元・NHKアナウンサー、現・企業広報の松苗竜太郎さんが考える、 異業種への転職でメディア経験者が活かせるスキルとは? 〜タレントキャリアアドバイザー 別府 彩が聞く!〜

 

2011年東日本大震災の年に就職活動、2012年にアナウンサーとしてNHKに入局。

入局後はやりがいを感じ、報道の仕事に邁進していた松苗さん。

手堅い職を手に入れていたはずの松苗さんが、なぜセカンドキャリアへの一歩を踏み出したのか、そして今の思いについてお話を伺いました!

 

松苗竜太郎
2012年新卒でNHKにアナウンサーとして入局。山口放送局、大阪放送局を経て東京アナウンス室へ異動。『ニュースウオッチ9』のリポーターなどを務めた。2021年にNHK退職、富士通株式会社(以下、富士通)へ転職し、広報IR室へ配属。

この記事の監修者

別府 彩
別府 彩タレントキャリアアドバイザー

元フリーアナウンサー/タレント。
大学卒業後、およそ10年間フリーアナウンサーとして活動。31歳のときにグラビア写真集「彩色」(竹書房)を出版。
「踊る!さんま御殿!!」(日本テレビ)に出演するなど、バラエティ番組やラジオパーソナリティ、テレビCMナレーターなどの経験を持つ。
33歳で芸能界を引退、広告代理店に正社員として就職。イベント運営会社、イベントコンパニオン事務所を経て2020年に株式会社エイスリーに入社。
現在は、アナウンサーから会社員という自身の転職経験を活かし、日本初の“タレントキャリアアドバイザー”として、芸能人やクリエイターのパラレルキャリア・セカンドキャリアのサポートを行っている。

Twitter
https://twitter.com/a3_ayabeppu

コロナ禍で世の中の価値観が変化するにつれ、膨れ上がっていった疑問。放送業界から飛び出し、新たなフィールドでのチャレンジを決意。

―― 最初に転職を決めた経緯についてお聞かせください。

2012年に新卒でアナウンサーとしてNHKに入局しました。

NHKの中にも記者やディレクターなど職種は色々ありますが、アナウンサーとして勤務する中でこの選択をして良かったと思っていました。

ところが、2020年2月頃から新型コロナウイルスの脅威が日に日に増していき、当時リポーターを担当していた夜のニュース番組でも扱う話題はコロナ一色になりました。

視聴者の注目が集まる「明日どうなるのか」ということを追いかけ、ネタを見つけてはさまざまな現場を取材する毎日。全面的に出社を取りやめ一斉にテレワークを開始する会社もあれば、リモート授業を行う学校もある。あのときは、自分たちが持っていたこれまでの価値観や経験がすべて根底から覆るような、天変地異レベルの出来事が起きていると感じました。

新しい取り組みがあちこちで始まり、みずみずしい価値観が生まれていることに肌で触れました。

一方で私の働き方は、現場でロケをして、原稿を打ち、VTRをチェックして、放送を見守り、深夜に帰宅という何も変わらない毎日。

激しく変化する世の中のことを伝えているけれども、自分自身は新しい働き方や動き方にキャッチアップできているのだろうか、とふと疑問符が頭の中に浮かびました。

放送業界は一般企業と比較すると特殊で、時間やお金の使い方など、世の中とは多かれ少なかれズレがある。この業界はそういうものだと納得していたはずの部分に一度ついてしまった疑問符はコロナ禍の中で雪だるま式に大きくなりました。

このまま世の中とずれたまま、自分の価値観がアップデートされないまま、社会人として過ごしてしまっていいのだろうか。放送業界から一度離れて外の世界に身を置かなければ、世の中の動きに本当の意味でキャッチアップすることができないのではないか。そのような思いから転職を決意しました。

―― 転職の方向性についてはどのように考えましたか。

まず、自分には何ができるのだろうかと考えました。

マスコミ時代は取材の機会が多かったので、企業の広報担当者と接点がありました。広報の方々がメディアとどのような関係を構築し動いているのか、表面上の動きは何となく分かっていましたし、メディア側の人間の動き方やマインドはもちろん分かっています。

