株式会社Tailor App 代表取締役社長 松村夏海氏が語る「反骨心と情熱!日本のライブコマース業界の成長と挑戦の歩み」
エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。
エンタメ業界へ転職を考えている方たちへ向けて、業界の今後の展開や成長性について探っていく。第39回は、大手エンターテイメント企業での勤務を経て、ライブコマースの会社を立ち上げた松村氏。キャリアや起業の背景、そして日本におけるライブコマースに対する挑戦について伺いました。(編集部)
プロフィール
株式会社Tailor App
代表取締役社長 松村夏海
1997年静岡県生まれのZ世代。法政大学(在学中にフォントボン大学に留学)卒。祖父、父が経営者だったため、自身も学生時代から自然と経営の道を志していた。大学の単位を2年生でほぼすべて取り終わり、インターンや業務委託を経験し、インターン先のベンチャーPR会社の紹介でライブコマースシステム会社に入社。
ライブコマースのノウハウをひと通り学び、同社が2019年にIT一部上場企業にバイアウトされるタイミングで、2020年に株式会社Tailor Appを設立。
目次
ビジョンを追い求めた大学生から起業家への転身
―― 松村さんの学生時代から起業に至るまでの経歴についてお聞かせください。
私は静岡県出身なのですが、高校は北海道の野球強豪校に進学し、下宿暮らしをしながらアイスホッケーに打ち込んでいました。その後、上京して法政大学に入学し、2年生の時にアメリカへ留学しました。2年間で必要な単位をほぼ取得し、3年生の時に仕事を始めました。
最初はエンターテイメント系の大企業で働いていましたが、大企業の環境は私には合わず、決められた仕事しかできない点や、時間的な制約があることに疑問を感じました。そこで、あるPR会社に移り、ほぼ休日なしで毎日約17時間働き、月収手取り20万円以下という厳しい生活を1年間続けました。その後、ライブコマースの会社にスカウトされ、広告代理店を販路にライブコマース営業を行いました。この経験を経て、私は自分の会社((株)Tailor App)を設立。営業が重要だと考えていたため、会社設立後は毎日のテレアポイントメントを行うことからスタートしました。これが私のキャリアの原点です。
―― 大学時代から高いモチベーションがあったようですが、キャリアにおけるビジョンをどう描いていたのですか?
私の家族は3世代にわたる経営者で、呉服や船舶関連の会社を経営していました。そんな環境下で育ったこともあり、どこかで起業することを前提として考えていました。大学生の時、自分が何をしたいのかははっきりしていなかったものの、一人で生計を立てられるようになるためには無形商材の分野の中でも、特にコンサルティングや広告PRが適していると考え、この業界に入りました。
私が起業しライブコマース事業を始めたのは、今から3年前です。コロナウイルスの影響でこの業界が絶対に伸びると確信しており、広告営業の経験を活かし、特にPR領域の成長を見越して事業をスタートしました。広告代理営業を経験したことが、この分野での成功に繋がるだろうと考えたのです。
―― 実際に事業を立ち上げ、初めての成功体験についてお聞かせてください。
最初のライブコマースを行った時、私は1日に120件のテレアポイントメントをし、初月に80件のアポイントメントを確保しました。その結果、初月に約800万円の案件を受注し、これで少なくとも1年は安心できるだろうと思っていました。また、その時のライブコマースでは、わずか1時間でクリスマスコフレの商品を販売することに成功。このような案件内容での成功も大きな成果だと感じています。
ライブコマースのトレンドと広告業界の変化
―― 日本には、中国のようなライブコマース機能を持つアプリやプラットフォームが存在せず、文化や社会背景、そしてライブコマースの仕組みも異なります。その辺りをどう感じていますか?
日本と中国のショー文化の差異を考慮しましたが、初めの段階では数々の挫折を経験しました。広告の組み合わせや適切なキャスティングに関して試行錯誤を重ね、独自のロジックを構築しました。他では実現困難なテクノロジー開発も進め、その結果、当社のツールがなければライブコマースが成り立たないほどの地位を確立できました。
―― 業界のトレンドについて、ライブコマースの有効的な活用法を教えてください。
広告業界は景気に左右されやすく、近年はメーカー側も広告費を潤沢に確保できる企業が少なくなっていると肌で感じています。いかに”広告費をかけず売れる仕組みづくり”を構築するかという時代に差し掛かってきているのではないかと考えています。
時代の流れとしてはTikTokのような短い動画が主流になっていますが、そこから獲得した顧客というのは、例えば、そのブランドが好きなわけではなく、この人が使っていたからなんとなく買ってしまったといったという人たちです。こういうケースは、2回目の購入には繋がりません。本当の意味でブランドのファンを魅了していくには、時間をかけてコミュニケーションを構築する必要があります。そのためには、長い動画を通じて消費者を引き込むライブが最適ではないかと考えています。
よってこれからは広告よりもコマースが強調され、企業は自社で完結する内製化の傾向がさらに強まっていくと思っています。それによりコンサルティングなどの需要が高まり、どのくらい売り上げられるかといった結果を重視される時代になっていくと考えています。
クリエイティブな分野は、深く愛し続けることが重要
―― 会社のカルチャーとして重視されていることはどのようなことですか?
当社では、全ての社員がプロフェッショナルに成長することを目指しています。どの業界でも通用するスキルを身につけ、最大限の生産性を発揮することを意識しています。しかし、単に会社を大きくするだけではなく、赤字を出さないことも重要視しており、ひとりひとりの能力向上にフォーカスしています。
―― 個々の能力向上のための御社特有の取り組みはありますか?
