもちゃを作りたいと思っていました。おもちゃ、飲み物、乗り物など、誰にでもわかるもの、特に子供たちが喜んでくれるようなものが作れることに魅力を感じていたのです。ですが、当時のおもちゃ業界は求人が少なく、ハズブロやマテル、レゴなどに問い合わせても思うように進みませんでした。

その頃、セガとバンダイの合併が発表され(※)、セガバンダイに興味を持ったのが「ゲーム業界」との出会いです。OB訪問やアピールを試み、最終的にエニックスに入社が決まりました。おもちゃを作りたいという思いから、ゲーム業界に足を踏み入れることになりましたが、原点は、誰にでもわかりやすく、シンプルに楽しんでもらえるものを作る仕事に就くことでした。

※1997年1月、当時「セガサターン」を発売し、ゲームのプラットフォーマーだったセガと玩具メーカーのバンダイの経営統合がニュースとなったが、4ヶ月後には合併を解消した。

―― ゲーム会社に入社して最初の成功体験はどのようなものでしたか?

最初の成功体験は、入社してから2年後に訪れました。私は商業的な成功という意味では遅咲きのタイプでしたが、エニックスでの新人としての経験は大きなものとなりました。通常、ゲーム業界では見習いプランナーからスタートし、実績を積んでリードプランナー、ディレクター、プロデューサーと出世していくのが一般的ですが、当時のエニックスは新卒でもプロデューサーになるチャンスが与えられるという珍しい人事方針を取っていました。

エニックスのプロデューサーという立場は編集者のようなもので、制作会社を見つけてくる役割を担っていました。大学を卒業した22歳の時に、初代プレイステーションのゲームでオリジナルゲームのプロデューサーに就任。これは非常に珍しいことで、その後も22歳でプロデューサーになった人はいないのではないでしょうか。

デビュー作として「鈴木爆発」という変わったゲームを作り、24歳の時にリリース。会社に与えられたチャンスを真摯に受け止め、精一杯努力した結果、実際に認めてもらえたという最初の成功体験となりました。

キャリア成長の秘訣は、トライアンドエラーの繰り返し

―― キャリアがまだない時の挑戦は、大きなプレッシャーが伴いましたか?

いいえ、当時は自分を過信していてプレッシャーは感じていませんでした。自分が特別だと思い込み、プレッシャーよりもむしろ、自分が作ったものが皆に喜ばれると信じ込んでいました。私が生み出すものは必ず売れるとさえ思っていました。

ところが、現実はそうではなく、失敗や赤字などさまざまな困難に直面し、商業的な成功に至るまでには長い時間がかかりました。当時は自己過信でプレッシャーを感じなかったものの、今振り返るとやり方は無謀で、多くの人に迷惑もかけてしまったことを反省しています。仕事を任せてもらっていただけで、成功の裏には、適切なサポートをしてくれた人々がいたからこそだと理解しています。

―― キャリアの中での成長はトライアンドエラーの繰り返しによるものなんですね。

私のキャリアにおいて、トライアンドエラーは非常に重要な要素でした。私はほとんどが失敗の連続でしたが、絶えず新しい挑戦に取り組み続けていました。DONUTS GAMESには、「失敗を恐れず挑戦せよ」という言葉が壁に掲げられています。これは事業部全体で共有している「必勝10の心得」の一つですが、非常に前向きなメッセージなんです。トライしない限りエラーは生まれず、エラーがあるということは、それだけ挑戦している。この考えを基本に、絶え間なく新しいことに挑戦し続けています。

もしも誰かが「失敗したことがない」と言えるなら、それは真の意味では一度もチャレンジしていない人だと思います。失敗を繰り返した経験は、多くの挑戦を経てきた証です。そのため、DONUTS GAMESでは、挑戦を積極的に奨励しています。

―― 他に安藤さんが仕事をするうえで大切にしている価値観はありますか?

私の持つ哲学の一つは「ゲームに人生を捧げよ」という考え方です。これは『進撃の巨人』(作者:諫山創)の「心臓を捧げよ」と同様、ゲーム制作に全力を注ぎ込む姿勢を指しています。ゲーム制作には膨大な時間と努力が必要で、常に全力で取り組む必要があります。特にオリジナルゲームにこだわっているDONUTS GAMESでは、完成までに何年もかかることもあります。音楽など他の制作と比較しても、ゲーム制作はより複雑で緻密なプロセスを要し、一朝一夕で作り上げることはできません。

また、ゲームはヒットするかどうか予測できず、成功が保証されているわけではありません。過去に作った多くの作品の中には商業的に成功しなかったものもありますが、それでも人生をかけて面白いゲームが作りたい。この哲学が私たちの仕事を続ける原動力となっています。

インプットの大切さと人との出会い―DONUTS GAMESの標語と仕事への影響

―― クリエイティブな現場では、チームとしての共通認識が大事になりそうですね。

「必勝10の心得」には、「人に会え・本を読め・旅に出ろ」という標語もあるのですが、ゲーム制作や仕事において良い結果を得るためには、他者との出会いが重要であることを指しています。ジェームス W.ヤングの『アイデアのつくり方』でも、草を食べない牛が美味しい牛乳を出せないなどと例えられていますが、アイデアを生み出すためにはまずインプットを積む必要があります。特に、人との出会いが変化を生む上で必要不可欠であり、人との関わりがなければ変化も起こらない。コミュニケーションが苦手な人でも、オンラインやオフ会、ゲーム上でのコミュニケーションなど、人との出会いが最も重要なインプットであると思いますね。

