アソビシステム社長・中川 悠介氏が語る 個の時代の表現のあり方と求められる人材像

 

『エンタメ人』がお届けする、エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。エンタメ業界へ転職を考えている方へ向けて、若手時代の苦労話から現在の業界動向まで伺っていく。第9回は、タレントマネジメント業界を取り上げる。

きゃりーぱみゅぱみゅをスターダムにのし上げるなど、さまざまな領域にわたって原宿発のポップカルチャーを発信し続けるアソビシステム株式会社代表取締役社長・中川 悠介氏に、エンタメ業界の動向や展望、求められる人材像について聞いた。(編集部)

プロフィール

中川 悠介(なかがわ・ゆうすけ)

アソビシステム株式会社代表取締役社長
大学在学中からさまざまなイベントを主催し、2007年にアソビシステム株式会社を設立。「青文字カルチャー」の生みの親であり、国内外で開催されるライブイベントや各種メディアを通じ、原宿が生み出すポップカルチャーを世界に発信。国内におけるインバウンド施策も精力的に行っている。

大学在学中からさまざまなイベントを主催し、2007年に「アソビシステム株式会社」を設立。イベントプロモーションやアーティストマネジメントなどを通じて、原宿を基点にポップカルチャーを国内外に向けて発信する。
※取材当時の情報になります

人が集まる場所で新しいものを作るのがアソビシステムの原点

── 2007年にアソビシステムを創業されました。学生時代のことなど、創業に至る経緯を教えてください。

大学在籍中からイベントをやっていましたが、起業家意識のようなものはありませんでしたね。今でこそスタートアップという言葉もよく使われるようになって、学生による起業も当たり前になってきていますが、当時は違っていて。

僕の場合は、大きなイベント会場を借りるため、目的ありきでの起業でしたね。学生ですと、支払能力に信用がないことが多いので、大きな会場を借りるのが難しくなるんです。なので、起業前に初めてZepp Tokyoでイベントをしたときは、何百万円もの現金をそのまま持っていって借りたのを覚えています。

── その後、タレントマネジメント事業についても始められました。なぜ、タレントマネジメントを始めようと思われたのですか?

イベントに読者モデルの方たちが出てくれていたんですが、当時、読者モデルというと、就職やある程度の年齢で卒業して辞めていくものでした。それがちゃんと職業といえるようなものになっていく仕組みづくりを考えようとしたのが、最初だったと思います。

── 御社所属のアーティストである、中田ヤスタカさんやきゃりーぱみゅぱみゅさんとの出会いについても教えてください。

ふたりともイベントですね。当時、中田ヤスタカが作った音楽がファッションショーで流れていたんです。それがとても印象的だったのを覚えています。

きゃりーもイベントのMCをやっていたときに、「めちゃくちゃ面白い子がいるな」と目にとまりました。ところが、実際に会ってみるとステージの印象とは違ってとても真面目な子で。時間も守るし、連絡したらちゃんと返信もある。地に足がついている感じがしましたね。

 

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── 当時、苦労されたことはありましたか?

まずタレントをマネジメントするのが初めてだったので、営業からメディアの出し方まで、何をどうしていいかさっぱりわからず大変でした。そこで、自分たちでメディアを作ったりイベントを開催したり、フックになるようなきっかけ作りをしていました。

たとえば当時、赤文字系※1雑誌がすごく流行っていて、イベントなども盛り上がっていました。そこに着想を得て、原宿にいる個性ある子たちを集めて「青文字系」※2のカルチャーを作ろうと。
※1 20代前半の女子大生やOLに人気なコンサバ系ファッションを指す
※2 中川氏が命名。ガーリー、個性的、非日常感のある原宿系ファッションを指す

アメブロで4人くらいのモデルが「青文字系」を謳ってブログを書き始めたんですよ。そしたら、その子たちがいきなりランキング50位とかに入って…。
それって、いわば翻訳的な作業だったと思うんですよね。彼女たちは人気があって、大勢のファンもついていたのですが、大人に理解してもらうためには何かしらの形容詞をつけたりして、形として見せる必要があったわけですよね。「青文字系」はそのいい例だと思います。

── 以前からあったストリートカルチャー「裏原系」も同じですね。

そうそう。僕はもともと「裏原系」が大好きだったんですよ。初めて借りた事務所も「BOUNTY HUNTER」の上階でした。なので、その流れのイメージはすごく持っています。

人にまつわる総合商社としてプラットフォームに依存しない表現を求めて

── タレントマネジメントにおいて意識されていることはありますでしょうか。

今でこそマネジメントの価値が話題にのぼることが多くなってきて、セルフプロデュースの時代ってよくいわれますが、僕らは前から変わっていないと思っていて。たとえば、次のステップのために必要なことを無理してやることもときには必要かもしれないけど、タレント本人がやりたくないならやらなくていいと思っているんです。

そのあたりは、コミュニケーションのバランスですよね。マネジメントといっても、根本的には「人と人」なので、その人をどうプロデュースしていくかというところだと思っています。

