元ホリプロ・マネージャーが語る エンタメ業界に転職するための極意

 

『エンタメ人』がお届けする、エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。エンタメ業界へ転職を考えている方へ向けて、若手時代の苦労話から現在の業界動向まで伺っていく。第11回は、エンタメ業界の転職事情を取り上げる。

レコード会社の宣伝プロモーターから、株式会社ホリプロのマネージャーを経て、キャスティング会社・エイスリーを立ち上げた弊社の代表・山本 直樹(やまもと・なおき)に、宣伝プロモーターから芸能マネージャーに転職した経緯や、今後エンタメ業界で必要とされる人物像について聞いた。(編集部)

山本 直樹(やまもと・なおき)
株式会社エイスリー 代表取締役

神戸出身。ベーシストを目指し上京。音大卒業後、パイオニアLDC株式会社(現NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン合同会社)で宣伝プロモーター4年(東京&大阪)、株式会社ホリプロでアーティストマネージャー8年(スカウトキャラバン、新卒採用も担当)、株式会社デジタルガレージでWEBメディアの広告開発、広告営業を2年担当。
2008年、株式会社エイスリー設立。メイン事業は、10の専門キャスティングユニット体制で『多ジャンル × 多展開』が強みのキャスティング事業。キャスティングビジネスだけでなく、日本の芸能人~クリエイターの海外進出支援、 日本企業の海外でのPR、海外企業の日本でのPR支援、グローバル人材のマッチング~M&A仲介支援、エンタメ業界に特化した人材紹介も展開中。

未経験からの転職!宣伝プロモーターから芸能マネージャーへ

── 音楽業界に入られた経緯について教えてください。

実は、きちんとしたルートで入社していないんです。音楽短大生の頃はミュージシャンを目指していて、就職活動もしませんでした。卒業後はジャズクラブでウェイターをしていましたが、20歳の頃、ミュージシャンになるのは難しいんじゃないかと思い始めたんです。

そこで、音楽業界でスタッフ側としてチャレンジできないかと思い、あらゆるレコード会社へ電話をしました。そのなかで、パイオニアLDC株式会社(現:NBCユニバーサル・エンターテインメントジャパン合同会社、以下パイオニアLDC)から、日雇いバイトなら募集があると教えてもらい、3日間働きました。そのときに、長期で働けないですか!と必死にお願いしました。

それから1ヶ月後くらいに、パイオニアLDCから電話がかかってきたんです。「華原朋美という歌手が所属することになるORUMOK RECORDS(小室哲哉プロデュースの新レーベル)が出来るから、宣伝プロモーターとして働かないか?」と。ぜひ働かせてください、と宣伝部に契約社員として潜り込ませてもらったのが、エンタメ業界人生のスタートでしたね。

── 宣伝プロモーター時代で、記憶に残っているお仕事はありますか?

まず初めにした仕事といえば、アーティストの認知拡大のために、曲をかけてもらえるよう色んなところにお願いをしにいくことです。「有線ヒット」がたくさん生まれていた時代だったので、有線放送で曲をかけてもらえるよう、日本中の放送所へひたすら営業まわりしていました。

その「有線まわり」から始まり、ラジオ局、出版社、テレビ局へも押しかけましたね(笑)。うちのアーティストを取り上げてください、とひたすらお願いします。

アーティストがメディアを回るキャンペーンや、コンサートツアーなどがあれば、派手に打ち上げをやったり、アーティストによってはホテルのスイートルームを貸し切ったり、パーティーをしたりなんかもしてました。それらを仕切るのも仕事の一部でした。毎日そんな日々だったので、家にも帰れず、よく道で転がって寝てましたよ。だけど、当時はそういうのが普通だと思っていました(笑)。CDがよく売れて、ミリオンヒットがたくさんでているような時代で、音楽業界は本当に華やかでしたよ。

音楽業界に飛び込んで5年くらい経ったときが、最高にバブリーな時代だったのですが、そのときの思い出は今でも鮮明に覚えてますね。当時「朋ちゃん(華原朋美)のCDをラジオで流してこい」と言われ、「予算いくらですか?」と聞いたら、「1億円」と言われ(笑)。当時まだ25歳だったのでとても驚きました。

