Graffity株式会社代表・森本 俊亨氏が語る xR技術がエンタメ業界にもたらす未来

 

『エンタメ人』がお届けする、エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。エンタメ業界へ転職を考えている方へ向けて、若手時代の苦労話から現在の業界動向まで伺っていく。第19回は、ARシューティングバトルの開発を行う会社を取り上げる。(編集部)

森本 俊亨(もりもと・としあき)
Graffity株式会社 代表
1994年生まれ。慶應義塾大学理工学部情報工学科にて機械学習を研究。ABEJA経営陣直下でのAI事業開発、PKSHA Technology AIアプリケーション開発、ドワンゴAIラボにてDeepLearningを利用した動画の次時刻予測の研究開発を経験。その後、2017年8月に同社を創業。

日本発ARシューティングバトルを米国でリリース

── まず、御社の事業内容について教えてください。

ARシューティングバトル「Leap Trigger」を提供しています。

当社は「ARで、リアルを遊べ。」をミッションに、AR技術を使ったエンタメを通して、人と人とのつながりを豊かにすることを目指しています。

「Leap Trigger」は、スマホを使って体を動かしながら楽しむ、ARのシューティングバトルです。友達や遠くにいる人など、複数人がオンラインで一緒にシューティングを楽しめます。日本でのサービス開始はまだですが、2021年3月にアメリカでリリースしました。

──「Leap Trigger」を日本からではなく、まず海外で展開された理由は何でしょうか?

まず、当社がそもそもグローバルを目指している会社であるということです。グローバルに通用するサービスをつくるというところから事業が始まっており、国内から展開という意識は特にありませんでした。

また、日本とそれ以外の国のゲームカルチャーの違いも理由の1つです。日本では、協力ゲームが主流ですが、海外では対戦ゲームが非常に好まれる傾向があります。

僕たちが作ろうとしていたのは、対戦型のARシューティングバトルだったので、日本から始めると日本向けのプロダクトに仕上がってしまい、海外で受け入れられるプロダクトから乖離するのではないかという懸念がありました。

そのため、アメリカから始めてアメリカで最適化することによって、グローバルスタンダードなプロダクトが作れると考え、まずアメリカでリリースしました。

──「Leap Trigger」がクラウドファンディングを開始して、わずか1日で目標達成されたことを知り、大変驚きました。この反響は想定されていましたか?

クラウドファンディングは初速がとても大事です。1日で達成できるように、マーケティングをして臨んだことが実を結んだ部分はあると思いますが、それでも予想以上の反響をいただいたと思っています。

── ARシューティングバトルに着目された経緯や背景をお聞かせください。

僕たちは「Augment Daily Life」をビジョンとして掲げ、AR(拡張現実)という体験を通して、人と人とのつながりを豊かにしたいと考えています。ARによってコミュニケーションの形を変えたい、アップデートしていきたいと。

ただ、創業当時から「スマホAR×コミュニケーション」をコンセプトにプロダクトを作る中で、やはり実現の難しさに気づきました。

スマホARは、スマホを通して周りを見渡すことになります。これをTwitter、Facebookアプリを開くぐらいの軽さで行ってもらえればいいのですが、結構難しい。ARを使ったアプリケーションを体験するには、強い動機が必要です。

さらに、AR体験をしながらのコミュニケーションは、対面で目の前の空間を共有しながら行うことに良さがあるのであって、わざわざスマホを通して会話なんてしませんよね。

しかし、今でも、友達と集まって、スマホを通して一緒にすることがあります。

それはゲームです。

ゲームなら、AR体験を通したコミュニケーションの新しい形が生まれるのではないかと考えたのです。

そこで、世界初ARシューティングバトル「ペチャバト」を日本でリリースしました。累計16万ダウンロードを突破し、ARシューティングバトルという新しいゲームジャンルが確立できそうだという肌感覚をつかむことができました。

そこでの実績を基に、今回の「Leap Trigger」をつくり込んでいき、アメリカでのリリースに至りました。

ARグラスが「ポストスマホ」といわれるワケ

── 今後日本では、xR技術の普及はどのように進むでしょうか?