定性的な観点では、3つのバリューを持っています。一つ目は「チャレンジ」、これは「ワクワクすることはすべて挑戦し、自らの可能性を広げよう」という考え方を指します。二つ目がビジネスマンとして一流になるという意味で「プロフェッショナルになる」こと。最後に「ミックスアップ」です。これは、単なる仲良しで楽しいだけでなく、互いに尊敬し合えるレベルまでスキルを高めるという考え方です。
定量的な面では、予算管理やコール数などの目標を落とし込んだKPIを設定し、数字を追う習慣をつけることで社員同士が高め合えるような組織を目指しています。
会社を設立した当初、私たちのチームは2人から始まりましたが、わずか4ヶ月後にはインターンが参加し、現在では約15名のメンバーで構成されています。私の仕事のスタイルは、基本的には個人で打開していくストライカータイプですが、私は社員に仕事を任せていくことも大切にしています。弊社の社員は、今や私よりも現場をよく理解していますし、非常に責任感が強いメンバーが多いです。そのおかげで、今では私は社長として監督的な役割に移行することができています。
―― 松村さんが一緒に働きたいと思う人材についてもお聞かせください。
私たちは、若い世代で野心を持って何かを成し遂げたいと考える人材を歓迎しています。また、いわゆる現代の日本的な働き方にとらわれず、人生をより豊かにしたいと願う人材が、私たちの企業に適していると考えています。業界の特性上、クリエイティブやアイデアには突き詰めても正解がないため、自らがどこまで挑戦し、探求するかが重要です。従って、経験を積んで進むよりも、成功を収めたいという強い意欲やこだわりを持つ方こそ、私たちが求めている理想的な人材と言えるでしょう。
―― 学生や若い世代に対して、日々の生活においてこんな意識を持つと良いなどのアドバイスはありますか?
自分の好きなことに真剣に熱中することが大切だと思います。私自身はインドア派で、週末は本を読んだりゲームをすることに没頭することが多く、プラモデルに夢中になったこともありました。本当に好きなものに集中すると、普通の人には見えない領域が見えてくることがあります。だからこそ、仕事や趣味を深く愛し続けることが重要だと思います。特にクリエイティブな分野においては、突き詰めることが鍵だと考えています。
エンタメ業界で成功するためには、圧倒的な努力が不可欠
―― 過去のインタビュー記事で“反骨心”が原動力と読みましたが、今も変わらずでしょうか。
より自分の生活に深く根付いた感覚がありますね。時には1日でも何かを怠ったり、今日何かを達成できなかったということがあると、逆にドキドキ感を生み出し、眠れなくなることがあります。
高校時代は一日中アイスホッケーの練習に明け暮れていましたが、常に上には上が存在し、超えることができませんでした。大学では英語を学ぶために交換留学生に選ばれた経験もしながら、なかなか成果を上げることができませんでした。このような悔しい経験を経て社会人になり、仕事で初めて成功を感じたものの、その後の起業時には周囲から否定的な意見が多く、それが未だに頭に残っています。あの時、私の決断を否定した人たちを絶対に見返そうと、自分の中に一種の「デスノート」があったような感覚ですね(笑)。今はまだ会社の規模が小さく、社員が悲しい思いをしたり、、悔しい思いをすることもあります。そんな中で、最近では身の回りの人たちが幸せになる選択を重視し、上場よりも日本一の生産性を持つ会社を目指したいと考えるようになりました。反骨心だけでなく、責任感も強くなった気がします。
―― お話を聞いていると、理想のモデルケースを追い求めるよりも、ご自身の情熱や意欲に基づいて突き進んでいくような感じですね。
基本的なスタンスとして、謙虚に真面目に生きることを大切にしており、日々自分を律する努力を心掛けています。給与の面や他の面でも、みんなに還元できるような仕組みを築いています。例えば毎朝早く出勤するなど、ひとつひとつの行動で自分を律しています。スタートアップのタイミングでは、信頼感や社長が頑張っている姿勢を貫くことが重要です。それもまた、“エンタメ人”として実践しなければならないことだと考えています。
―― 「エンタメ人」の読者層も20代から30代くらいの若い方が多いので、今回のインタビューは、皆さんに読んでいただきたいなと思っています。
そう言ってもらえると嬉しいです。ただし、エンタメ業界で本当に成功するためには、圧倒的な努力が不可欠だと確信しています。特に若い世代には、努力が絶対的に必要です。個人的な経験から言えば、昭和の風潮に少し似ていますが、活躍している人々は例外なく働いています。私も経営者として、40代、50代の先輩経営者と戦っていかなければなりません。年齢は関係ないので、自分が賢くなるための努力をしています。最近では非常に厚いMBAファイナンスの本を勉強したりもしています。
通常の努力や単に働くだけでは足りず、知識を深めずには競り勝てない。例えば、広告代理店にはレジェンドのようなビジネスパーソンがいますが、その方にプレゼンで勝たなければならない状況があります。そうなったときには、その方と同じくらいの知識が必要であり、自社の製品が優れている点を示さなくてはいけない。なので、努力が不可欠だと感じます。一方で、より楽しく、自分らしく仕事をしたいという人にとっては、自分の思考や深い洞察を育むために、人生をドラマチックに生きることが必要です。さまざまな価値観に触れることが重要だと考えます。
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*本記事に記載された内容は取材時2023年11月9日のものです。
その後予告なしに変更されることがあります。