株式会社カカオピッコマ 執行役員/HR室長 松延 元樹氏と HR室 採用チームリーダー小嶋 秀征氏が語る「躍進を続ける会社の成長を支える、成長実感を重視した組織づくり」

 

『エンタメ人』がお届けする、エンタメ業界のHRパーソンへのインタビュー連載。エンタメ業界へ転職を考えている方たちへ向けて、人材開発や組織開発、働き方改革の工夫などを探っていく。第3回は、急成長中の電子マンガ・ノベルサービスを運営するエンタメテック企業を取り上げる。(編集部)

プロフィール

松延 元樹(マツノブ モトキ)

株式会社カカオピッコマ執行役員。HR室長。マンションディベロッパー、ゲームポータル運営会社を経て株式会社カカオピッコマにジョイン。2016年より現職。

小嶋 秀征(コジマ ヒデユキ)

株式会社カカオピッコマ採用チームリーダー。総合商社系金融会社、ゲームポータル運営会社、IPコンテンツ運営会社を経て株式会社カカオピッコマにジョイン。2021年より現職。

「ピッコマ」が縦読みマンガアプリの代名詞になった理由

―貴社の事業内容についてお聞かせください。

(松延氏)弊社は「ピッコマ」という電子マンガ・ノベルの配信サービスを運営している会社です。
パートナー会社の「カカオトーク」という事業から始まった会社で、2016年4月に現在の代表である金が、韓国のWebマンガサービスをモデルにした「ピッコマ」を立ち上げました。

マンガ配信サービスの市場では後発ではありましたが、巻ではなく、1話ごと読むことができる話売り配信での形が非常に伸びまして、2020年、2021年は非ゲーム部門でのアプリ1位を獲得しております。

また、最近では「ピッコマヨーロッパ」という子会社を立ち上げ、フランスでも今年の3月にローンチいたしました。フランスでは、Webマンガやマンガアプリという電子マンガのサービスがあまり普及していないため、市場規模としては開拓の余地があります。日本のマンガと親和性の高いフランスでの今後の展開にはかなり期待しています。

ー「ピッコマ」が伸びた理由はなんだとお思いですか。

(松延氏)後発でありながらも伸びた要素としては2点あると考えています。

1点目はいわゆるスナックカルチャーコンテンツであるという点です。
どっぷりのめり込むというよりも、何かをしながら気軽に読める「ながら読み」ができるところが今の時代にマッチしたと考えています。

2点目は縦読みのカラーマンガであることです。
韓国ではWebtoonとも呼ばれますが、弊社では「SMARTOON」と呼んでいます。「SMART(スマートデバイス)+CARTOON(マンガ・アニメ)」から生まれた造語ですが、まさにこの特徴がこのSNS時代に人気になった理由だと考えています。現在は弊社が独占で配信しているコンテンツも徐々に増えてきています。

独自のカルチャーを形成するコミュニケーションの工夫

 ―お二方の仕事内容についてそれぞれ教えていただけますでしょうか。

(松延氏)仕事内容としては、人事全般を担っています。人事制度や会社のカルチャーをつくったり、社員の労務相談を受けたりと様々ですね。

(小嶋氏)採用を中心とした業務に携わっています。私の所属している採用チームの存在意義は、組織や個人の価値最大化を目指して事業推進のサポートをすることだと思っていて、その手段の1つが採用です。

―貴社独自のカルチャーをつくるために具体的に実施されていることがあればお聞かせください。

(小嶋氏)弊社の特徴的な文化というと、社内でお互いをイングリッシュネームで呼び合っていることですね。
例えば、松延はウィル、私はエールという名前で呼ばれています。そんな状況ですから、社内でも本名を知らない人が実際います。

(松延氏)イングリッシュネームを使う目的は、コミュニケーションを促進し、社員間の距離感を縮めるためです。当社代表のイングリッシュネームはジェイというのですが、新入社員であっても代表をジェイと呼びます。

―そうなんですか!最初は緊張しそうですね。

(小嶋氏)その緊張も解いてくれることが、イングリッシュネームの存在だったりします。いきなり横文字を使うことに皆最初は少し戸惑っていますが、意外とすぐに慣れ、気づいたら自然と使っています。 

イングリッシュネームは、入社する時に入社者本人に候補を出してもらって、その中から決めるのですが、皆それぞれ独自色が出ています。
このアニメが好きだから、この俳優が好きだからという理由の方もいますし、何らかの意味を持たせるケースもあります。
イングリッシュネームから好みやこだわりなど少なからず情報が埋もれているんです。

―面白い工夫をされているんですね!人事として大事にしていることや意識されていることはございますか。

(松延氏)人事には会社側としてのポジションと、社員側としてのポジションという2つの面があると思っていて、そのバランスを意識しています。

人事というポジションに対して会社側から求められていることは、会社が成長していく上で必要な様々な制度の整備やカルチャーの浸透を進めていくことだと思っています。

一方、社員側から求められていることは、社員が困っていたり悩んでいるときの相談窓口のような存在であることです。社員が困っている時、手を伸ばせるような人事でありたいと思っています。
会社が成長のために選択した道に対して、戸惑ってしまう人がいるのであれば、何らかのサポートをする必要があるので、両面からの視点で常に考えるようにしています。

