エイベックス・マネジメント(株)執行役員本部長 都築 裕五氏が語る「デジタル・ネットワーク時代を生き抜く作法」

 

『エンタメ人』がお届けする、エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。エンタメ業界へ転職を考えている方へ向けて、若手時代の苦労話から現在の業界動向まで伺っていく。第4回は、再び音楽業界を取り上げる。

CDからサブスクリプション・サービスへ、マスメディアからSNSへ…。大きく変化しつつある音楽業界では、今どのような人材が求められているのだろうか?

EXILE、三代目 J Soul Brothersはじめ、数多くの大物アーティストの作品を世に出すなど、音楽業界を最前線で牽引してきた都築 裕五(つづき・ゆうご)氏に、エンタメ業界の動向と展望について伺い、必要とされる人材像を探る。(編集部)

都築 裕五(つづき・ゆうご)
エイベックス・マネジメント株式会社 マネジメント本部 執行役員本部長

2001年、エイベックス入社。国際部にてアジア全域のコンテンツのライセンスアウトやアーティストのアジアプロモーションに関わったのち、04年に邦楽宣伝部へ。EXILE・三代目 J Soul Brothers・SKE48・東京スカパラダイスオーケストラなどを担当。その後、WEBを活用したコミュニケーションデザイン業務なども手がけ、2017年よりエイベックス・マネジメントにて執行役員本部長としてプロダクション領域全般に従事。エンタメとデジタルを掛け合わせた新たなビジネス拡張を推し進める。

人気を生み出す音楽業界に興味をもって転職へ

── どんな経歴・経緯を経て、エイベックスに入社されたのかお聞かせください。

もともとは、モバイル端末のOEMなどを手がけていたDENSOで、着メロを世界で最初に搭載した端末はじめ、大手通信会社向けの商品企画などを行なっていました。もともと音楽に興味はあったのですが、そうした仕事をする中で改めて音楽業界への興味が膨らみ、転職を決意したという感じです。

── エイベックスを選ばれた理由はありますか?

音楽の中でもとくにダンスミュージックが好きだったんです。クラブサウンドやディスコのようなキラキラした世界に憧れを感じていて。なので、音楽業界に転職したいと思ってはいましたが、エイベックス以外は考えていなかったです。

── 学生時代の過ごし方について教えてください。当時から音楽業界への興味は当時からありましたか?

仲間たちとクラブを借り切って音楽イベントを主催したり、ウインドサーフィンのインストラクターをやったり…。「クラブ、海、たまに学校」という感じでした(笑)。

音楽業界への関心はあったのですが、当時はCDがたくさん売れていた時代で…どこのレコード会社も応募者過多でライバルがとても多かったんです。
父親が総合商社に勤めていたこともあって、仕事で世界をまわりたいという気持ちも強かったので、海外で働けるチャンスがあったDENSOを就職先に選びました。音楽は趣味にしておこうと。

ただメーカーに勤めていて気づいたのですが、ハードメーカーはブランド力とスペックがあって価格が安ければ、需要がある前提で、一定のシェアを獲得することが出来ます。。ところが、ソフトメーカーはそうじゃない。知名度があってもマネタイズで苦戦される方もいらっしゃいますし、無名でも売れることがあります。。ブランド力があるのに売れないのは、とても不思議だなと。音楽業界は、やり方次第で人気やお金の流れを作り出すことができる。そのあたりに興味をもつようになったのも、転職したいと思った理由のひとつでした。

 

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“伝わる”プロモーションを目指して徹底的に考える

── エイベックス入社後の働き方について、まずは仕事でご苦労されたことについて教えてください。

今はあまりそういったことはありませんが、僕が音楽業界に転職した2001年ごろは、ノウハウや戦略・戦術よりも人脈が重視される業界だったように思います。「あのディレクター、プロデューサーなら知っている」という感じで、人のつながりで仕事が回ってくことに最初は戸惑いを感じました。

「芸能村」と揶揄されることからもわかるように、悪くいうと閉鎖的というか。そういう業界の性質もあってか、自分がこれまで何度も主張して誰にも相手にされなかったことを、別の人が発言したら「そうだよね」ってなるなど、悔しい思いをしたこともありましたね。

── 他方、糧になったと思える体験はありましたか。

株式会社LDH JAPANさん(EXILEを擁する芸能事務所)との仕事が多かったので、HIROさんやメンバーとともに、人気が高まっていく過程をともに過ごせたことは大きかったかなと思います。アーティストの認知を拡大させるために、いろんなことに積極的にチャレンジさせて頂けたことはいい経験になったと思います。

── EXILE・J Soul Brothers・SKE48などのプロモーションも手がけられましたが、とくに気をつけていたポイントは?

