株式会社D・A・G 二本松取締役COO兼デジタルスタジオ事業部 事業部長が語る「急速な進化を遂げるCG業界の今と、それを支える人材」
目次
『エンタメ人』がお届けする、エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。エンタメ業界へ転職を考えている20代の方たちへ向けて、若手時代の苦労話から現在の業界動向までを探っていく。第31回は、急速に成長しているCG業界でハイエンドな作品を次々と作り出している映像プロダクションを取り上げる。(編集部)
プロフィール
二本松 克巳(ニホンマツ カツミ)
株式会社D・A・G 取締役COO 兼 デジタルスタジオ事業部 事業部長
テレビ制作会社等を経て2004年㈱D・A・Gへ入社。制作進行部門立ち上げ後、ゲーム内CGムービー、映画、CM他、多数のメジャー案件のプロデューサーを歴任。2008年ロサンゼルス支店開設に従事。2013年取締役就任。2021年よりデジタルスタジオ事業部 事業部長を兼任し、同年新設したデジタル・アートスタジオ『DIVA: Digital Art Studio Roppongi』運営責任者を務める。
名だたる最新デジタルコンテンツ制作を支える独立系CGプロダクション
―まずは株式会社D・A・Gの事業内容について教えてください。
現在、4つの主要事業があります。メインとなる「3DCG制作事業」と「ゲーム開発事業」に加え、企画やストーリー、デザインの「コンテンツ創出事業」、および2021年7月に六本木ヒルズ内に新設したデジタル・アートスタジオ『DIVA: Digital Art Studio Roppongi(以下、スタジオDIVA)』を運営する「スタジオ運営事業」になります。
それらの事業を進めていく上で基盤となる弊社の強みは、対応してきた案件の幅の広さだと考えています。例えば『FINAL FANTASY Ⅶ REMAKE』(※1)ようなリアルな作品から『あつまれ どうぶつの森』(※2)のように温かみあるテイストの作品、また最近では『ZUKAN MUSEUM GINZA』(※3)のようにインタラクティブな映像作品まで幅広い案件に対応しています。
―現在注力している事業はありますでしょうか。
それぞれハイエンドであることを前提に「3DCG制作」と「ゲーム開発」という2つの軸に注力し、発展させていきたいと考えています。最近海外では「真実味のある」「本物のような」という意味合いで”believability”というワードがよく使われてるように、弊社ならではの高いクオリティでリアルな世界を創っていきたいですね。
これまで培ってきた経験をベースに、2つの軸が相互作用しながらどちらも発展していく、そんな未来を想像しながら日々活動しています。
―最近移転されたというオフィスも注目されていますよね。
そうですね、細部にまでこだわり抜いた非常にユニークなオフィスになっていますね。
昨年末に東京本社を西麻布から六本木ヒルズに移転したんですが、クリエイティブな仕事はとても集中力を使いますし、日々アウトプットをすることが求められるので、その土台となるオフィス環境には、以前から代表の酒井が非常に強いこだわりを持っています。
天井高約4mのオープンなワンフロアの空間を活かせるよう物理的な仕切りを極力減らし、オフィスを一望できるレイアウトを採用しました。クリエイター同士が気軽に声を掛け合ってアイディアや知見を共有し合えるように、また同時に、クリエイターがそれぞれのペースで制作に集中できるようにとの思いが込められています。
ドアの音や開閉する際のちょっとした感触、サーバールームの見せ方などにもこだわり抜いて、次世代のデジタルコンテンツ創出に相応しい環境に仕上げました。
ー見ている側が驚くようなアウトプットをいかに出せるかというところですね。現在実際に二本松さんがされているお仕事内容についてお伺いしてもよろしいでしょうか。
現在は取締役という役員の立場と、昨年7月に設立されたスタジオDIVAを中心とした活動を行っているデジタルスタジオ事業部全体の統括をしています。現在、入社18年目になりますが、これまでCG制作の進行管理からロサンゼルス支社の立ち上げまで、様々な経験をして現在に至ります。
ー今の会社に入るまではどんなことをされていたのですか。
大学卒業後、プログラマー職を経て23歳で映像業界に転身しました。最初にテレビ番組の制作会社に入ったのですが、その会社で私の人生観を一変させる経験をすることができました。
巨大魚や珍しい魚を釣る人がブラジルにいて、その人のドキュメンタリー番組を撮るため1ヶ月間アマゾンに滞在したのですが、事前に全社員に対して「制作進行、機材管理、音声、それら全てができる人がいれば連れていくけど、どうする?」と話があって、私が真っ先に手を挙げました。なかなかできる経験じゃないと思ったからです。
訪れたのは本当にアマゾン川の脇で、携帯の電波も当然ない、電気もない、お湯は出ない、枕元にタランチュラがいる(笑)…といった本当に過酷な撮影環境ではありましたが、日本では絶対にできない体験をすることができましたね。
CG業界に飛び込んで感じたプロの世界
―そこからどんなきっかけで株式会D・A・Gに入社したのですか?
