株式会社ディネアンドインディー代表・鎌倉 圭氏が語る エンタメ混迷の時代を乗り越える技法

 

『エンタメ人』がお届けする、エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。エンタメ業界へ転職を考えている方へ向けて、若手時代の苦労話から現在の業界動向まで伺っていく。第5回は、タレント業界に注目する。

激変の渦中にある芸能界。タレントを抱える芸能プロダクションには今、どのような人材が求められているのだろうか?

玉城ティナはじめ人気女性アイドルを擁する株式会社ディネアンドインディー代表取締役を務める鎌倉 圭氏に、業界の現状について伺い、必要とされる人材像を探る。(編集部)

鎌倉 圭(かまくら・けい)
株式会社ディネアンドインディー代表取締役株式会社エスプロックス代表取締役。株式会社ニュースタッフプロダクション代表取締役。税理士法人フォーエイト 代表税理士。行政書士法人フォーエイト 代表行政書士。

2006年、税理士試験に合格し、音楽活動を本格的に開始。2007年にはアルバムをリリースし、レコード会社では、音楽プロデューサー、経理部長を兼任する。同年には、メモリーソング株式会社(現:株式会社エスプロックス)を設立。その後、複数の起業を経て、株式会社ディネアンドインディー」をグループ化し、代表取締役に就任。現在に至る。2020年12月には自著「ようこそ! フリーランス1年生 ぶっちゃけ知らないと損する税金と領収書の教科書」を宝島社より刊行。

税理士試験の合格とミュージシャンとしての成功を糧に、広告代理店を立ち上げるまで

── 鎌倉社長は、ご自身がミュージシャンとしても活躍されてこられましたね。エンタメ業界に興味をもたれたのは学生の頃からでしょうか。

学生の頃は、全然興味なかったですね(笑)。この業界に入ってからわかったんですけど、例えば沖縄の人は、芸能界に対してかなり前のめりなところがあるんです。でも僕は出身が長野で、一般に地方ではエンタメ業界自体が身近じゃないし、志す人が周りにいない。業界に興味がないわけではないけれど、人生と直結していないというか。

もともとは、建築家になりたかったんですよ。ところが当時不景気で建築士があふれているというニュースをたまたま見かけて、その業界に入っていくのはよそうと。そこで、税理士になろうと思って上京しました。親が不動産業を運営していて、税務署から苦しめられているのを目の当たりにしていたんですよ。税理士になって、税務署と戦う人間になってほしいという期待を背負っていたんでしょう。自分ではそんな気はさらさらなかったんですが、気づいたら目指していました。わりとスムーズに簿記検定に合格したので、税理士もすぐに受かるかなと思ったら、そこからが地獄でしたね…(笑)。

── 税理士試験の間にも音楽活動をされていたのですね。

はい、当時はストリートミュージシャン全盛の時代でもあって。税理士の試験勉強していると息が詰まるのでストリートに出たりして、趣味で音楽を作ってはいました。でもミュージシャンになりたいと思っていたかというと、そうではなかったように思いますね。

税理士の勉強していた時代に、レコード会社で経理のバイトをしていたんです。税理士の試験に受かったのを機に、「これからは経理部長として財務を見てよ」と打診されて。ミュージシャンとしてもグランプリをとっていたので「プロデューサーもやってみたら」と言われ、プロデュース業も兼務していました。

さらに、当時は大学院に通いながら、経理とプロデュース業を掛け持ち、さらにミュージシャンとしても活動していたというわけなんです。レコーディングして帰ってきたら大学のレポートを作って、事務所行って経理をやって。

── 寝る暇もないほどですよね…?

税理士に受かったり、ミュージシャンでグランプリをとったり、アドレナリンがとてつもない状態で。あまり寝なくてもいい日が2年間ほど続きましたね(笑)。

税理士試験に受かって、「税理士になるよ」ってお袋に電話したんですが、その1週間後にグランプリをとって、「やっぱりミュージシャンになるよ」って電話しました(笑)。

ミュージシャンとして活動して最初のアルバムができあがったとき、誰もプロモーションを手伝ってくれなくて…。このままだと思い出アルバムみたいになっちゃうなと危惧していた頃、iTunesが音楽業界を席捲していました。ラッキーなことに、当時、勤めていたレコード会社が、たまたまiTunesに音源を出すことができる日本に数えるほどしかない代理店のひとつだったんです。なので、僕はレコード会社の関係者としてiTunesのオフィスに出入りしていました。そして、自分がCDを発売するタイミングで、「今週のシングル」というトップページの枠で配信してもらえないかと代表の方に懇願したんです。そしたら、熱意が届いたのか、楽曲がよかったのか、選んでいただけることに。

当時、mixi(ミクシィ)が流行っていた頃で、iTunesとmixiが「mixiミュージック」でつながり、iTunesで聴いた曲がそのままmixiに情報が流れるようになったんです。たとえば「鎌倉 圭」で検索すると、めちゃくちゃ出てくるんですよ。今と違って、アーティストが聴き手にメッセージを送るってことは絶対にしない時代だったんですけど、曲を聴いた人のアカウントに飛べるようになっていたので「送っちゃえ!」と思って、メッセージを1週間ほど送り続けたんです。

すると次の週には、iTunesチャートで上位にランクインしていました。SNSがまだ「出会い系」と思われていた頃に、SNSを活用したプロモーションの可能性を垣間見て、新しい時代の到来を感じたわけです。その翌年に「モバゲータウン」を使ってアルバムをiTunesチャート1位にまで押し上げられるくらい、SNSを使ったプロモーションのノウハウがわかるようになると、他のアーティストからプロモーション支援依頼が来るようになって。そのうち、一般の会社からも依頼を頂くようになり、会社を立ち上げることにしました。