言い出すとキリがないのですが…。まず、音楽には匂いもないし味もないじゃないですか。だから魅力を伝えるのが難しい商材だと思っているんです。しかも今はYouTubeなどもあって、お金を出さなくても楽しむことができますよね。

そんななか、みなさんにお金をかけて頂くために重要と考えたのが、いかにしてファンダム(熱狂的なファンによって作られる世界や文化を示す)を作っていくかということ。たとえばひとつの作品を売る際に、ただディスコグラフィーのひとつに加えるだけでなく、特設サイトを作ってアーティストの想いを掲載したり、ファンの作品への感想を投稿してもらったり…。10年前からデジタルを絡ませながら数々の新しい施策を打ち出していきましたが、エイベックスのなかでも、そうした手法でファンダムを作っていく施策を打ち出したのは早いほうだったと思います。

── 他のレコード会社を含め、当時の業界ではそこまでデジタルに触手を伸ばしていなかったということでしょうか?

そうですね。当時は「宣伝する」というと、「タイアップつけていただく」「有名音楽番組に出させていただく」などという具合に、「他力本願」が主流だったように思います。ある意味「メディアブッキング」がゴールになっていて、プロモーターと言われるスタッフの評価基準も「ブッキング力」に寄っていたと思います。大切なのは、せっかくメディア露出のチャンスを頂いたので、それらに触れて頂いた方々が次にとる可能性がある行動(=当時はネットで検索する行為)を先回りして準備を進め、最終的には私達が用意したオウンドメディアにお客様を送客し、私達のコンテンツに触れる時間を割いていただけるかを必死に考えていたと思います。「お金を稼ぐ前に、消費者の時間を稼ぐ」という考え方です。今は検索に頼るのではなく、「自力本願で」YouTubeやTikTok、Instagram、Twitter、ファンコミュニティーなど有機的にSNSを活用しながらファンダムを作っていけるデジタルマーケティングが重要な時代になっています。特にYouTubeの攻略は必須でマスターしなければいけない最重要プラットフォームです。

── それはSKE48のプロモーションでも同じでしょうか。

EXILEにしてもSKE48にしても、作品をちゃんと理解してもらうための施策を打ち出していたという点で共通しています。たとえばある特設サイトの制作では、SKE48のファン層である十代後半から二十代前半の生徒が通学する某専門学校に自分で連絡して、授業の一環として学生とともに作り上げることを提案しました。学生らしいアイディアも盛り込んだ素晴らしい特設サイトが完成した時は学生とともに喜びました。

「握手会で売れたんでしょ?」と皮肉交じりにいわれるのがあまり好きじゃなくて…。手段は違いますが、聴いてくださった方に感動してもらいたい、聴いてくださる方に勇気を分けて差し上げたいという思いは、EXILEでもSKE48でも同じでした。

── 早くからデジタルを活用したマーケティングをされていたということですが、どうやって情報収集されていたんでしょうか?

ビジネス書などは人並みには読んできたと思います。もちろん、参考にすることも多かったんですが、「ものを届けたい、認知を拡大したい」となったとき、重要なのは“パッション”だと思っていて。

結局、「徹底的に考える」ということだと思うんです。アイデアを実行してダメだったら修正して、次なるオプションを考えていく…。PDCAではなく、OODA LOOPの考え方ですね。そのスピード感を大事にしていたので、生身の商材を扱うことが多かったこともあり、参考書には書かれていないソーシャルやオウンドメディアなど、我々の強みを活用しながらビジネス書に書かれていない手法でPRを展開していたケースが多いかもしれないですね。

エンタメ業界のトレンドを表す3つのキーワード

── エンタメ業界や音楽業界に関するトレンドの話についてお伺いします。今後トレンドの柱になるキーワードを挙げるなら?

デジタルを意識したビジネスのさらなる拡張

これからのエンタメ業界は、テクノロジーとの掛け合わせが必須だと思っています。とくにコロナ禍においては、デジタルと絡めないと身動きさえできません。トレンドとしては、大きな組織ではなくても新しいものが生まれてくる環境が整ってきている印象です。つまり、デジタルを絡めることで数年前では成し遂げられなかったことが簡単に出来る時代になりました。一方で、少しでも気を抜くと時代に置いて行かれる競争時代でもあります。
また、本来は得意分野にフォーカスしたいのですが、ビジネス上のポートフォリオは拡張していかなくてはいけないと思っています。たとえば、リアルなライブができない状況におかれたとき、その瞬間に太刀打ちできなくなるような事業体質だとリスクが大きいですから。

とくに芸能プロダクションというのは労働集約型の事業リスクがあって、活動が止まると売り上げも止まってしまいます。これにデジタルを絡めてファンダムをうまく調整し、サブスクリプション方式で対価に見合ったサービスを提供することができれば、最低限の収入が担保されるわけです。