CG業界に入ろうと思ったきっかけは、自分で3DCGを制作したことでした。先述の制作会社で、番組オープニングのタイトルを3DCGで制作した際、CGってすごく面白いなと強烈に感じたんです。
すぐに、CG制作に特化した会社がないかを探したところ、最初に出てきたのがD・A・Gでした。当時話題になっていた有名ホラーゲームを手掛けていたことも分かって、ここでCGデザイナーとして挑戦してみたいと思ったんです。
―ほとんど未経験で、CG制作の世界に入られたと思うのですが、不安などはありませんでしたか?
もちろんありましたね。D・A・Gの面接でも、代表の酒井と当時プロデューサーの方が面接官だったんですが、初めはまったく好感触ではなくて。
僕が送ったデモリールに対して「ここってなんでこういう編集なの?」「このモーションって何?」といった感じで、なんと…、面接の場でチェックバックを受けたんですよね(笑)
―まさか面接で修正指示が入るとは思いませんもんね(笑)
とてもびっくりしましたね(笑)
ただ、どうしてもCG制作をやってみたいという思いを伝えたところ、社内を見せてもらえることになりまして。
当時、D・A・Gは10名ほどの会社だったんですが、CGデザイナーが作っていたCGのキャラクターを見て本当に驚きました。当たり前ではありますが非常にクオリティが高くて、これがプロなんだと思い知りました。
私はCGでキャラクターなどを作ったことがなかったので、正直、これは勝負できないなとその場で直感しました。代表からも「このデモリールを見る限り、CGデザイナーとしては無理だ。ただ、編集は面白い」と言われました。
―そうだったのですね。それでもCG業界に飛び込まれた理由を教えてください。
面接の際、当時のCG業界ではまだ確立されていなかったポジションとして「制作進行」というものがあるが興味はあるか、という話が出ました。
CGデザイナーとして優秀な方々が多数在籍していましたし、彼らと同じことをして競争していくよりも、素晴らしい能力を持った人たちのアサインを考えたり、スケジュールを管理したりする制作進行という立場の方が、自分自身や会社の将来的にとって良いのではないかと考え、CG業界に飛び込む決断をしました。
住所探しから始まったゼロからの立ち上げ
―様々なご経験をされたと思いますが、一番の修羅場体験を教えていただけますか。
修羅場というものではないのですが、2008年にロサンゼルス支社の立ち上げを担当したときですね。
当時、ロサンゼルスで毎年開催されていたCG業界のイベントに行くたびに代表が「いつかロサンゼルスに支社を出したい」と独り言のように言っていて、ある時、実際にやろうという話になりました。現地にコネクションも一切ない状態で、本当にゼロから立ち上げることになったんです。
法人開設に詳しい弁護士に「住所がないと法人はつくれない」と言われたので、アメリカの不動産屋に「支社開設のために住所を作りたいので、どこか借りたい」と相談したら、「会社がないので法人として借りることはできません」と、そんなパラドックスのようなことを言われました。
―そこからどのようにして会社を広げていったのでしょうか。
CG関連のイベントに行っては名刺交換をしたり、ゲームパッケージの裏に記載されている会社を調べて営業リストを作って全社に電話しました。
「日本でこういう事業をやっている者ですが、デモリールを持っていってもいいですか」と、アポ取りから資料作成、プレゼンまで全て対応しましたが、そもそも英語が得意ではなかったので、本当に大変でしたね。
生活にとって「不可欠なもの」となれる業界を目指して
―二本松様が描いている今後のCG業界の展望、また御社の展望を教えてください。
CG業界だけではなくエンターテインメント業界全体の話になりますが、衣食住や医療のように、生活にとって本当に必要な分野のものと肩を並べる存在にしていきたいと思っています。
先日、東日本大震災から11年目を迎えましたが、震災直後はエンターテインメントという言葉を安々とは口には出せない状態になっていて、社会全体が沈んでいましたよね。その時にエンターテインメントは人にとって必要なものなのだと強く感じました。
エンターテインメントはサブ的な扱いをされることが多いと思うのですが、人にとって不可欠だというポジションにまで、我々が作り出すコンテンツや3DCGの力で持っていきたいと考えています。
―その展望を実現するため、会社としてはどのようなアプローチをしていきたいと思われていますか。
映像とゲームの2つの軸がありますが、ゲーム開発についてはまだタイトルの発表ができていない状況です。