また、身の回りにもマスコミから企業広報に転職したモデルケースが幾つかありました。一つチャンスがあるとしたら広報というポジションなのではないかと思い、まずは企業広報への転職を目指しました。

理解されにくい“アナウンサー”のキャリア。面接には苦戦しながらも「メディアの視点を持った広報」として富士通に内定。

―― 実際、転職活動はどのように進んでいったのでしょうか。

まず、転職エージェントに片っ端から登録しました。

しかし、私のようなキャリアを持つ人材をどう扱えばいいのか、興味はありながらも戸惑っている様子が、面談をしていても分かりました。今思えば、それはエージェントだけではなく、採用する側の企業の方たちも多かれ少なかれそういう感覚はあったのではないでしょうか。アナウンサーという仕事の中身が採用側の方にイメージしづらいことが、採用の高いハードルとなっているように思います。

放送までの一連の流れは、ネタを見つけ、企画を書いて社内で提案し、構成を作り、ロケに行き取材をして、編集するというものです。

NHKではこの流れを職種問わず経験し、放送人としての基礎を築き、その後に各職種の専門性を高めていきます。当然、アナウンサーも同じ経験をしています。放送に携わる者の共通言語として、取材してアウトプットすることを求められるのです。

取材を通じて得たニュースの目利きをする力を強みとしてアピールしましたが、なかなか勝算は見えにくいところではありました。

そんな中、富士通から内定をいただくことができました。

採用側に聞いてみなければわかりませんが、会社として多様な背景やスキル、ノウハウを持つ人材を獲得したいという方針と、これまでにない経験を持つ人材という点で期待していただいた部分が、少なからずマッチングしていた部分があったのではないでしょうか。富士通がメディアの視点を広報として求めていたタイミングだったように思います。

グローバル企業で得たものと環境の変化。マスコミ経験者に期待される、企業広報としての役割とは。

―― 入社後の変化についても教えてください。

まず、働き方が大きく変わりました。現在の職場は、場所を問わず働ける制度があり、会社のオフィスやサテライトオフィスでの勤務、在宅勤務も可能です。また、部署にもよりますが、私は基本的にコアタイムなしのフレックス勤務が適用されています。

多様で自律的な働き方により、プライベートも含めて、メリハリのある時間の使い方ができるようになりました。

新たな発見もありました。私が想像していた企業広報は、直接的かつ対面でのメディアとの接触、調整という一面的なものでした。

今思えば、メディアにいた時は日々の出来事を追いかけるだけで、中長期で物事を見るという視点は弱かったように思います。どのようにビジネスを捉え、どのように会社の意思決定がなされ、どのように広報が戦略的に動いているか。これまで見ることがなかった面も知ることができ、そこに身を置いて仕事をすることは非常に新鮮です。

―― ギャップを感じたことはありますか。

仕事のスピード感です。マスコミ時代は1分を追うような感覚で仕事をしていました。

夜9時の放送に間に合わせるためには、その日のうちにネタを決め、現場を探して取材をし、夜7時までには絶対にロケを終えるようなスピード感をもって働いていました。 

富士通はグローバルで12万人以上の従業員がいる会社です。意思決定の面ではどうしても時間がかかることがあります。広報はメディアからの取材依頼を受けることがよくありますが、メディアはメディアのスピード感で話を持ってきます。

「夕刊に間に合わせたいので、今日の15時頃までに回答をお願いできますか」と当日の13時頃電話を受けることもあります。広報担当がその連絡を受けてから社内の担当者を探して依頼をするので、どうしてもタイムラグが発生します。

