クラスター株式会社 CFO岩崎司氏が語る「予測不能なメタバース業界で世界一を目指す理由」

 

『エンタメ人』がお届けする、エンタメ業界のHRパーソンへのインタビュー連載
エンタメ業界へ転職を考えている方たちへ向けて、業界動向や、人材採用の工夫などを探っていく。第1回は、最先端の技術と知見で業界を牽引するメタバースプラットフォームの運営企業取り上げる。(編集部)

プロフィール

岩崎司
京都大学法学部卒業後、三菱商事株式会社入社。三菱自動車の海外販売・オートローンを行う本部の事業管理を担当。 2014年、キャリア女性支援サイトを運営する株式会社LiBの創業期に参画。創業事業のサービス立ち上げや営業企画等を担当。2017年、クラスター株式会社に参画し事業開発や経営企画、バックオフィス全般を担当。2018年、取締役就任。
※取材当時の情報になります

目指すのは、最も身近で手軽なメタバース体験を提供するサービス

 ―クラスター株式会社の事業内容について教えてください。

弊社は「cluster」というメタバースプラットフォームサービスを提供している会社です。
「cluster」とはアバターやバーチャル空間、ゲームといったコンテンツを自身で制作したり、ユーザー同士が集まってコミュニケーションできるサービスになっています。

YouTubeのCG版、ゲーム版とイメージすると分かりやすいかと思います。今まさに一般のクリエイターの方が収益を上げられる仕組みもテスト段階にあるので、今後YouTuberのようにクリエイターが稼げるようになっていく予定です。

―個人のユーザーが多いのでしょうか。

そうですね、ユーザー数は公表していないのですが、イベントの累計動員数だけでも1000万人を超えているので多いと思います。

ユーザーが多い理由としては、PCやVRだけでなく、スマートフォンからもアクセスが出来るため、どんな方でも気軽に楽しんでいただけることが大きいと考えています。

メタバースというとVRだけ対応しているというサービスも多い中、「cluster」はスマートフォンにも対応しています。スマートフォンでリアルタイムに動的なCGを表示するためにはリッチなコンテンツを自動的に軽くする技術が必要ですが、このあたりは弊社の特許技術でもあります。

スマートフォンがあれば誰でも遊べるというハードルの低さからもおわかりいただける通り、弊社は現在「最も敷居の低いメタバース」を目指しています。

―法人ユーザーのご利用も多いのでしょうか。

そうですね、個人の方だけでなく企業様にも活用いただいております。
特に「cluster」というバーチャル空間を利用してプロモーションやイベントを仕掛けたい、というお話は多くいただきますね。

多くの企業様が弊社にご相談してくださる理由は、様々な機能を提供できるからだと思っております。

「様々なデバイスに対応してほしい、収益化できる仕組みも欲しい、イベントも催したい、物販も行いたい、大規模アクセスにも対応して欲しい…」など、企業様がメタバース内でプロモーションを行う際には様々なご要望をいただきます。

こういった要望を総合的に実現できるメタバースプラットフォームとして最終的に「cluster」が選ばれているのは強みだと思います。

具体的な事例としては、ポケモンとコラボして「cluster」内に遊園地を作ったり、現実の渋谷を模した「バーチャル渋谷」をオープンし、イベントなどを催しました。他にも、金融機関をはじめとした大手企業様の入社式など、エンタメ系ではないイベントの依頼も受けています。

元々どちらもリアルで開催されていたイベントでしたが、コロナ禍でリアルに人を集めることが難しいという状況の中、cluster内では多くの方に参加していただきました。

試行錯誤の中、コロナが追い風に

―岩崎様の仕事内容について教えてください。

CFO(最高財務責任者)ではありますが、管理部門の業務全般を担当しています。
財務や経理はもちろん、法務・労務に加えて人事全般、採用や組織開発についても統括しています。

―仕事をする上で意識されていることはありますか。

今まで事業開発に携わっていたので、
その視点を持って管理部門の業務にあたっています。

ただ単に管理体制の整った会社になったとしても、事業が成功しなければ会社は潰れてしまいます。管理部門の仕事は、前線のメンバーが良いアウトプットを出せる環境をつくり、事業の成功確率を上げることだと思っています。

