SBINFT株式会社 CMO 中田宜明氏が語る 「社会におけるNFTの在り方と今後の展望」

 

エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。
エンタメ業界へ転職を考えている方たちへ向けて、業界の課題や今後の展開などを探っていく。第35回は、NFTやブロックチェーンでの社会の課題解決を叶えるため、国内外で様々な取り組みを行っている企業を取り上げる。(編集部)

プロフィール

中田宜明  (ナカタ ノリアキ)

レッドブルジャパン株式会社にてマーケティング・セールスに従事。
ハーマンミラージャパン株式会社にて外資系IT企業の営業を担当。
SBINFT株式会社に入社。マーケティングを軸にイベント開催やコミュニティ運営による継続的なコラボレーションを促進している。

「日本のNFT市場を拡大させていきたい」という想い

―貴社の事業内容について教えてください。

様々な事業がありますが、2021年4月26日からは、ブロックチェーンを活用したプラットフォーム事業を軸として展開しております。

現在はプラットフォームビジネスにとどまらず、NFT(ブロックチェーンを使用してデジタル資産の証明をする技術)に関するトータルサポート事業もスタートしました。

トータルサポート事業の例としては、NFTの発行・販売・二次流通機能を備えるNFTのマーケットプレイス「nanakusa」に所属している190名のアーティストの方々との活動が挙げられます。

ソーシャルメディアを活用する時代になり、クリエイターや作品が一個人と繋がることが簡単にできるようになりましたが、実際の世界で繋がることができなければ、クリエイターが作品を出すことだけで生計を立てることは難しいという課題があります。その課題をブロックチェーン技術を使って解決するためのサービスを提供しています。

他には、社会、また企業がWeb3.0といわれるインターネット革命の第3弾を迎えたことで生まれた様々なニーズに応え、NFTやブロックチェーンを筆頭としたWeb3.0関連の

・セミナーやコンサルティング
・企業やコンテンツとのコラボ
・企画立案
・メタバースのイベントや空間設計

など、様々なサポートを行っています。
一時は最大で60社の対応をしていたほどで、現在のニーズは非常に高いと感じています。

―多くの企業がWeb3.0に注目するようになったきっかけは何かあるのでしょうか。

そうですね、2021年の10月以降に2つのきっかけが生まれたと思っています。

まず1つは、Facebookの社名がMetaになった瞬間です。
それまでNFT・ブロックチェーン・メタバースなどのコンテンツはインターネット業界内だけでの一つのカルチャーと受け取られていましたが、Facebookというソーシャルメディアが動くということは取り入れなければいけない、と一般化したと思います。

もう1つは、NIKEやadidasがNFT市場に参入したタイミングです。一般に広く知られているブランドがNFTやブロックチェーンを取り入れ始めたことで火が付きました。

―現在、Web3.0事業に参入される企業が増えてきているかと思いますが、貴社の差別化戦略やブランディングについてお聞かせください。

大きく分けて2点あります。

1点目は、NFTにおけるトータルサポート事業を展開し、あらゆることに取り組んでいることですね。
弊社はプラットフォームの会社だと認識されていると思いますが、セミナー、コンサルティング、プランニング、コミュニティづくり、エンジニアリング、メタバース空間の設計など、総合力で弊社は戦っていくつもりです。

例えばサポートの一環として、クライアントの知識やトレンドのアップデートもしています。この業界は3ヶ月に一度流れが変わっていくので、アップデートしていくことが非常に大変です。このトレンドをしっかりと読み、クライアント向けにも週に1回程度アップデート会を開き、今のトレンドをお伝えしています。

2点目は、海外展開に強いことです。
もちろん、日本もマーケットとしては大いに可能性がありますが、ブロックチェーンの魅力というのは国の垣根がないことなので、2022年の夏には「Crypto Art Fes 2022」という世界のマーケットが繋がるNFTアートのフェスを開催する予定です。特に今はアジアに注力していて、韓国、台湾と非常に密接に連携しています。