VRでいうと、2023年頃には約4000万台の普及が見込まれていますので、コンシューマーゲームと同等ですね。いわゆる、ミリオンヒットが出るという領域になってきます。

ARの場合、ARグラスに関しては2025年にようやく普及するかなというイメージ感を持っています。

なぜかというと、今のARグラスは有線でスマホとつなぐ、あるいは特定のコンピューティングマシンとつなぐというもので、接続方法に課題があります。Bluetooth接続が可能になり、5Gが普及すれば、ARグラスはいわゆる「ポストスマホ」になっていくといわれています。

これは、この10年で起こる話で、2025年頃がターニングポイントになるのかなと。ARグラスという観点でいうと、普及はまだ先かと思っています。

一方、スマホARだと、デバイスでARが動くようになってきていますので、何かしら良いアプリケーションが今後出てくるのではないかなと思っています。また、82%のユースケースがゲームですので、基本的にはゲームを中心に伸びていくと僕たちは捉えています。

── 今、お話にもあった5Gですが、ARと非常に相性がいいと聞きました。

5Gの特徴は、ARと非常に相性がいいと思います。

5Gには3つの特徴があり、1つ目が遅延の低減、2つ目が通信速度の向上、3つ目が同時接続台数の増加です。

まず、ARはリアルタイム性が求められるので、遅延の低減によって違和感がなくなっていくだろうと思っています。

また、アプリケーション提供側としては、頑張って通信容量を抑えているのですが、通信速度が向上するとダウンロードできる幅が広がるので、ARの表現をよりリッチなものにできるようになります。

最後に、同時接続台数の増加は、シンプルにマルチプレイが可能になります。例えば、100人のイベントで100人同時接続してARグラスを通して観戦するといったことも可能になります。

アフターコロナのエンタメ業界はどうなる?

── コロナウイルスの流行によって、今後のエンタメ業界にどのような変化が生じてくるか、またどのような需要が生まれてくるとお考えでしょうか?

コロナによって、対面でのエンタメというところは少なくなってきたのではないかなと思っています。対面のニーズがなくなってきて、オンラインで一緒にコミュニケーションをしながら楽しむというほうにシフトしていると。

例えば、クラブハウスやゲーム領域だと、「どうぶつの森」もその時期に流行りました。基本的に、モバイルゲームは右肩上がりになるかなと思っています。

オンラインで楽しむところが増えている状況ですが、コロナが収束すれば、コロナ以前の領域に戻ってくる、対面のエンタメが復活してくるだろうと僕たちは考えています。今は、オンライン領域で何かやりつつも、長期的に見たときの対面化復活に向けて、いろいろ仕込んでいくというところが一番やり方として楽しいかなと。

僕たちの事業でいえば「Leap Trigger」はオンラインでも対面でもプレイできます。今はオンラインでプレイしてくれる人が増え、コロナ収束後は対面でしっかりプレイする人たちが増えていく。そんなストーリーを考えています。

── エンタメテック(エンタメ×最新技術)の中で、森本様が注目されている技術やコンテンツはありますか?

今、注目すべきなのはAR・VR、そしてブロックチェーンだと思っています。

VRに関していうと、ゲームタイトル数はまだまだ多くありません。VRならではのゲームジャンルを開発・開拓して、新しいゲーム体験を作っていくというところが注目ポイントです。また、起業家としてもチャレンジのしがいがある領域だと思っています。

AR領域に関しては、ARグラス待ちというところではあるのですが、スマホARでも十分スマホゲームが普及してくると思います。どういうスマホARゲームが出てくるのか注目しています。ARグラスが普及すれば、ゲームだけではなく、スポーツ観戦やライブ鑑賞、街の散策などが楽しくなるようなアプリケーションがどんどん出てくると思います。

あと、ブロックチェーン領域ですね。ゲームで獲得したものが自分の資産になるゲームがあるように、NFT(非代替性トークン)を中心に今伸びています。
ゲームだけでなく、アートにおいても非常に親和性がありますし、ブロックチェーン、特にNFTを中心にエンタメは変わるだろうと思っています。

僕たちとしてはARが最も好きなので、AR領域が次のエンタメテックという領域の中でも注目されるように、ユースケースを作っていけたらなという想いがあります。

xR市場に求められる人材像とは

── 森本様が仮に今、就職前の大学生に戻ったとして、どのような業界・業種にチャレンジをしたいと考えますでしょうか?