弊社に入社された多くの方は、会社の方針や空気感が好き、という理由で弊社で働くことを選択してくれていますが、その大前提にあるのはカカオピッコマという会社を成長させていきたい、という想いです。
だからこそ、ついて来てくれる社員を引き上げていきたい、全力でサポートしたいと思っています。

―小嶋さまはいかがでしょうか。

(小嶋氏)私は、個人の強みや持ち味が発揮される場面がなるべく増えるように意識して働いています。

弊社はスローガンとして『HAPPY EVERYDAY』を掲げていますが、それを実感してもらえるような場面が増えていくサポートをしていきたいですね。

具体的には、入社時にカカオトークを使ってトークグループを作成し気軽な相談を受け付けたり、定着や成長を促進するためのフォローアンケート、他部署の役割を理解したりリファラル採用に役立ててもらう目的で作成した仕事図鑑などを用意しています。
第三者が話を聞いたり声を掛けたりすることで把握できることもあるので、お互いのWinにつながるような現場との接点を持つことを大切にしています。 

会社の成長に繋がる個人の成長実感

―人材開発の仕組みや人材育成において工夫されていることなどを教えていただけますか。 

(小嶋氏)実務を通じて成長するということを大前提と考えています。メンバーによりテーマはそれぞれだと思いますが、必要なタイミングで各自が自由にインプットできるよう、外部の研修システムを活用して、いつでも自由に何度でも学習することができます。

「この学習をいつまでにやりなさい」というやり方では、いつまでたっても自発性は生まれませんし、実践で活かせなければ、意味がありません。最初は仕組みの中で習慣化され、最終的に自分の成長につながっていけば、会社にとっても大きなバリューになると思っています。

ただ、新しくマネジメント業務に関わる方に対しては、オリジナルの研修機会を用意し、カカオピッコマのマネージャーにとって必要なポイントを具体例交えてお伝えしています。

この研修では、チームの力で組織や会社に貢献し、チームを最大化させていくというマネージャーとしての役割を理解し実践してもらうこと、そのためにまず自分が変わることが必要との考えに立って組み立てています。

「採用」「アサイン」「フィードバック」「チーム運営」「評価」に絞ってのポイントレクチャーを行ったあと、希望されたリーダーにはチーム単位でのエニアグラム実施やリーダー1on1を定期的に実施するようにしています。

―それでは、貴社が求める人材についてお聞かせください。

(松延氏)最低限のスキルがあることが前提ではありますが、やはり周りと協調して働ける、協力的に働くことができる方に入社いただきたいと思っています。

弊社には1人だけで遂行できる仕事はありません。周囲に気を配り、協調性を大切にしている方、積極的に周りと協力できる方など、そういう方たちの存在が弊社の「ピッコマ」というサービスを伸ばしてきた要因だと強く感じています。

(小嶋氏)また、変化に柔軟に対応できる素直さも重要視しています。ただ立ち止まっていては、自分の望むような結果も出すことができないと思っているので、どんなベテランの方であっても変化に対しての柔軟さや、それに紐づくチャレンジ精神、実行力は意識して持っていて欲しいと思っています。

ーお二人が一緒に働きたいと思う人物像を教えてください。

(松延氏)専門スキルや深い知見があったとしても、慢心することなく「自分のスキルや知見を使って、どれだけこの会社に貢献できるか」ということを考えられる人ですね。

現在は中途採用のみ行っているため、多様なバックボーンを持ち、様々な専門スキルを持つ方たちが入社されていますが、皆そういった謙虚な思考をもったメンバーです。
そのため、どんな意見に対しても最初から否定するわけではなく、お互いリスペクトを持った上で協議する、といったようなコミュニケーションが取れていると思います。 

(小嶋氏)今の話を前提にした上で、私は自分が持っていないものを持っている人と働きたいですね。お互いの経験やスキルを出し合って高みを目指して刺激しあいたいです。

弊社の評価には

・自分の役割に対する成果
・周りに対しての貢献

という2つの軸がありますが、後者は意識していないとなかなかできないことだと思います。これは入社に合わせて必ず皆さんにお話していることの一つです。

―求める人物像についてお伺いしましたが、その他に社員の方々に意識してほしいことはございますか。

(松延氏)何が自分にとって成長につながるのか、成長とは何か、ということを常に意識してほしいと思っています。

カカオピッコマという会社が、ありがたいことに想像を超えるスピードで成長している中、僕自身も含め、会社の成長に自分の成長が追い付いていない、という不安を感じざるを得ない状況であり、成長していかなければなりませんが、それがどれだけ社員に伝わっているのだろうかと思っています。

自分にとっての成長とは何なのか、という問いに対して、他者がその答えを提示できるものではありません。自分自身で、常に成長について考えていてほしいと思っています。

(小嶋氏)成長については、弊社の代表もよく話をしていますが、成長したい意欲溢れる方々に、どんどん入社頂きたいです。

採用の際には、自分よりも経験値やスキルのある人を採用していこう、という話がよくされています。新しい方が入社することで既存社員も刺激を受け成長する、という好循環を生み出し続けたいと考えています。