また、表に立つか、裏で支えるかというのもそんなに大きな問題じゃないと思っています。会社がひとつのカルチャーだとしたら、そのなかにいる人が表に出るのも、プロデュースするのも一緒だと思っていて。プロデュースの対象が自分なのか、タレントなのかってだけの違いだと思うんです。昔と違って、今は選択肢がいっぱいあるんじゃないですかね。

── 2020年に立ち上げられたインフルエンサーを支援する事業「ASOBI+(アソビプラス)」とも関わってくる点ですね。

そうですね。僕らは自分たちのことを「人にまつわる総合商社」だと思っています。人をマネジメントしたりプロデュースしたり…。そこから始まるもの作り、場所作りみたいなことをずっとやってきていますから。

多種多様、個の時代になってきたとき、タレントとの向き合い方も変わってくると思っているんですよね。インフルエンサーやYouTuberなど、たくさんいると思うんですが、プラットフォームに依存した表現のあり方っておかしいんじゃないかと思っていて。人を扱うからこそのやり方があるんじゃないかと。

一般の人がご飯を食べているところをアップするなんて、昔では考えられなかったことがスタンダードになっていますよね。いろんなことに可能性があるんじゃないかと思っているので、その可能性を引き出していくことが必要かなと思っています。

企業とのマッチングということでいえば、これまではインフルエンサー側は受け身型の仕事だったと思うんですが、今後は自分から動いていくことが大切なんじゃないかなと思っていますね。

個の時代に求められるのは「自分の言葉」をもつ人

── インフルエンサー業界における課題と今後の対策について教えてください。

発信力があるとか、自分を持っている人たちが強くなる時代だと思っています。1つ1つの投稿だけじゃなくて、ストーリーみたいなものが意味をもってくるでしょうね。本当に自分が好きなものを自分でわかっていること、そういうことが大切になってくるのかなと思います。

── 表に立つ、裏で支えるに関係なく、今の業界で活躍しているのもそういう人でしょうか。

そうですね。ただ可愛いだけの人がアイドルになる、みたいな時代は終わったのかなと。自分で発信する力をもっていたり、自分の言葉をもっていたりする人は強いと思っています。

あと最近、採用面接をしていて思うんですけど、何人かに囲まれた状態でも自分の思いを伝えられるって大事だなと改めて思いますね。

── 面接ではどんなところを見ていらっしゃいますか?

たとえば、面接には私服で来てほしいです。履歴書じゃなくて、Instagramの投稿を見たい。その人がどういうことを考えていて、どういう生き方をしているのか、どういうものが好きなのか…。履歴書の文字面では伝わらないことが知りたいですね。

人には得意、不得意があって、嫌いなことをやっていても面白くないですよね。知らないことなら勉強して知ることで好きになることはあると思うんですけど、嫌いなことはどうやっても好きにはならないですよね。

── 未経験の方でも受け入れているんでしょうか?

最近は、経験者よりも何も知らない人のほうが逆にいいのかなと思ったりすることもあります。仕事をするうえで、成功体験ってとても大切なんですが、成功体験が1番のネックになるときもあると思うんですよね。

成功体験がよく作用する場面もあると思うんですが、圧倒的な成功体験があると、それが忘れられなくてまた同じことをやろうとしてしまうこともある。それならいっそ、真っさらなほうがいいのかなと。

── 未経験の方が中途で御社のような会社に入るためにはどんなスキル/ポテンシャルが必要ですか。

今の時代、商品を売るためのマーケターやPRはいるんですけど、ストーリーメイクで人を売るって人はあまりいないじゃないですか。そこをしっかり作っていきたいなと思いますね。

同じマーケターでも、自分の経験と知識をちゃんと噛み砕いて次の場所に活かせる人を探していますね。自分が経験してきたことがすべてだと思わずに、それを自分らしく表現できることが大切かなと思っています。

── 具体的に、一緒に働きたい人材像はありますか。

そうですね。ガッツと明るさが必要なので、異業種の方も面白いと思います。飲食店で働いていた人とか。経験者でいえば、ずっとデジタルマーケティングをやってきて、生の温度感を感じてみたいという方もいいと思いますね。

信用し合える仲間とゼロからコンテンツを作れる強み

── では、中川さんにとって「エンタメ」とはなんですか。

コロナ以後、特に感じたんですけど、不必要であるようで、実は一番必要なんじゃないかなと思っています。最近はプラットフォームが強い時代だったと思いますが、これからはコンテンツホルダーが強い時代だと思っていて。ゼロからコンテンツを作ることができるところに、エンタメの力があると感じています。人を動かしたり人に思いを伝えたりできる強さを、今は特に感じていますね。

── 中川さんにとって「人(人材)」とはなんですか。

同じ仲間じゃないですか。だからその人をどれだけ信用してあげられるか、どう信用してもらうか、ということが大切だと思っています。

僕らは大企業じゃないので、たとえば働き方改革という点でいえば、僕らのように業務が多岐にわたるのは良くないこととされるのかもしれないですけど、実際は必ずしもそうじゃないのかなとも思っていて。その人の魅力ということでいえば、逆にいろんなことができることが武器になる時代だと思うんですよね。

社員にしてもタレントにしても、この人のことが好き、売りたい、一緒に働きたいと思う気持ちがすごく大切な気がしていますね。

〔取材は2020年11月12日、アソビシステム株式会社にて〕

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