株式会社電通ライブ コーポレートユニット エグゼクティブ 渕脇拓史氏が語る 「イベントプロデュースの舞台裏。電通ライブが変革を起こす新たな挑戦​​」


『エンタメ人』がお届けする、エンタメ業界のHRパーソンへのインタビュー連載。

エンタメ業界へ転職を考えている方たちへ向けて、人材開発や組織開発、働き方改革の工夫などを探っていく。第5回では、株式会社電通ライブのコーポレートユニットエグゼクティブである渕脇拓史氏が、グローバルな舞台での経験に基づくキャリアの振り返りや、イベント業界の現状や未来、新たな挑戦を語った。また、変化する業界に求められる新しい人材像についても言及している。(編集部)

プロフィール

株式会社電通ライブ
コーポレートユニット エグゼクティブ
渕脇拓史

1993年、株式会社電通プロックス(現:電通プロモーションプラス)に入社。
イベント部門に所属し、最初の2年間はスポーツイベントや大規模なイベントへ参加。
2000年に行われた大手精密機器メーカーの大規模な展示会にて初めて海外での業務に携わり、このプロジェクトをきっかけに約15年間、海外を飛び回る生活を送る。
2017年に電通ライブへ転籍。国際的なスポーツの大会の民間スポンサー対応チームのマネージャーに就任し、2019年には全国で開催されたプレイベントの統括プロデューサーも担当。
2021年秋に人事部へ異動。

◆グローバルキャリアの舞台裏。異文化での仕事経験から学んだ対応力

―― ご自身のご経歴と役職について教えていただけますか?

現在は人事を担当しています。
1993年に当時はまだ合併前の電通プロックスに新卒で入社しました。(※)電通プロックスは、元は電通映画社という社名で、CM部門とイベント部門が主要な柱でした。私はイベント部門に所属し、最初の2年間をスポーツイベントや、東京湾大華火祭のプロジェクトなど大規模なイベントを担当していました。2年目が終わる頃には、大手精密機器メーカーの担当に異動しました。
その後大きな転機が訪れ、2000年に初めて開催された大手精密機器メーカーの大規模な展示会に関与することとなりました。このイベントは、ニューヨーク、パリ、東京の3拠点で行われ、このプロジェクトを通じて、初めて海外での業務に携わる機会を得ました。2000年代は頻繁に海外を飛び回る生活で、2002年には中国北京での業務を経験し、その後上海をはじめアジア各国での仕事が増えました。この国際的なプロジェクトは2015年まで続きました。

2017年には、電通ライブへ転籍し、国際的なスポーツの大会に携わる民間スポンサーのアクティベーション対応チームのマネージャーに就任し、2019年からは全国で開催されたプレイベントの現場窓口を取りまとめる統括プロデューサーを担当しました。2021年の秋に大会が終了し、人事に異動することになりました。人事の職務はまだ2年目であり、経験は浅いですが、コーポレートユニット エグゼクティブとしての肩書きで力を注いでいます。

※:電通アクティス東京(1950年設立)、電通プロックス(1943年設立)、電通コーテック(1956年設立)、電通アクティス大阪(1952年設立) の4社合併により1996年に株式会社電通テック創立

―― キャリアの半分以上がグローバルな仕事に尽力されていたと感じますが、そこで得た経験や、感じた日本との大きな違いについてお聞かせください。

誰もがおっしゃることかもしれませんが、日本の社会では、行間を読んだり、相手の気持ちを察する力といったものが重要視されます。しかし、海外ではそういった曖昧なコミュニケーションが通用しないことがあり、イエスかノーかが非常にはっきりしている社会です。

特に2002年に新興国で仕事をした際は、非常に厳しい状況でした。新興国では、エンターテインメント業界の仕組みが欧米よりも進んでいなかったため、イベントの美術や施工ができる協力会社や演出家や音響・照明・映像などの技術スタッフが不足していたり、イベントコンパニオンもほとんどいない状態でした。
今となっては笑い話ですが、あるイベントで有名なマジシャンの道具を借りて、イリュージョンを再現することになりました。箱の中に人が入り、その箱にナイフを刺していくイリュージョンです。
事前に箱に入るモデルのオーディションを行いましたが、イベントの当日に来たモデルが全くの別人でイリュージョンが成立しないかもしれないというアクシデントもありました。
イベントというのは、時としてこうした想像を超えるアクシデントが起こります。
臨機応変な対応力が必要ですし、常に第二、第三の手を用意する癖が身についたと思います。今では、常に最悪の事態を想定して、バックアップを用意することが習慣となっています。

