株式会社LATEGRA代表取締役・山形龍司氏が語る「おもしろき世」を創るということ

 

『エンタメ人』がお届けする、エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。エンタメ業界へ転職を考えている方へ向けて、若手時代の苦労話から現在の業界動向まで伺っていく。第24回は、イベント業界を取り上げる。(編集部)

山形 龍司
1998年~数々の格闘技イベント、舞台、ステージの演出、プロデュースを行う。
(DWANGOライブハウスnicofarre、アジアNo.1 総合格闘技イベント「ONE FIGHTING CHAMPIONSHIP」、「ニコニコ超会議」の「超歌舞伎」等)
2010年、株式会社Lateensail Japanを設立し、その後VR/AR技術専門の株式会社Livegraphicsと事業統合。2021年にはセールスプロモーション領域の株式会社スタジオファンを合併。
中国では、2014年~バーチャルキャラクター「洛天依(ルォ・テンイ)」を総合プロデュースし、一躍国民的アイドルにまで成長させた。

イベントとライブ制作を中心に発展を続けるLATEGRA

── まずは株式会社LATEGRAの事業内容について教えてください。

イベントとライブ制作です。イベントにおいては企業プロモーションイベントや、それにまつわるデジタルマーケティング部門と、ライブエンターテインメント系の制作事業部の2つがあります。ライブエンターテインメント系の制作が特徴的で、最近は日本と中国のキャラクター中心に展開しており、エンタメ系が多いですね。

── 洛天依(ルォ・テンイ=中国のバーチャルシンガー)さんのライブイベントを、毎年春節(中国の旧正月)に合わせてやっているとお聞きしました。

はい、2016年が最初ですね。春節のテレビ番組に洛天依が出演する際、ARを使って中国のテレビ局スタッフと一緒に制作しました。

株式会社LATEGRA設立まで

── LATEGRA設立に至るまでの経緯や変遷について教えてください。その前にも、別の会社を設立されていたそうですね。

2010年にLateensail Japanという会社を設立して、国内のライブ、イベント制作を行いながら海外でのビジネスチャンスはないかと考えていました。主に東アジアと東南アジアを往復し、そのころからARやVRといったテクノロジーをライブやエンタメに応用することができるのではないかと感じていたのです。

そんな折、その分野で日本では先駆的な技術を開発していたLivegraphicsの創業者2人と昔から懇意にしていたので、一緒に仕事をすることになりました。僕は、Lateensail JapanとLivegraphicsを兼務する形です。

僕がLivegraphicsで代表権のある会長職に就き、2017年には2社を統合してLATEENSAIL&LIVEGRAPHICSを設立しました。最初は2つの会社の名前を並べて設立したのですが、長くて言いにくいため、LATEGRAという社名になったのです。

── LATEGRAのホームページでプロフィールを拝見しますと、山形さまは最初総合格闘技イベント「PRIDE」など、数々の格闘技イベントを手がけていらっしゃいます。ここからどのようにしてAR・VRの世界に入られたのでしょうか。

「PRIDE」をやっている時、ARを使用したオープニングの演出を放送用にフジテレビが制作していました。僕は1998年~2007年にPRIDEを手がけたのですが、その時にはもうARがあったのです。

きっかけとして大きかったのは、2011年にドワンゴさんからのお話で、六本木にnicofarreという配信スタジオオープンに関わったことですね。その時に、プロデュースと全体設計をさせていただいたのです。

360°映像で囲われた施設にしたい、今までにないライブが配信できる場所を作りたいというオーダーがありました。ドワンゴは当時、ニコニコ動画で勢いがあり、おもしろいことに挑戦できるのではないかと思ったので、ARやVRといった技術を小屋の中に入れてみました。

この仕事を通じて深くARやVRを知るようになり、2011年にnicofarreで行うイベントのオープニングでもARを使用したのです。ボーカロイドのキャラクターとリアルな人との共演や、nicofarreのステージをプロデュースしていました。そんな経緯もあり、バーチャルキャラクターや放送用のコンテンツと相性が良いと考えていたのです。そういった実績を持って海外に行き、営業を始めました。

── 当時としては先駆者ですよね。

そうですね。ARやVRには可能性があると思ったので、海外で経済が成長している国であれば予算もあり、新しい物に対するチャレンジもしてもらえると思いました。日本で仕事をしながらのため、時差や渡航のことを考えるとアジアです。当時アジアではシンガポールの経済状況が良く、そこをハブとしてアジア各国にコンテンツが展開されていくというのを勝手に妄想して、それにはきっと僕が役に立てるという想いで行ったのがきっかけです。

その後もいろいろな東南アジアの国を回りましたが、その中でもエネルギーが沸騰していたのが中国です。しかし、それが何かに結実する前の状態が2011年~2013年ごろだといえるでしょう。僕は中国へは2012年~2013年ごろから1ヶ月のうち2/3は仕事で滞在し、後は日本に戻ってきての仕事で忙しい状態でした。