―個人の成長への意欲が、会社の成長に繋がるということですね。

(松延氏)そうですね、結局弊社のようなIT業界において、資産は人材しかありません。
サービスに目を向けられがちですが、サービスを生み出していく、作り続けていくのはやはり人です。そのため、人材にどれだけ投資できるのか、という部分が会社にとっても非常に重要になると思っています。 

―IT業界やエンタメ業界のような変化が大きい業界において、どのような人材が必要だと思われているのでしょうか。

(松延氏)「既存のサービスを組み合わせたら面白いのでは?」という発想ができる人は、今後重要になると思います。

ゼロからイチを生み出すことは難しいですが、それができなくても、「〇〇と〇〇を掛け合わせると何かが生まれる」という発想ができる人も僕はすごいと思います。
例えば、メタバース空間に何を掛け合わせたらもっと面白くなるのか、という発想はゼロではありませんが、今のこの業界においてはとても大事な発想だと思います。

また、大きい掛け合わせだけでなく、「このアプリにこういう機能があったらもっと面白いんじゃない?」という程度のことでも、大きな変化を生み出したりするのではないのでしょうか。
今、NFTなどが徐々に事業化されるようになってきていますが、いち早く存在に気付き、既にスタートラインに立っている人は素直に尊敬しますね。 

(小嶋氏)そうですね、外に対してアンテナを張っている人や、面白そうなことに気付ける人も必要だと思います。
どんな小さなことでも、そこに面白みを感じたり自分なりの価値観が得られたときに、社会の価値観や常識への変化が与えられたり、周りからの反応が得られるのではないかと思います。

―貴社のオフィス環境への工夫もそういうアイデアから生まれたものなんでしょうか。

(松延氏)そうですね、会議室には、パートナー会社のサービスであるカカオトークのキャラクターの名前がついています。ミーティングのしやすさなどを考えていたところから生まれたものですが、オフィス周りの担当者は細かい部分にもかなりこだわっていますね。

目指すのは、自分や周りの人に誇りを持てる会社

―貴社の人材開発や組織形成についてお伺いしてきましたが、お二人が今後達成したいと考えている目標を教えてください。

(松延氏)組織としての理想は、社員がお互いの顔を覚えていて、会えば挨拶し合えるような関係値をつくることです。
相手に少しだけ踏み込むような関係性を全社で持てると、もっと仕事が円滑に回ると思っています。

今はフルリモートですので、実際に会ったことがないまま一緒に業務をしている人も出てきています。会社としての総合力を上げていくためにも、お互いにコミュニケーションをしっかり取り、相手に興味を持てるような環境にしていきたいですね。

また、入社当時からの目標として、この会社でずっと働き続けたいと思えるような会社をつくりたい、ということを掲げています。
そのために業務以外のストレスを感じず、業務に集中できる環境づくりは意識していますね。

例えば、フルーツデーを毎週設けて、社員用にフルーツを用意したり、ジムと提携したりと、体調面もサポートできるような制度をつくりました。
また、アーロンチェアを用意したりと、デスク周りなどの整備もしていますし、今はフルリモートなので、家での仕事環境をサポートするような体制も作っています。

これはただ働きやすい環境を整えるためだけではなく、整った職場で働くことが個々の能力を発揮させ、成長に繋がると考えているからです。気が付けば自分自身が成長している環境があるカカオピッコマで、ずっと働きたいと思ってもらえるような職場をつくりたいですね。

―素晴らしい目標ですね!小嶋様はいかがでしょうか。 

(小嶋氏)採用面でいくと、昨年はリファラル採用が約4割だったんですが、新しく入社した方がさらに周囲の人に自然と紹介してくれる会社にしたいです。

家族を含めたさまざまな方々から、「やりがいを感じられて良い会社だね」と言ってもらえ、社員がモチベートされるような好循環を生み出せるようにしていきたいですね。

―ありがとうございます。それでは最後に、お二方にとってエンターテインメントとはどんなものでしょうか。 

(松延氏)僕にとってエンタメとは、自分の身の回りで完結するものになってきていると思っています。
例えばテレビや動画配信サービスなどを見るとき、僕は映画よりも一話完結ものの方が気楽で楽しく見ることができます。僕にはどっぷりエンタメに漬かる時間がないので、そういう意味では流していくエンタメというのも重要だと思っています。

僕はマンガももちろん好きですが、時間があればスマホでゲームをやっています。テレビゲームも好きなんですが、いちいち用意するのが面倒くさくて、スマホゲームが一番お手軽なんです。

(小嶋氏)私はエンタメとは日々のバランスを取ってくれるものだと思います。
普段の生活の中では嬉しいことや辛いことなど、様々なことが起きますが、誰しもどこかで収支を付けないとなかなか切り替えて次に向かえません。
今やエンタメもさまざまなものが身近に存在しているので、それによって救われたり元気付けられたりする、そんな風に寄り添ってくれる存在だと考えています。

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