データを活用した顧客のセグメント化

そのために必要だと考えているのがロイヤリティの高いお客様をセグメント化し、適切な対応をすることです。我々の会社の中では「プラス ID」という共通のIDを設けて、ファンのプロットを明確にし、上位顧客に対してはファーストクラスに乗るようなお客様と同じような対応をするべきだと考え、実践し始めています。その意味では、データの分析と活用がとても重要になっています。

アジア市場へのまなざし

市場に関していえば、日本のマーケットシェアを取り合っている現状がありますが、我々としてはアジアのマーケットが重要になってくると思っていて、アジアの領域で今年の下半期から拡張していく案件もあります。

コミュニケーション力だけでなくインプット力や想いの強さが大切

── デジタルの重要性が高まるなか、今後の業界で活躍していけるのはどんな人物でしょうか?

やはり、人とのコミュニケーションをとるのが好きな方のほうが得をすることが多いとは思います。ただ、仮にそれが苦手だとしても、デジタルに関して豊富な知識があったり、ソーシャルを活用した多様なPRを組み立てられたり、クリエイティブを作ることが得意だったり。人に負けないスキルをもっている方といった「個のチカラ」が必要とされるでしょう。

言い換えれば、スキルをレーダーチャートに表したときに、全体的にバランスがとれている人よりも、特化型の人の方がいいということになるかもしれないです。「難しそうだな」と思うような子が意外と活躍したりする業界だと思います。

── では、これといって特化したスキルがない方が今日からやれることはありますでしょうか。

インプットはどんどん増やしていったほうがいいでしょうね。インプットがないとアウトプットが生まれにくい気がしますし、ネットだけでも情報が得られる時代なので。そして欲を言えば、ネットに出回るより先にインプットが入ってくるようだといいですよね。

あとは、なにかにつけ「なんでだろう」と思うくせをつけることは大切だと思ってます。「問題がない」と思っていることが一番の問題だというか…。仮にうまくいっていたとしても、もっとうまくいく方法がないかなと考える人が、ビジネスする上ではすごく重要ではないでしょうか。「自分だったらこういうふうにするのに」とか、普段何気なく過ごしていることに対して疑問をもたれるといいのではないかと思います。

── 中途で、未経験で音楽業界に入るためにはどんなポテンシャルが必要ですか?

業界や会社に入りたい気持ちを、「自分だったらこうする」「これだけ会社に寄与できる」という視点でしっかり伝えられることだと思います。僕の場合は、まずは面接の機会をいただけたことに感謝の気持を手紙に書いてエイベックスの受付の方に渡してきました笑。自己PRを書くために丸一日かけて自分を見つめ直したり、面接の準備はカメラを回しながら雰囲気を確認しつつロールプレイングを行ったり。

面接のために言いたいことをたくさん整理していたのですが、言えなかったこともあったんですよね。なので面接後にお伝えしたかったことをまた手紙を書いて受付に持っていったり。結局、3通ぐらい書きました。転職というと、指名した会社に入ろうとしているわけですから、自分のことを好きになってほしいじゃないですか。エイベックスのことは調べつくしていたので、今度は自分のことを好きになってもらうために、いわばラブレターを送ったわけです。

会社は生産力への期待値で採用するわけですから、「ここがもったいない」「自分だったらこういうふうにしたい」という具体的なアイデアが出てくるまで、徹底的にその会社のことを想っていただくのがいいと思います。

エンタメとは人助け

── 都築さんにとって「エンタメ」とは何でしょうか。

エンタメは、人助けだと思っていて…。とくに、アーティストと一緒に仕事するなかで、「EXILEの曲を聴いて諦めかけていた夢をもう一度追いかける決心が湧いた」といった投稿をたくさんいただいていたんですよね。ほかにも、医師から3カ月の余命だといわれていたのに、アーティストに会いたいという強く願う気持ちから半年以上先にあるライブまで生き延びたというファンの子がいたり。その後、その方は残念ながら病気が進行してお亡くなりになってしまったのですが、その時に体験したことがきっかけで、アーティストが彼らの活動を通じて社会に約束するステートメント(公約)の作成することに繋がっただけでなく、私自身がエンタメ業界で働く目的が明確に「人助け」の為に頑張っていきたいと強く思うようになりました。医学では説明できない神秘的な力が宿っているのがエンタテイメントだと思っています。

たとえば、政治でカバーできるゾーン、医療でカバーできるゾーン、教育でカバーできるゾーンがあるように、エンタメでしかカバー出来ないゾーンもあるんじゃないかと思っているんです。

新型コロナウィルスの影響で思うようなエンタテイメントを提供出来ておらず、我々の業界にとっては試練の日々が続いておりますが、「エンタメ」を待ってくれている方々に多くの勇気と希望を与えられるように社員一同力合わせて頑張っていきます!

〔取材は2020年10月26日、エイベックス株式会社にて〕

 

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