創設したメンバーを中心に、他社で活躍してきた第一線級の人たちが集まっているので、実力は間違いありません。今後、自分たちが生み出したゲームを世に出して、一緒に働いている人たちも自分たちの作品だと胸を張って言えるようなものを作っていけるようなフェーズに移っていきたいと思っています。
最新技術と共に変化していくCG業界におけるリクルーティング
ーCG業界は現在も急速な成長を遂げているかと思いますが、今考えられている課題はありますか。
課題としては人材の発掘でしょうか。
これまで、映像は興味のある人だけが関わる分野でしたが、今では誰もが簡単に撮影することができ、無料のCGソフトも入手可能で、更には作品を発信できるSNSもあります。今まで表に出てくることのなかった才能ある人たちが、機材やインフラ面の制約から解き放たれて、自由に創作できる時代になってきていますので、積極的に出会えればと考えています。実際まだ数パーセントではありますが、既に新規採用をSNS経由で行っています。
―採用において求める人物像について教えていただけますか。
私も含め、いま働いているD・A・Gのメンバーが一緒に働きたいと思う人ですね。
コミュニケーションを取ることなく「自分1人で質の高いものを作ればいい」と考えている人だと、いくら能力が高くても会社のメンバーとしてやっていくのはやはり難しいです。チーム意識をしっかり持てる人といいますか、そこに対してトライする、チャレンジがちゃんとできる人が求める人物像でしょうか。
―未経験者を採用することもありますか。
はい、あります。特にこのスタジオDIVAは、未経験者にも間口を広げていますね。
私がCG業界に転身した時、CG業界で働く人に対して真っ先に受けた印象は、”すごく大人しい”というものでした。テレビ制作業界は昼でも夜でも元気に挨拶するのが基本だったので、大きなギャップを感じましたね。
スタジオDIVAには、テレビ業界やその他の映像業界の方なども含め、他業種の方たちが来てくださることも多いので、元気のない会社のイメージにはしたくないと考え、たとえ未経験でもとにかく声が出ていて動きがいい、活発な人を採用しています。
―声や元気さを重要視されているんですね!
そうですね。今、スタジオDIVAの運営を始めてから1年ほど経ちますが、実際にスタジオご利用いただいた方々の評価としては「声が出てていいよね」「きびきびしてるね」というお声を多くいただいていますので、非常に活気ある撮影現場を実現できていると思います。また、この様な活動一つひとつがD・A・Gのブランディングになっていくと考えています。
「人材」とは会社を形作るもの
―二本松様の考える「仕事ができる人」とはどういう方だと思いますか。
そうですね、例えるならば、料理ができる方でしょうか。
下準備をしっかり行い、絶対に逃してはいけないタイミングを見定めて、同時並行で確実に手を動かしていかなければ、クオリティの高い料理は作れないですよね。また、皆がやった方がいいと分かっていても、面倒でなかなかできないことこそしっかり実施できる人。その積み重ねが最終的な仕事のクオリティに影響すると思っています。
―ではCG業界において、これから必要な人材や活躍する人材はどういう方でしょうか。
会社全体に対して、自分が今何をすべきかを考えられる人ですね。
自分の考えの下でだけ行動していても、それが会社やチームとして向かうべき方向からずれていると、結果としてあまりクオリティの高いものにはならないと思います。しっかりとチーム意識を持ち、必要なものが何かをちゃんと感じながら、コミュニケーションを取って進められる人というのは、活躍し成長していくと思います。
また、今はオンラインでほとんどの資料が揃う時代ですが、例えば素材探しでも、自分で足を運んで自分の目で見て、どんな質感なんだろうとか、光が当たったらどう見えるんだろう、ということを実際に自分で感じている人は、作り出すもののクオリティがまったく違うと思いますね。
―最後に、二本松様は「人材」というものをどのように捉えていますでしょうか。
会社を形づくるものですね。
会社はずっと同じ形でやっていると成長が止まってしまうので、生き物のように形を変えながら適応していくものだと思っています。その時代、そのプロジェクトに必要な人たちが次々とジョインしていき、会社が大きくなっていく。
会社というものを形づくっているのはまさに人材だと思います。
弊社でも「会社として、今後どういった方向性で進んでいくのですか」みたいな質問が出ることがありますが、会社が進んでいく方向性を決めているのは会社に所属する人です。そういう意味でも、やはり会社を形づくるものは人材だと考えています。
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