―海外展開というお話もありましたが、今後の事業の展望についてお聞かせいただけますか。 

事業の展望としては2つあります。

1つは、日本と海外の市場のバランスが取れるような取り組みをしていくことです。
現状、海外の方が圧倒的にマーケットの規模が大きいため、日本のクリエイターの方々が海外のプロジェクトに参入できるようなきっかけや仕組みをつくり、日本のNFT市場を拡大させていきたいと思っています。

もう1つはクリエイターエコノミー(個人のクリエイターが表現や作品で収入を得ることにより形成された経済圏)を作っていきたいです。
まずは弊社のサービスに所属する190名のアーティストが今以上にアクティブに活動できる未来を実現していくため、様々なアプローチをしていこうと思っています。

 NFTに0から飛び込み、国際的なイベントを主催

―NFTに興味をもつきっかけは何だったのでしょうか。

実はきっかけはClubhouseなんです。

元々音楽がとても好きで、ある時Clubhouseで音楽とNFTという部屋を見つけて入ってみました。当時、NFTについての知識は全くありませんでしたが、話を聞いてみたら、音楽とNFTを掛け合わせると今まで出来なかったことが出来るようになることを知り、とても面白いと感じました。

今は多数の音楽ストリーミングサービスがありますが、十分に還元されていないとして批判されることも多く、何百万回も再生されなければ、アーティストが音楽だけで生計を立てることは困難です。

しかしNFTを活用すると、アーティストは特典を付けたりして、楽曲を「1点もの」として販売し、大きな収益を得ることができます。また、二次創作の収益を確実に回収することができるので、NFTは音楽業界の問題に対する解決策の1つになるのではないかという直感がありました。

そこでプライベートで音楽とNFTについて研究をし始めたのですが、音楽とNFTについての数字を国内外で誰もまとめていないということに気付きました。そこで自分でデータをまとめて発信してみたところ、かなりの反響があり、その中で社長の高と出会いました。

―その出会いが入社されたきっかけにもなったのですね。

そうですね。NFTの魅力は日本だけでなく世界の消費者と直接やり取りができることですが、当時アジアにはNFTのプラットフォームがなく、高から「ベンチャーキャピタルなど多くの投資家が来るClubhouseの部屋で話してほしい」というお話しをいただき、その通訳も私が担ったことがきっかけです。

その後、CAWA(Crypto Art Week Asia)というイベントが各国で開催されるという話を聞いたのですが、日本からの参加者の応募が少ないことを知り、主催者に連絡を取って「Crypto Art Week Asia in Tokyo」を主催することになりました。

CAWAはバーチャルとフィジカル(現実世界)が融合した、アジアのクリエイター300名が参加するイベントです。東京では株式会社スマートアプリ(株式会社SBINFTの前身)がプラチナスポンサーとして参加しました。バーチャル空間では33組のアーティストを展示、フィジカル会場では1週間にわたりトークショーやライブイベントを行いました。

主催したのは良いものの、それと別に本業もあったので、死にそうになりました。(笑)
ただ、何も分からない状態で企画から全てに携わったおかげで、NFTがよく理解できました。

―NFT事業の面白さはどのようなところにあると思われますか。

バーチャル世界だけではなく、現実の社会や日常の中で多くの活用方法が考えられるところにあると思っております。ブロックチェーンが誕生してもう10年以上になりますが、デジタル上で使われることが多く、社会実装は常に謳われながらもあまり進んでいません。

そんな状況の中、NFTは人々により親近感を抱かせ、自分ごとのように捉えられる存在である可能性が出てきました。今、弊社はNFTが社会の中でどう使われていくのかということをすごく楽しみにしていています。

今までの例を挙げると、
ローソンとの取り組みである「LAWSON TICKET NFT」は、「思い入れのあるイベントチケットを記念に手元に残しておきたい」という顧客ニーズから生まれたもので、
専門学校バンタンとの取り組みである卒業証書のNFT発行も、卒業生に向けた「NFT化された卒業証書が数億円もの価値として評価されるようなクリエイターへと大きく飛躍してほしい」という願いや、コロナ禍において離れて過ごす家族へ卒業できたことを共有できたら、という想いからつくられたものです。