なので、その環境を作るためにも、コーポレートサイドも攻めを意識して動いています。

優秀な人を大勢採用してくるのも、大規模なプロモーションを仕掛けるために資金調達をしてくるのも立派な攻めの一手です。
守りに見える内部統制も、社内体制を整備することでメンバーが迷わず事故らず効率的に担当業務に邁進できれば攻めの施策とも言えます。

―今までの経験がつながっているのですね。岩崎さんが入社してから今までに、苦労された点などあれば教えてください。

事業開発の話になってしまうのですが、事業の立ち上げ時は本当に大変でしたね。
2017年に2億円の資金調達をしたのですが、最初「cluster」はバーチャル空間の中でイベントを開催できるサービスだったんです。イベントのジャンルはエンタメに限らず、展示会や勉強会、セミナーなどビジネス色の強いものを想定していました。

また、当時はまだスマートフォンにも対応しておらず、PCとVRでしか利用できない仕様でした。高価なVRデバイスを装着し、バーチャル空間を利用してアバターの状態でミーティングやセミナーをやる意味が分からない、と最初は興味を持ってもらえませんでした。
超えなければならないハードルも多かったし、まだ早いのかもしれないと思って一度「cluster」の開発を止めて他のサービス開発を始めたこともありました。

―厳しい状況から一気にニーズが増えたのはきっかけがあったのでしょうか。

決定的なきっかけはなく、様々な要素が混ざりあってVRやメタバースのニーズが顕在化しつつあると思っています。

一つは、デバイスの発達でしょうか。VRデバイスやスマートフォンのチップ性能、処理能力が劇的に上がったことで、よりリッチなCGコンテンツを気軽に見られるようになりました。

また、バーチャルYouTuberの流行でバーチャルコンテンツに触れる機会が世間で徐々に増え、一般の方も少しずつ慣れてきたのもあると思います。

そして、2020年にコロナウィルスの影響によりリアルに人と会えなくなる状況が重なりました。その中でオンラインやバーチャルで人に会うことに対してのハードルが下がり、ニーズも増加していきました。

ちょうどこのタイミングで「cluster」のスマホ対応がリリースされたり、イベント以外の機能が一気に充実したことで上手く流れに乗ることができました。

―そういった状況は予想されていたのでしょうか。

コロナウィルスというきっかけは想定していませんでしたが、代表は2016年から「いずれ人間同士がリアルで会うという体験は”贅沢”な体験になる」と言っていました。当時は「?」と思われていたこの言葉も、今だとこの言葉の意味するところが現実感を持って感じられるのではないでしょうか。

バーチャル空間を利用することが当たり前になっていく世界は長い目で考えれば必ず起こる未来だと思っていましたが、それがいつ、どう浸透していくかは未知数な部分が多かったです。

方向性は合っていても、どれに注力したら火が付くのか分からない、何がきっかけになるかも、どこからブームが起こるかも分かりません。

VR業界は予測不能なことばかりですが、だからこそチャンスも多いので、常に動きやトレンドを見ていないといけないと実感しました。

日本のメタバースが世界一になる鍵はゲームとIP

―VR業界に入って今までと違うと感じたことはありますか。

前職は人材サービスだったので、単純に扱うものは大きく変わりました。そのため、エンタメやゲームについてかなり勉強しました。

休みの日は一日中ずっとアニメを見て、エンドロールに出てくる声優さんや製作委員会、制作会社を全て検索したり、ゲームをプレイし漫画を読む…最初の3カ月は睡眠時間を削ってでも、どっぷりとエンタメに触れるようにしていました。

また、他業界と比べて目まぐるしく変化する業界なので、トレンドも必ずチェックするようにしています。​​SNSはもちろん、日本だけではなく、海外の技術や新しいサービスのトレンドも見る必要があると思っています。

―VR業界の面白さや、反対に難しさを感じた部分があれば教えてください。

面白さという点では、遊びと仕事の境界がない部分だと感じています。YouTubeのコピーにもなっている「好きなことで生きていく」という感覚で働いている人は社内でも多いと思います。

今「cluster」を利用していただいている一般のクリエイターの方は楽しいと感じて遊んでくださっていますが、そこに加えてクリエイターのエコシステム、経済圏を構築していきたいと思っています。

YouTubeのように人気次第で稼げるような、マネタイズできるプラットフォームにすることはこれからチャレンジしていきたい部分ですね。

難しいと感じる点は自由と規制のバランスを取らなければならないことです。
ユーザーがオリジナルで作成しているコンテンツでは著作権上のトラブルが発生しやすいので、その辺りの調整がとても難しいと思っています。