◆コロナ禍を経て、イベント業界の現状とハイブリッドな未来

―― イベント業界の状況について伺います。近年はコロナの影響も受け、VTuberやメタバースなどオンラインイベントにも注目が集まっています。現在のイベント業界の現状をお聞かせください。

私は2年前から現場を離れているため少しズレがあるかもしれません。コロナ禍を経てだいぶリアルイベントが復調してきましたが、まだ完全には回復していないと感じています。

コロナ禍の影響もありオンラインイベントが急速に発展しました。オフラインのリアルなイベントと比べて準備の負担が少ないなどの利点も多くあります。
また、例えばドームなど大型施設では6万人程度の収容になりますが、オンラインならばそれ以上の人数が参加することが可能です。
今は数年前のようなイベント開催の制限がなくなり、リアル開催をするイベントも増えましたが、オンラインの利便性を経験し、そのままオンライン開催や、オンラインとリアルのハイブリッド開催をする企業が増えています。

しかし、その費用対効果についてはまだ整理しきれておらず、多くの企業がオンラインイベントに挑戦しているものの、本格的な成功事例がまだまだ少ないというのが現状です。
今後は、成功事例を積み重ね、クライアントにアピールしていく必要があります。リアルイベントも含め、効果的で関心を引くハイブリッドなイベントの提供などにより、クライアントが安心して投資できる環境を整えていく必要があると考えています。

―― イベントの準備から本番実施までの流れ、また終わった後に結果をどのように検証するのかを教えてください。

弊社が手掛けるイベントは、企業の課題解決を目的としたコミュニケーションの手段としてのイベントが中心です。興行系のイベントとは異なり、クライアントの意思があって初めて私たちの提案の機会が生まれます。例えば、企業が新製品の発売をする場合、CMなど広告での認知拡大が重要ですが、消費者が実際に商品を試してみるリアルな体験も不可欠です。これまではクライアントの要望に応じて、私たちが全体のイメージや方向性といったレベルの企画プレゼンを行い、採用していただいたらさらに細かな設計・準備を進めていくという流れでやっていました。

イベントは準備段階においてはプロフェッショナルの目でしか見えないものがあります。会場やステージの設計図を読み解くこともそうですし、進行台本を読んでリアルなステージ進行を想像することも同様です。そのため、クライアントに本番のイメージを伝えるための資料を作成し、プロセスを確認しながら進めていきます。

最終段階で追加予算の調整が必要な場合も生じます。演出において、私たちはある程度経験に基づいて出来上がりはイメージできているのですが、リハーサルを経てクライアントの「もっとこうしたい」というような要望が出てくると、予算の許す範囲で、時には追加予算を投じて“ラストミニッツ”の修正を行っていくのです。こうしてクライアントの望むものを作り上げるのが私たちの仕事です。

20世紀型のイベントとしては、ここまでで良かったのですが、現代では、イベントが市場に与える影響や効果・検証・結果まで求められる傾向にあります。しかし、この課題に対する絶対的な回答はまだ確立されておらず、様々な検証を進めながら対応しています。

例えば、ドームのような場所での商品サンプルの配布は収容人数が明確なので配布個数を算出できます。しかし、大型商業施設のような不特定多数の人が往来する場所でのイベントでは全数カウントが困難です。そのため、WEB上でパネルを用意して参加者にアクセスしてもらい、イベントの前後で心理変容の有無について調査を行う手法が採られることもあります。
また、広告やPR効果がどれだけあったかといった評価指標が必要な場合、例えばPRイベントでは事後にメディアにどの程度露出されたかを広告費に換算して評価します。これによってクライアントに納得いただき、1回限りでなく、次に繋げていく戦略を検討することが求められます。