私の中学時代の同級生に「ドラゴンクエストウォーク」(スクウェア・エニックス)のプロデューサー柴貴正がいるんですが、旅の中で多くの人に出会い、その経験が彼の仕事に影響を与えていると感じています。例えば、キリマンジャロ登山に行って現地の人たちと交流している様子などを見ていると、これらの経験が様々な場所を訪れるゲームのアイデアにつながり、プレイヤーに楽しい体験を提供できるのだろうと思います。

―― 安藤さんが言及した“標語”について、チームのカルチャーとしてどの程度根付いていると感じていますか?

まだ完全には根付いていないと思います。会社の標語や方針が自然と浸透していれば、特に言及する必要はありませんが、現段階ではそういった状況には至っていないため、積極的に浸透させるよう努めています。

例えば、チームメンバーが自由にアイデアを出し合い、好きな標語と組み合わせたポスターのコンペティションを行いました。もちろん業務ではないので自主的な取り組みになりますが、多くの参加があり、それぞれが自発的に様々なポスターを制作。入賞したポスターが標語とともにオフィスに飾られました。

さらに、第二回のコンペティションでは、京都オフィスのメンバーのポスターが受賞しました。現在、私たちは複数の拠点に分かれてプロジェクトを進めていますが、それぞれの拠点で歴代の受賞ポスターが飾られています。このようなイベントが徐々に馴染み、新しい文化の形成に寄与することで、チームの日常のやり方として自然に取り入れられつつあると感じています。

大事なことはメンバーにもしっかりと伝える必要がありますが、私たちはゲーム会社なので、アウトプットにも楽しさを大切にしています。このスタンスが、ポスターコンテストなどの活動にも反映されています。
▼ポスターの一例

まだ何者でもない、なんとかしてやろうと思っている人が必要。

―― とても楽しく、いきいきと仕事をされている印象ですが、安藤さんがDONUTSで働いていて、特に魅力を感じていることはどんなことですか?

DONUTSの魅力は、創業者の「未来は予測不可能なので、やりたいことを追求すべきだ」という信念を全社で共有している点です。与えられた仕事や役割をこなすという企業も多い中、DONUTSでは制約なく、自分がやりたいと思うことに挑戦できる環境があります。創業者自身も実践していることですが、指摘するだけではなくアイデアを共有し合い、より良い方法を提案し、模索するプロセスがDONUTSの特徴であり、とても良い環境です。

―― 会社が大きくなると、経営者が変わることでリズムも変わりがちですが、DONUTSでは「やりたいことをやる」文化が維持されているんですね。

DONUTS GAMESはまだまだ駆け出しのチームですが、ゼロからのスタートで自由な環境でやりたいことを実現しています。やりたいことができる一方で、まだ何もない状態からのスタートでもあり、向き不向きが明確なチームだと思います。既存のものを伸ばすだけでなく、新しいものを創り出すことに焦点を当てているので、「ファイナルファンタジー」や「ドラゴンクエスト」がない状態のスクウェア・エニックスのようなものです。ゲーム業界には既に素晴らしい作品が多く存在する中、それに匹敵する体験を提供することを目指しています。

―― そんなDONUTS だからこそ、できることも沢山ありそうですね。

DONUTS GAMESの特徴として、音楽の力を組み合わせたゲームが多いことが挙げられます。音楽とキャラクターの力を活かすことで、リアルな体験やイベントを通じてゲームを広げていくことができます。DONUTSがゲームだけを土台にしている会社ではないからこそ、我々は独自の方法で、他ではできないことを実現できています。例えば、公式生放送やリアルライブのチケット抽選、オンラインライブの配信などを自社サービスであるライブ配信&動画アプリ「ミクチャ」を使って社内で行っています。

また、オンラインライブ配信において、カメラの切り替えをプレイヤーの任意で行える新機能を導入しました。これは外部プラットフォームでは実現不可能なことです。DONUTSでは多角経営の中、様々な事業に取り組む人々がいることで、ユニークな化学反応が起こります。それぞれが異なる事業に専念し、緩やかに繋がることで、他にはできないことが実現可能になります。

―― 最後になりますが、安藤さんがDONUTSで求める人材像をお聞かせください。

DONUTSの魅力は、やりたいことを追求し、多様な事業に携わる人々が交流する環境にあります。これが普通では実現できないアイデアを生み出す原動力となっています。仕事においては、自分に任せてもらえることが増え、新しい挑戦に取り組む楽しさがあります。この環境は新しいことに挑戦することを楽しむ人にとって適していますが、既に組織が整った大企業で特定の役職を極めたいと考える人には、他の選択肢が適しているかもしれません。DONUTSのゲーム事業部には、まだ何者でもない、だからこそなんとかしてやろうと思っていて、そこに魅力を感じる人がいま必要だと思っています。

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*本記事に記載された内容は取材時2023年11月9日のものです。
その後予告なしに変更されることがあります。