制作や演出をやりつつ往復する中、洛天依というボーカロイドキャラクターと出会い、最初は鳴かず飛ばずのコンテンツだったのですが、今は中国の国民的人気アイドルになりました。中国の人たちにとっては、中国オリジナルで最初のバーチャルキャラクターとして、少しテクノロジーの匂いもするし、「若者たち」「文化」というキーワードもあるため、ある種国や市場も後押ししてくれたのです。そのため、数億人の人たちが見るような番組への出演といったことも叶いました。その制作はLATEGRAでずっとやらせてもらっています。

これが中国では大きなきっかけとなりましたが、当時日本国内ではそれだけの予算をかけて実験的な新しい試みをやる機会はありませんでした。その後追いかけるように日本でバーチャルブームが来たので、あまり営業をしなくてもオファーはいただけていて、ボーカロイドなどのバーチャルキャラクター、ゲームキャラクター、VTuberの制作をしています。

もう1つ大きい出来事として、2021年4月にスタジオファンというプロモーションイベントやデジタルマーケティングが得意な会社を合併しました。エンタメ系だけではなく、企業系のプロモーションやデジタルマーケティングを行う部門を一緒にやり始めたという感じです。

中国への再進出と「ライブ3.0」

── さまざまな得意分野を持つ企業を合併して事業分野を広げていらっしゃいますが、今後合併したい企業の領域はどのような分野でしょうか。

実はあまりなくて、中国に再度進出しようかと考えています。きっかけは2021年の年末から春節にかけてうちのチームが中国に渡ったことです。その時の様子を聞いて現地の制作環境は日本の技術やものづくり、文化やクオリティをエンタメ業界においても軽く凌いでいると感じました。

フィンテック(Fintech=金融サービスと情報技術を結び付けたさまざまな革新的な動きのこと)やSNSにおいて中国には国際的な企業があり、「唯一アメリカ企業に対抗できるのは中国企業」と言われるほど、中国のテクノロジー系やインターネット系の企業は伸びてきています。

同じくエンタメ業界コンテンツ制作においても、僕が滞在した2013年~2015年ごろと2020年~2021年にかけてはもう全然様相が違ってきているのです。相変わらず経済成長率は高く、中国発で世界にということを一般産業やエンタメ業界で推し進めているので、もう一度中国で仕事をしてみたいと思いました。

今、LATEGRAは中国国内である程度名前が通っており、まだその「神通力」が通じる時期なので、ここで出て行きたいのです。僕が当初中国でやりたかったのは、日本のソフトと中国のマンパワーを合わせて、アジア発のエンターテインメントを発信するということです。

しかし、当時は中国の人たちのマインドや文化、社会状況が整っていなくてできませんでした。そこで日本から逆にすべてパッケージ化して人も連れていき、中国のテレビ局の中で我々が送出し、それをテレビ局が電波として流すという形を取ったのです。

今の中国ではものづくりをするというマインドや、ものづくりにこだわりを持つようになっています。中国のアニメや映画は多くの人に見てもらえるプロモーションを日本ではしていないので、マイナーなものとしてしか知られていませんが、クオリティは間違いなく上がっています。中国の人が原作を考え、アニメーションを作ると、物語、演出などの表現の仕方も含めて日本でも追いつくのが難しいところまでクリエイティブが来ているのです。

── プレスリリースにも掲載されていた「LATEGRA engine.」とはどのようなものでしょうか?

ツールではなく、会社の機能といったらよいでしょうか。簡単に説明するとARやバーチャルキャラクターは、昔よりも専門的知識やスキルが必要で、その集合体で出来上がっています。コンピューティングとネットワークが介在した物がイベントやライブとなっていくのです。LATEGRAではそれをワンストップでできるということを「LATEGRA engine.」という言い方をしています。

ワンストップでやるための専門家であり、クリエイター集団であり、テクノロジストがLATEGRAには全部おり、その人たちを統括して制作するプロデューサーもいるので、それらを総称して「LATEGRA engine.」と言っています。

── LATEGRAでは今「ライブ3.0」を提唱されていますが、その考え方についてお聞かせください。

「ライブ1.0」「ライブ2.0」といった形でそれぞれ定義づけが必要ですが、僕が考えたので仮説だと思ってください。まず、「ライブ3.0」はライブの新しい価値を創り出すということです。

これを前提に「ライブ1.0」を定義づけすると、お祭りや祭祀といった地域性・宗教性のある、ボトムアップ型のライブです。

「ライブ2.0」は時代背景として技術が発達し、電波が現れ、マスメディアができたので、シャワーフォール型のライブコンテンツだと言えるでしょう。

「ライブ3.0」は、双方向や同時接続といったインターネットの特性を持つオンラインでのライブです。オンラインライブやイベントの新しい価値をきちんと創り出そうという考え方を、「ライブ3.0」と呼んでいます。