 

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堅すぎずやわらかすぎない、バランスのいいプロダクションを目指して

── その後、芸能プロダクションを始めたのはどのようないきさつからだったのでしょうか。

芸能系の事業は、まずお笑い芸能プロダクションの事業の譲り受けという形でスタートしています。税理士事務所の顧問先が事業の売却相手を探していたんですがなかなか見つからなくて。自分たちがやってみようということになったんです。でも、お笑い芸能プロダクションの仕事ってあまり儲からないんですよ(笑)。

あと、エンタメ業界って仕事の内容が「それ仕事なの?」ってことが多い。たとえば収録があると、やたらと人が多いじゃないですか。レコーディングひとつとっても、A&Rがいて、マネージャーがいて、歌のスタッフがいて、それぞれに「お付きの人」がいて、という具合に…。ふわっとした仕事が多い。

ほかの業界にいたこともあってか、そのあたりが気になっちゃうんです。いわばお堅い税理士業界とやわらかいエンタメ業界の中間くらいがいいと思っているんですよね。コミュニケーションを大事にしながらも、無意識にクールに見ている部分もあるというか。

求められているのは興味の幅が広い人、当たり前のことがきちんとできる人

── 今のタレントマネジメント業界で活躍しているのはどのような人でしょうか。

人が多いという話と矛盾していますが、タレントマネージャーになりたい人ってそんなに多くないんですよね。コロナ前後での変化も大きく、ステージに立つ機会がないなど、売り出し中のアイドルを取り巻く状況はとくに厳しくて。玉城ティナさんに関しては、そんなこともないですが(笑)。

それもあって、これからこの業界で活躍するには、ITリテラシーも必要で、AIなどの新しいことを取り入れなくてはいけない。一方で、コミュニケーション能力は相当高くないといけないし、ユーモアもなきゃいけないと思います。それでいえば、タレントと同じくらい才能が必要かもしれないですね。タレントと表裏一体になれるような存在が求められているような気がします。

── 御社の今後のビジョンについても教えていただけますか。

現在は、タレント事務所と広告代理店と税理士法人がメインですが、最近は飲食も手がけ、近々アパレルも始めるんですよ。いろんなことに挑戦しなきゃいけないと思っていて。今や、タレント事務所だけ、広告代理店だけ、税理士法人だけ、で成り立つ時代じゃないと思うんですよ。

レコード業界で、会社が潰れたり、全然違う業態になっちゃったりする過程を目の当たりにしてきました。終焉なんて、あっという間なんです。終わっていくときの怖さを知っているので、幅広くベットすることの必要性を痛感したことが、いまの事業の進め方に反映されている思います。たとえば最近、アイドルのコンセプトカフェを始めたんですよ。通常の活動ができないアイドルにとって、これがとても良いモデルになっています。そうやって新しいことにも怖がらずに挑戦し、だめになったものを速く切っていかないといけないと思っているんです。

── そんな業界において「こんな人いたらすぐにでも欲しい」っていうのはどんな人でしょう?

やはり、業界の経験者だといいですよね。業界に知人が多い人は即戦力になりますし。

でも、経験者じゃなくても、スカウトができる人はいいですね! めちゃくちゃ心が強くて明るい人に来ていただきたい! また、この業界ではネットワークを広げることが大事になってくるので、いろんな人に興味をもってやっていける人がいいでしょうね。ただ、ツテを広げようと前のめりになりすぎても困りますし、バランス感覚が必要だと思います。

つまるところ、最低限のことができればいいと思っています。職場や周りの取引先など、大切なことは現場が育ててくれるので。マーケティングができる方のように高いスキルがある方よりも、人に気をつかったり、苦しそうな人がいたら手を差し伸べたり、当たり前のことができる方。

タレントマネジメントの仕事に興味があるなら、この業界のことをよく調べて知ってほしいと思います。芸能人の名前と顔が一致するのは当然ですし、テレビを見て、ラジオも聴いて、雑誌にも精通して。まずは興味をもってしっかり事前に研究しておくことが大切かと思います。

人は貸借対照表には表れない財産、エンタメは究極の上澄み

── 鎌倉さんにとっての「人材」「エンタメ」とは、なんでしょうか?

「人材」は、財産ですね。その人たちがいなきゃ、なにひとつ動かないですからね。うちの会社は、結構みんなが仲良くて家族のような存在になっていると思います。

だけど、税務でいうと貸借対照表には「人材」という言葉がないんですよ。「人」の存在は「給料」という項目でしかあらわれてこないんですよ。でも会社が成長するためには、「人」の評価が欠かせないじゃないですか。たとえば、優秀なマネージャーが入ってくると、翌期に利益になるのが見えるんですよ。

“良い人材で繰延利益”みたいな感じで。会社の帳簿上はそんなふうになっていなくて「人材」が評価されにくいんですけれど、資産計上していいぐらいですよね。会社の価値に直結するんですから。良い「人材」は資産計上する必要がなくて、将来利益が見込める。まさに、財産にほかならないと思っています。

「エンタメ」は、究極の上澄み産業でしょう。エンタメのためにお金を出すには、まず、生活が安定していないといけない。いわば、エンタメって最後の最後の上澄み部分で成り立つ業種じゃないですか。つまり、上澄みが世の中にいっぱいあれば豊かになるはずですよね。みんながエンタメ業界に投資したり、関心をもったりするような世界が、幸せな世界だと思っています。

〔取材は2020年10月28日、株式会社ディネアンドインディーにて〕

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