僕は技術が好きなタイプなので、技術ベースで世の中を見ています。その中で引き続き注目すべきなのは、AI・AR・VR・ブロックチェーン・量子コンピューティング、あとはゲノムあたりだと考えています。まず、この中で自分の好きな領域を選び、技術としてキャッチアップして掘っていきます。

そして、自分が選んだ領域で圧倒的に素晴らしいと思えるベンチャーを探し、そこでインターンをします。なぜなら、そこで技術の領域と事業が理解できるからです。その上で、自分で起業するというのが僕のセオリーです。

今は学生であっても、しっかりとした知識さえあれば起業できる世の中になっています。ぜひ、日本からグローバルに起業をチャレンジしてほしいなと思っています。

── まさに森本様のキャリアプラン通りですね!次に、御社が求める人材についてお伺いします。

僕たちの会社はエンタメを好きな人が集まった組織です。謎解きやゲームはもちろん、ミュージシャンを目指している人など。さまざまなバッググラウンドを持つ、エンタメに詳しい人たちが集まっているARゲームの会社だと思っています。

繰り返しになりますが、僕たちはARを通して人と人とのつながりを豊かに、というところを目指している会社です。「ゲームが好き」「ゲームの開発をやってきた」「新しい領域にチャレンジしたい」という人にとっては、チャレンジできる非常にいい環境です。そういう方にお声をかけていただければ嬉しいです。

── メンタリティ部分ではゲーム、エンタメが好きな人ということですね。では、求められるスキルはございますか?

今募集しているところですと、Unityエンジニアでモバイルゲームの開発経験がある人ですね。どちらかというと、ARの開発経験よりも、モバイルゲームの開発経験が大きくものをいいます。モバイルゲームの開発をしていて、もうちょっと新しいことをやりたいなと思っている人にとっては非常に良い環境かなと。

あとプランナーですね。モバイルゲームのプランニングをしている人は、そのノウハウが活かせます。ARという新しいジャンルの領域で、自分の知識を実践したい、試してみたい、学びたいという人に向いていると思います。

それと、僕たちはグローバルを目指してる会社なので、エンタメをグローバルでやっていきたいという人にとっては、新しく刺激的な環境ですね。

── いわゆるxR市場、特にAR市場で、今後どのようなメンタリティやスキルを持つ人が活躍するとお考えでしょうか?

もちろん職種によりますが、xR領域は新しい領域なので正解がありません。ですので、試行錯誤ができて新しい領域で頑張れる人が活躍すると思います。大事なのは仮説検証力ですね。

── 森本様にとって、一緒に働くメンバーの方々はどのような存在でしょうか?

同じ方向を目指している仲間、同志ですね。

僕1人ではグローバルに通用するARのエンタメは作れません。非常に頼もしい仲間がいるからこそ、こういうチャレンジができている。そして、このチームだからこそ掲げたビジョンやミッションを実現できている。そう感じています。

一緒にやっている仲間として、たとえGraffityから退職したとしても、お互い支援し合ったり高め合ったりできるような仲間でありたいな、というふうに思っています。

── 最後に、森本様にとって「エンタメ」とは?

孤独から開放されるもの、と思っています。

自分時間がどんどん長くなってきて、「孤独との戦い」が21世紀の課題だと考えています。

孤独を感じると、人間は生きる価値を見失いがちです。

孤独を解決する手段として、さまざまなエンタメのコンテンツがあると思っています。エンタメは嗜好品なので、多くの人がそれぞれいろんなものを選べる。自分にフィットしたエンタメを楽しむ、友達と楽しむ、というような感じかなと。

人と人とのコミュニケーションをいろんな形で生みだすエンタメというものが、孤独の時間をいかになくせるか。
その領域を新しい技術などで、アップデートしたいなと思っています。

 

(2021年4月21日、オンラインにて)