── 新しい価値というのは、インタラクティブ性を高めるということでしょうか。

概念や機能で言うとそうですね。スマホやタブレット端末、PCといった平面のメディアと、ヘッドマウントディスプレイという、フルにバーチャルな世界の2種類のデバイスがある中で、実験的なコンテンツなどで試行錯誤しています。正直まだこれがオンラインライブの本質的な価値というのは試行錯誤中です。

一般的にインターネットができたことで、全てのものがデジタルツイン(サイバー空間内にフィジカル空間の環境を再現)になったと言われます。ですが、リアルな体験と同じものをそのままインターネットに移植しているわけではありません。もっと本質的な違う価値を提供したのが、例えばAmazonが成功した要因だと思うのです。

エンターテインメントも同じで、インターネット自体が持つ同時接続や双方向性といった良さは理解していますが、リアルの体験をインターネットの世界で追いかけるというのは、今のテクノロジーではまだ無理があると思っています。

もし映画の「レディ・プレイヤー1」(世界中の人々がVRの世界に逃避している状態から始まる)のような世界になったら、そのまま世界をコピーしたり、もっとすごい世界を作れたりするので、そこから人々が帰らなくなるかもしれません。

しかし、まだ今のテクノロジーでは難しいので、新しいこの時代の価値とは何かを考え、創発したいのです。これが僕らの「ライブ3.0」の考え方で、これに則ったサービスやコンテンツのR&D(研究開発)をしていくのがLATEGRAの「今」ですね。

── 今後、事業を展開する上で解決したい課題は何でしょうか。

事業展開的には「ライブ3.0」、中国での展開がそうですね。

アニメや漫画といった文化は世界が欲したため、日本から発信されました。日本にはそのようなものを制作する土壌や、文化的な背景がおそらくあるはずです。日本でマーケティングされた商品やサービスは世界で通用するものが多いのではないかと思っています。なぜなら日本は単一民族で言わずもがなという文化で生きている人が多いため、物事をシビアに見ているのです。日本で成立するサービスや、おもしろいものはエンターテインメントの世界でもライブの世界でも僕は中国に持っていきます。日本がマーケティングのテスト市場で、そこで評価が得られたものは中国に持っていっても受け入れられるのです。それを我々がビジネスにするということです。

LATEGRAがライブで創る「おもしろき世」

── エンタメ×技術という視点で山形さまが注目している技術とは何でしょうか。

正直に言うとあまりありません。

言ってしまえば「全部」なのですが、「特に」というのがないのです。理由は先ほどの「ライブ3.0」で、ライブをオンライン化したり、リアルのライブとオンラインライブが共存したりすることで、経済的な価値も体験的な価値も増幅した形で提供できるような、本質的な価値を見つけるために必要な技術を見つけたとしたら、それに興味を持つでしょう。

必要なことを実現するのにツールとして利用するのが技術だからです。今ちょっと世の中の物の見方や情報発信の仕方が技術崇拝のようなところがあって、言葉が先行してしまっています。例えば、DX、XRとさまざまに言われていますが、それで本当に価値のある体験、体感、情報を出せているかどうかには懐疑的です。

── ライブエンタメ市場では、今後どのようなマインドやスキルを持つ人が活躍できるのでしょうか。

僕らの業界に限ったことではなく、これからどこの業界でも共通して言えることは、一言で言うと「柔軟性」になるかもしれません。例えば答えのない状態でも耐えうる強い耐性を持っていることです。今は物事やビジネスに必ず答えがあるという世の中ではなくなりました。答えがあるというのは楽ですが、悩むかもしれないけれど一生懸命考え、企業で言うとPDCAを回すのが重要です。

また、柔軟性というのは、セクショナリズムを持たないということです。そこからはみ出ることや、柔軟な姿勢や、学ぶ姿勢を持っているかということが僕は実はとても大事だと思っているのです。今までは限られた職域の中で限られた事をどれだけ効率良く、早くやり遂げるかということを評価していたので、それで良かったと言えるでしょう。それだけ企業活動がシステマティックにできていたためです。今はその根本が揺らいでいます。

これからは自分の職域や領域を頑なに守るということではなく、周りにはみ出していけるような素養、思考回路を持っている人が大事なのではないでしょうか。

── 山形さまにとってエンタメとは何でしょうか。

「おもしろきこともなき世を面白く」と高杉晋作が辞世の句を読んだら、「すみなすものは心なりけり」と看病をしていた野村望東尼が結んだという話があります。2人の合作と言われますが、この「心」の部分を「ライブ」という風に変えていただければと思います。

会社として社会課題を解決することや、エンタメが人の生活に役に立つといったことはおこがましく感じてしまいます。なぜなら、僕らはエンタメを創るということで十分に楽しませてもらっているためです。それが誰かの役に立てばというのがちょうどよい所です。世の中はおもしろくないことはありません。それをおもしろくするのも心次第だということです。僕らの作ったライブがそんな風に人の心に作用してくれたらいいですね。

「おもしろきこともなき世を面白く すみなすものはライブなりけり 山形龍司」