このように、社会において「こんなものがあればいいな」という想いに応えたものが、大きな反響を呼んだので、こういった取り組みを期待されている、という確証が持てました。当初はアートやエンターテインメントの領域を想定していましたが、現在はリソースの4割程度を使って、社会実装に取り組んでいこうと決意しています。

まずは飛び込む事が、NFT業界への1番の近道

―NFT業界の課題は何だとお考えですか。

課題は大きく3つあると思っております。

まず1つ目はNFTの認知度が低いこと。
昨年9月に各国で行われた調査によると、日本でNFTを知っている人の割合は全体の約1割で、世界の中で最も低い結果だそうです。昨年、流行語大賞にノミネートされているのにも関わらず、このような状況なので、まずは国内でのリテラシーを高めることが必要だと考えています。

2点目は言語の壁です。国の垣根は消えても、言語の壁があることにより、マーケットも鎖国状態になってしまっています。

3点目は「インターネット世界での1つのトレンドにすぎないだろう」という認識が強く、自分ごととして捉えられていないことです。自分の身近に関連するものとして接点をつくる必要があると思っています。

―NFTの認知度を広めたり、身近に関連するものとして接点をつくる取り組みとして、注目されているサービスなどあれば教えてください。

今、注目しているのは、スマートロックをNFTで解除できるというサービスです。特定のNFTを持っていないと開けられないということなので、会員制バーやホテル、もしくは街中に宝箱を置いてそれを開ける、ということなどが可能になります。RPGゲームで、手に入れた鍵で宝箱を開けるというシーンがよくありますが、現実世界でもそういったことが出来るようになるかもしれません。

私も現在、特定のNFTを持っていれば、スーパーでニンジンがもらえる、カフェで無料コーヒーがもらえるなど、一種の「パス」のようなものが作れるような実験を考えています。  

―NFTやブロックチェーンの業界において、どのようなマインドやスキルが求められるとお考えでしょうか。

面白い英語の言葉が2つありまして、その2つを意識することが重要だと思っています。

1つは、「Do Your Own Research(訳:自分で調べよう)」の略で、「DYOR」という言葉です。
TwitterやFacebookなどSNS上でも、本当に裏を取っているのか分からない情報が多いと思いますが、NFTも2ちゃんねるやSNSの延長線上にあるインターネット文化なので、正しい情報なのかは自分で確認する必要があります。私も自分で1次情報を調べて、本当に正しいのか判断するようにしていますし、とても大事なことだと思っています。

もう1つは「Jump in」という言葉です。
何事もまずは飛び込んでみる、飛び込んでみてから理解する、という意味です。
NFTを知る前も様々な構想を想い描いてはいたのですが、勇気がなくてなかなかチャレンジすることが出来ませんでした。でも、NFTに出会って「これだ!」と思い、とにかく挑戦してみた中で多くの気付きがありましたね。   

―素晴らしい環境ですね! 最後にNFTやブロックチェーンの業界に興味がある方にメッセージをいただければと思います。

NFTに興味がある、面白そうだと思う方はまず使ってみてほしいと思っています。

デジタル上の創作物の価値やクリエイターと購入者の関係値を、ブロックチェーンやNFTを利用して見直していくことで、NFTにどう関わっていけばよいのかということが見えてくると思います。

例えば、私は音楽のNFTを70個持っていて、去年は1点物のアートをひたすら買い続けました。クリエイターがどのような想いで生み出しているのかなど、クリエイターに直接聞いて、背景を全て知った上で、買うか買わないかを判断しました。そして購入後、「私や私の仲間があなたのNFTを持っているんだけれども、展示会を催してもいいか」などということを聞いていました。

Nori’s Inspiration (oncyber.io)

これは一例ですが、1人ひとりが自分のスタイルに合った関わり方をしていけば良いと思っていますし、アーティストやクリエイターが活発に楽しく活動できる未来が実現するためにそういった行動を繋げていってほしいと思っています。