そして、これらの取り組みの中で注視しているのは、これまで主流だったBtoBの視点から、クライアント企業に対する消費者や社会の評価を見逃してはならないという認識です。つまりは“BtoB”から“BtoBtoC”への転換です。これまでの私たちが行ってきたクライアント中心のアプローチの領域を超えて、エンドユーザーの動向や興味関心をより正確に捉えた新しいアプローチに変革していく必要があります。自身の強みや武器を見つめ直し、新たな営業スタイルを模索する時期にあると認識しています。

◆電通ライブの新たな挑戦。イベント会場検索サイト「VENUE LINK」がもたらすイベント業界の変革

―― 電通ライブの強みや競合他社との差別化ポイントをお聞かせください。

弊社は、2023年にイベント会場を検索するサイト「VENUE LINK」を作成しました。このサイトで、私たちがイベントを企画する際にどのような視点で会場を選んでいるかを明確にし、可視化しました。VIPの動線など、プロの目線が必要な検索方法も提供し、イベントを企画する側と利用する側の双方が利用できる仕組みとなっています。BtoB向けではありますが、一般の方も利用可能です。

これまで私たちにとって、会場はベンダーという立ち位置でしたが、「VENUE LINK」のサービスを開始したことで会場側のメリットが生まれ、会場からお仕事を頂くことも発生しました。他にも、例えば最新のテクノロジーを駆使した演出機材を持つベンチャー企業があった場合、新しい機材というのは使う側としての不安もあるので手が出せなかったりするのですが、そういう企業をクライアントとして事業を行ったり、共同制作をするような発想、いわゆる多角的な視野を持つことが重要だと思います。
また弊社の強みとして、ショールームや店舗の内装、博覧会などのパビリオンなどの空間プロデュースを行うスペースプロデューサーが存在します。
舞台美術やテレビの美術制作とは異なり、弊社のプロデューサーは舞台や画面の中などの平面的に表から目に見える範囲にとどまらず、裏側であるバックヤードや観客の安全やスタッフの配置まで想定した360度を考慮して空間設計を行います。イベントのブランディングでは、空間全体のデザイン性に重点が置かれます。こうしたアプローチにより、通常のイベント会社に比べて、空間を見る能力が高く、デザイン思考が強い人材が多いと考えています。

―― イベントプロデューサーの仕事に興味を抱いている方たちが、日常的に意識すべきポイントやアドバイスはありますか?

私は人事の仕事をしながら、主に人財育成に焦点を当てており、どうやれば優れた人財が育つか、どのように採用すれば良いかを考えています。具体的なアドバイスは難しいですが、広くアンテナを張り、自分の好きなことへ拘りを持つことはもちろんですが、興味がない分野も勉強して関連性を持たせていくことが重要だと感じています。

以前は一つのクライアントの満足を考えるだけで良かったのですが、そのクライアントの満足の先にもう一つの別のクライアントを掛け合わせたり、他の事象を掛け合わせる、そういった異なる分野の仕事を組み合わせることで相乗効果が生まれると考えています。そんな多角的な視点や創造を意識してほしいと思います。

◆変化が求められるイベント業界において必要な人材とは

―― キャリア採用において、異業種からの出身者が活躍している事例はありますか?

まず、中堅層にはエンターテインメント業界はもちろん、様々な業界から転職してきたキャリア採用者が多数おり、キャリア採用者は総じて自分の武器を持っています。私たちは一般企業とエンターテインメントの架け橋であり、その調整役として適切に機能することが求められます。他業種の方でも円滑なコミュニケーションスキルを駆使して仕事を遂行できる方は、適しているかもしれません。

―― 最後になりますが、変化が求められているイベント業界で御社が求めている人材について教えてください。

従来は、クライアントを安心させ、満足させることが仕事のできる人間とされていました。今ではさらに、マーケットや社会の動向を見ながら提案でき、高品質な現場まで繋げる柔軟性が重視されています。単なるクライアントワークに徹するのではなく、同等なパートナーとして高め合える営業スタイルやプロデューサーとしての役割が求められています。今後は、このような人材を積極的に採用し、育成していく方針です。

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*本記事に記載された内容は取材時2023年11月16日のものです。
その後予告なしに変更されることがあります。