── 宣伝プロモーターから芸能マネージャーに転職された経緯を教えてください。

そんなバブル時代から一転して、世の中が急に不景気になっていったんです。当時の会社も経営が苦しくなってきて、契約社員は全員切られることになってしまったんです。しかし、そのときに運が良くて、会社のお偉いさんから「ホリプロが音楽業界経験者を募集してるんだけど紹介しようか?」と声をかけてもらえました。

学生時代から「音楽スター」を生み出すというのが夢で、アーティストが「スター」になっていく過程のど真ん中に行きたいと思っていました。なので、アーティストとの距離が近い芸能事務所を紹介してもらえたのは非常に魅力的で。

そこで、マネージャーは未経験でしたが、マネージャーの道へ進むと即決し、次の週から株式会社ホリプロに入社しました。

 

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タレント、音楽…エンタメ業界には「4種類のマネージャー」がいる

── 芸能マネージャー時代について教えてください。

入社してからは、アーティストの現場マネージャーとして配属されて、当時一番最初についたのが、ビジュアル系バンドのグループでした。2年間くらい担当しましたかね。彼らのすごいところが、ビジュアルメイクをするのに、一人2時間かかるんですよ。メンバーが4人いたので合計8時間(笑)。

マネージャーとして基本的なことを覚えさせてもらいました。スケジュール管理、送り迎え、各種撮影やツアーの進め方、レギュラー番組の立会い、ファンクラブの仕組み、衣装やメイクの手配、原稿チェックなど。数年マネージャーの経験を積み、自分の見つけてきたアーティストをデビューさせようと奮闘しました。計8年間やってきたマネージャー時代で、7組のアーティストを担当しました。

── 未経験から芸能マネージャーへの転職でしたが、大変ではありませんでしたか?

僕は、いざ未経験からアーティストのマネージャーの仕事に飛び込んでみて、自分は向いているなと思ったので、全然大変とは感じませんでしたね。もちろん、苦労したことはいっぱいありますけど(笑)。

マネージャーって一括にされがちですが、実は種類があるんですよ。ざっくり分けると、タレント・芸人のマネージャー、俳優のマネージャー、アスリート・文化人系のマネージャー、アーティストのマネージャーがあって、実はそれぞれタイプが違うんです。

タレント・芸人のマネージャーは、とりあえずメディアにだすことで知名度を上げる、ということで押しが強い方が多い傾向にあります。いわゆる皆さんがイメージするマネージャーですね。「この子、なんとか一回チャンスもらえませんか?」とぐいぐい相手の懐に入らないといけないわけで、押しが強くないといけません。

俳優のマネージャーには、その俳優がどの作品に出れば評価があがるか、みたいな目線が必要ですね。作品や原作を見る力というのでしょうか。俳優としてどう成長していくか、どうブランドをつけていくかというような考え方が必要なので、少しセンシティブというか、クリエイティブなイメージの感じの印象があります。

アスリート・文化人系マネージャーは、エージェント契約っぽい感じなので、テレビ露出や芸能の部分だけサポートする感じですかね。結構対等な関係のマネジメント方法なので、1人のマネージャーが担当する人数が多いパターンもあります。ずっと付きっきりというわけではないので、ちょっとビジネス的?な関係性ですね。

音楽マネージャーは、結果的にブレイクするまで1円も儲からないわけですよ。ヒット作がでるまでずっと水面下でやる作業が多いので、相当音楽好きでないとその作業が面白くないと感じてしまうんです。だから、音楽マネージャーは本当に音楽が好きで、ずっと音楽のマネージャーで行く人が多い印象です。

それぞれのビジネスモデルが異なるため、未経験の方でこれからマネージャーになりたい人は、各ジャンルの違いを理解した上で、自分がマネージャーとして何をしていきたいのか、ということを考えながら求人を探し、転職活動を行うと良いと思います。

── 芸能マネージャー時代で、思い出に残っていることはありますか?