その時間の感覚の差を埋めるためにいかにうまく橋渡しをするか、社内の他部門にメディアのスピード感も含めて広報活動への理解を深めてもらうことが重要だと感じています。

―― メディアの業界の感覚を持っている松苗さんがいらっしゃることで、貴社の広報にとってもメリットがたくさんあったのではないでしょうか。

そうですね。例えば、企業広報は一般紙や経済誌の記者とのつながりは深いと思いますが、テレビ局はイメージしにくい部分があります。

私は、我々のことを伝えやすい番組はどれかという視点でテレビを今もよく見ていて、そういった情報をフィードバックしたりもします。 媒体の動きや記者との会話を通して、ニーズを先読みして戦略的に情報を伝えていくことを、広報として重点的に取り組んでいます。

最終的な記事のアウトプットまで想像した上で戦術を立ててPRを展開していくことについては、メディアの業界経験者である私に期待されていることだと思いますし、心がけていることでもあります。

メディアでのキャリアをわかりやすく紐解けば、ネクストキャリアは見えてくる。松苗さんがこれから実現したいこととは。

―― ここまでお話を伺って、報道に携わっていた過去のご経験を企業広報という立場で上手に活用してらっしゃると感じます。 

メディアの人間で集まると、自分たちのキャリアは潰しが利かない、という話がよく出ます。本人たちも悩んでいますし、一般企業から見てもどういう人材なのか分かりにくく、なかなか難しいところがあると思います。

ただ、メディアから他業種に転職した者として言えることは、少なくとも広報・PRという分野においてはまったく悲観することはないということです。

メディアに携わる人は、常にsomething newを探し続けています。その視点を大事にして、きちんと自分の実績と紐付けて語ることができれば、間違いなく企業にも届くはずです。広報の実務においてもその視点は絶対に役に立ちますので、自信を持って取り組んでいただければと思います。

スピーチだけではなく、ライティングのスキルもプレスリリースの作成や編集で非常に役立ちます。それから、メディアへの売り込みです。メディアでも自分の企画を提案する際に、似たようなことをプロデューサーやデスクに対してやってきているはずです。

メディアと広報は対峙しているカウンターパートだと私も思っていましたが、やっていることは近いと思います。例えば記者ならば、取材して発信する。企業広報であれば、社内を取材してネタを見つけ、それを分かりやすく世の中に伝える。立場は違えど、やっていることは非常に似ていますので、同じマインドを持つべきだと思っています。 

―― 今後のビジョンや夢についてお聞かせください。

ビジョンとしては二つあります。

一つ目は、伝えたいことを分かりやすく、興味を持ってもらえるように世の中に発信するという仕事が、今後数十年のベースになるだろうと思っていますので、それをより進化させていきたい。

富士通の今の姿を、業界の方やパートナー企業、そしてメディアだけではなく、市井の皆さんにどう分かりやすく伝えていけばいいのか。そのためにできることは何かと考えています。今のポジションでは、メディアを通して分かりやすい面白い記事をいかに書いてもらうかということに引き続きチャレンジしていきたいです。今の富士通の姿を知ってもらい、10年後、20年後のお客さまや同僚から「いい会社だよね」と思ってもらうことができれば、PRとしてこの上ない成果になると思います。そうなれるよう、役に立ちたいと思います。

もう一つが元局アナという経験からの発信です。これまでもお話ししてきたように、キャリアで迷う人たちが知人を含め、たくさんいます。そういう方々にとってセカンドキャリアの一例として参考にしてもらえる部分があれば、アウトプットもしていきたいですし、お手伝いしていきたいと思っています。

 

 

 

▼採用担当者からのコメント

富士通株式会社Employee Success本部人材採用センター
シニアディレクター
末松佳子

富士通ではキャリア採用を拡大しており、その大きな目的の一つが社内にない知の獲得です。異なる業界・立場での経験からこそ出てくる発想は宝です。社内の人と同じことが出来ないからこそ、その人にしかない強みが発揮されます。松苗さんのように、自分の想いと過去の経験を掛け合わせ、より良い社会のために、そして自分にとって最高のキャリアのためにチャレンジしていく方を、会社としても全力で後押ししていきたいです。

 

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