法令を遵守することは大前提だとしても、厳しい検閲体制を敷いてしまっては、クリエイターが利用してくれなくなるかもしれません。
とはいえ、権利侵害されることが常態化している場所であってはなりませんので、ここのバランスを絶妙に取っていく必要があります。

ーバーチャルならではの難しさですね…。
次にVR業界における今後の目標を教えてください。

「cluster」を世界一のメタバースプラットフォームにすることです。
製造業では強かった日本が、インターネットサービス全般においては全敗してしまったと思っています。

インターネット業界はこれまではずっとアメリカが牽引してきました。その後、TikTokは中国で生まれました。さらに、今のWeb3.0の中心地はシンガポールやドバイと、テックトレンドの中心地は移り変わってきています。

ただ、そんな状況の中でも、メタバースにおいては日本が勝てる理由があると思っています。

ーメタバース業界で日本が世界一になれる理由は何だとお考えですか。

メタバースの技術はゲームの技術を元に構成されています。
そして、ゲームの領域において日本は世界トップクラスの人材やIPを保有しているため、日本が世界一になれる可能性を秘めていると考えています。

また、メタバースの世界ではアバターやキャラクターが動きますが、こうしたアニメ表現に関しても日本は特に強い分野です。実際にバーチャルYouTuberというカルチャーは日本で誕生しました。

そのため、日本のゲーム技術やカルチャーをメタバースに展開していくことで、この領域でのトップランナーになることができると思っています。

ここは日本が勝てる領域ですし、勝たなければならない領域だと思います。

人材は事業の成功を左右する推進力

―人材採用などで工夫されている点はありますでしょうか?

そうですね、よく珍しいと言われるのは、バーチャル空間やアバターを用いた選考を行うこともあるという点でしょうか。

バーチャル内での面談・面接では顔や本名を出す必要はありませんし、アバターでもOKです。弊社の面接官がアバターの場合もありますので、入社後もアバターしか知らない、本名も知らないという出来事が起きるんです。

出社して顔を合わせた時に初めて相手の顔と本名を知る、ということも起こるので、まさにオンラインゲームやSNSのオフ会のようになっています。

―新時代ですね…!こんな方を採用したい、
こんな方に活躍していただきたいという人物像はございますか。

弊社に入社したい理由や想いがある人かという点にはこだわっています。

「スタートアップに来たい」のであれば、「スタートアップの中でなぜ弊社なのか」
「メタバースに携わりたい」のであれば、「メタバースに携われる会社は他にもある中でなぜ弊社なのか」

という明確な理由や想いがある人がいいですね。

会社としてもベンチャーですし、メタバースという業界もようやくスタートしたばかりで、今後厳しい局面も絶対に来ると思っています。その時にクラスターという会社にいることの理由や、この会社で何かをやり遂げたいという想いが自分の中にないと、最後に踏ん張れないと思っています。

―経験やスキルよりも想いが重要ということでしょうか。

そうですね、スキルに関しては、足りない部分はこれから吸収すればいいですし、成長できる余地があります。
そもそも業界自体が始まったばかりなので、VR業界出身者も少ないですしバックグラウンドも様々です。

また、「メタバースやVRが好き、興味がある」という想いも重要ですね。
趣味嗜好は強要されるものでも、他の人が育ててあげられるものでもないですから。

それと採用においてもう一つ大事な観点として、その人を採用することで事業の成功確率が上がる音がするか?という点も重要です。

この人が来たら、今まで出来ていなかったことが一気に進みそうだと感じたり、「cluster」がより世の中に浸透していきそうだと思えるような人こそ積極的に採用したいです。

―最後に、岩崎様にとって人材とは何でしょうか。

「事業の成否を分ける推進力そのもの」ですかね。
どのマーケットにどのタイミングで人とお金を突っ込むのか、というのがビジネスの成功において最も大事だと考えているからです。

良い採用をすれば事業はどんどん拡大していくと思いますし、そうでない場合には事業が伸び悩み、会社を大きくしていくことができません。

日本のメタバースを世界一にする、という目標を達成するためにも、良い人材を採用することは必要不可欠です。人材は事業の成功において最も根源的で大事なリソースであり、推進力そのものだと思っています。

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