30歳のとき、「ホリプロタレントスカウトキャラバン」として初めてシンガーを探す回を担当させていただきました。絶対スターを作るんだって心に決め、約6,000人の音源を聴き、全国6ヵ所をまわって実際に歌を聞きに行きました。最終的には2人選んで、この2人をヒットさせようと命をかけたけど、結果的に失敗してしまいました。売れなかったんです。アーティストを育てるには、すごい会社のお金を使うので、責任を感じたと同時に、完全に行き詰まってしまいました。「もう自分はヒットを作れない。ダメだ」と。

ただ、そんなときに1つラッキーなことがあって。今や数々の芸能人やタレントがSNSをやるのが普通の時代ですけど、当時は誰一人としてやっていませんでした。タレントの写真をネットに出すということを、全事務所が反対をしている時期だったんです。しかしその頃の僕は、色々と追い詰められてたのもあり、担当のスカウトキャラバングランプリの子に実名で、当時流行っていたSNSのmixiを始めさせてみました。そうしたら、タレントがSNSをやるなんてあり得ない時代だったので、すごい反響があったんです。IT業界のお偉いさんから続々と連絡が来ました。

そのときに感じたのは、芸能人やタレントがSNSを普通にやる時代がくるのではないか、と。今は芸能界も音楽業界も反対してるけど、「皆SNS時代」が絶対来るという自信がありました。

エンタメ業界は人材不足「芸能事務所のマネージャー不足」を救いたい


── その後、エンタメ業界から一旦離れたのですよね?

そうですね。今後はデジタルの時代になると直感していたこともあり、Webマーケティングに関わる仕事がしたいと思い、ご縁があったのが株式会社デジタルガレージです。約2年間、広告営業や広告開発などに携わりました。そこで、Webマーケティングを通して、エンタメ業界になんとか貢献できないかと思い、株式会社エイスリー(以下、エイスリー)を設立したのが35歳のときです。

── キャスティング以外の「人材」事業を始めようと思ったのはなぜですか?

キャスティングビジネスで普段からお世話になっている会社さんから、人材不足で悩んでるというのを聞いていたので、支援したいと思っていました。芸能事務所のマネージャー不足の話をよく聞いていたので、まずそこをなんとかしようという思いで始めました。

── 現在のエンタメ業界の人材について、何か課題はありますか?

エンタメ業界自体がすごい変化して複雑になっていて、そこを語り出すとキリがないと思うので、まず芸能マネージャーに限って言うと、マネージャーっていう仕事の良いところが世間に上手く伝えられていないのかなと思っています。僕はマネージャー時代、たくさんのチャンスをもらったし、人脈も作らせてもらったし、スターを作るという道なき道を進むための想像力を鍛えられたし、マネージャーでないと味わえない表裏の世界があって様々な経験をさせて頂きました。マネージャーの仕事はブラックと思われがちですが、身を削ってテレビやドラマや映画や舞台をやっているキャストの方々に比べれば全然大変でないです。世の中に笑いや感動を与えてるキャストの方々を支援する仕事はとても大事な仕事だと思います。「スターを生み出す」なんて仕事、他にないじゃないですか。今は経営者ですが、会社をスターにするという仕事はマネージャーという仕事で学んだと思います。

── これからのエンタメ業界、どのような人材が活躍できそうですか?

発想が柔軟な人だと思います。新しいスターを生み出したり、新しい事業を考えたりするのってめちゃくちゃ難しいじゃないですか。何を持ってスターかっていうのもよくわからないし。複雑な世界になっているからこそ、幅広い情報を仕入れて柔軟に仕掛けていかないと絶対に難しいと思うんですよ。例えばアイディアを出すのが好きとか、これ面白いのではないかとか、これとこれを組み合わせたらいいんじゃないかとか。今はいろんなやり方ができるので、自由度が上がってますからね。

── では最後に、山本さんにとって「エンタメ」とは?

「夢が叶う場所」ですね。音楽業界は音楽を愛する人しかいないし、映画業界には映画を愛する人しかいない、好きな人が集まっている世界なので、今やりたいと思ってることを熱く言えば、必ずチャンスをくれる人がいます。人生は一度、突撃しましょう! 売れてなかったアーティストがやっと大きな舞台に立ち、お客様が感動している姿を見て、やった!と後ろで感動して涙するなんて仕事なかなかないと思うんです。ほんと珍しい仕事です。なので、これからエンタメ業界に転職を考えている方は、迷わず挑戦してほしいですね。人生一度きり!

〔取材は2020年12月8日、株式会社エイスリーにて〕

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