AKB48を3カ月で卒業!?アイドルで挫折を経験した宇佐美友紀さんのフィットする仕事の見つけ方 〜タレントキャリアアドバイザー 別府 彩が聞く〜

宇佐美友紀
埼玉県三郷市出身。AKB48オープニングメンバー。グループを卒業後、ラジオパーソナリティやMCとして活躍。2017年に結婚、2019年に長男を出産。現在は子育てをしながらマイペースに活動中。三郷市PR大使を務めている。

この記事の監修者

別府 彩
別府 彩タレントキャリアアドバイザー

元フリーアナウンサー/タレント。
大学卒業後、およそ10年間フリーアナウンサーとして活動。31歳のときにグラビア写真集「彩色」(竹書房)を出版。
「踊る!さんま御殿!!」(日本テレビ)に出演するなど、バラエティ番組やラジオパーソナリティ、テレビCMナレーターなどの経験を持つ。
33歳で芸能界を引退、広告代理店に正社員として就職。イベント運営会社、イベントコンパニオン事務所を経て2020年に株式会社エイスリーに入社。
現在は、アナウンサーから会社員という自身の転職経験を活かし、日本初の“タレントキャリアアドバイザー”として、芸能人やクリエイターのパラレルキャリア・セカンドキャリアのサポートを行っている。

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アナウンサーに憧れて入学した専門学校アナウンス科。そこで掴んだ芸能のファーストキャリアとは。

―― 宇佐美さんはアイドルからラジオパーソナリティ・MCへ転身されましたが、いつ頃から芸能の仕事に興味を持っていたのですか。

小学生から高校生くらいまでずっとアナウンサーになりたいと思っていました。ただ、今のようにインターネットで調べればアナウンサーになる術がわかるという時代ではなく、オーディション雑誌の「デビュー」などで情報を得ていました。

はやくアナウンサーの仕事に就きたかったため、高校卒業後に放送系の専門学校のアナウンス科に進学しました。キー局のアナウンサーになるには四年制大学に進学する必要があることは専門学校に入学してから気づいたのです(笑)
キー局への道は途絶えましたが、ずっと夢はアナウンサーとして喋る仕事に就くことでした。

―― 専門学校時代はどんなふうに過ごされたのでしょうか。

入学してまもなく、アナウンサー事務所に所属して仕事をしていました。
専門学校の外部講師である芸能事務所のマネージャーの方から「テレビのオーディションを受けてみない?」と誘っていただき、千葉テレビのアンジャッシュさんの冠番組でレギュラーの仕事が決まったのです。それが私の最初の芸能の仕事でした。

専門学校の入学が4月、芸能の仕事が始まったのがその年の9月だったと思います。「レギュラーで仕事をするなら」と事務所に所属することになり、自分の仕事以外にも収録現場に同行して勉強させてもらうなど色々な経験をさせていただきました。

AKB48オープニングメンバーとしてデビュー!しかし、ダンスも歌も未経験の20歳にはツラいことだらけ!?

―― 芸能活動のスタートは順調だったのですね。そこからなぜAKB48のメンバーになったのでしょうか。

当時所属していた事務所は、私以外の人は割とベテランの方が多く、若手向けの仕事があまり多くなかったのです。学生のうちは学校に通いながらマイペースに仕事ができたので良かったのですが、卒業が近づくに連れて不安になってしまって。再びオーディション雑誌を見てなんとなく情報収集をしているときに見つけたのが「AKB48オープニングメンバー募集」のお知らせでした。メンバーと司会のポジションで募集をしていて、私は元々アイドルの応援が大好きだったので「司会ならアイドルとも会えるし、趣味と実益を兼ねてめちゃくちゃいいじゃん!」と思って応募しました。

最初の面接の段階で司会の採用はしないことになったと知らされ、「メンバーとして選考を受けてみませんか」と面接をしてくださった方から提案されたのです。実は高校生の時に大好きなハロプロのオーディションに挑戦して書類で落ちた経験があり、その時点で自分がアイドルになることはイメージできなくなっていたのですが、AKB48ではその後もトントン拍子に進み、最終審査まで行きました。私の密かな目標は、最終審査で秋元康先生と夏まゆみ先生に会うことだったので、最終審査に進んだことでミッションコンプリートだったのですが(笑)

合格発表で受かっても落ちても感情があふれて泣いている周りの子たちを見て、AKB48のオーディションで最終審査まで来ることが本当にすごいことなんだとようやく気づきました。合格者として私の名前が呼ばれたとき、「これはやったほうがいいのかも…」と気持ちが揺らいだ結果、メンバーとして活動することに決めました。
まさか自分の転機になるような決断を、周りの空気に流されてするとは思っていませんでした。

―― 実際にアイドルとして活動をスタートしてみて、いかがでしたか。

「やばい、辛い」と思いました(笑)一番は体力的に、二番目はメンタル的に本当にしんどかったです。
当時、私はメンバー最年長の20歳で一番年下のメンバーは小学生。私は多少キャリアがあるからこそ見えている景色が他のメンバーたちとは違います。さらに彼女たちよりも一生懸命やれていない自分にも葛藤がありましたし、ピンクの制服を着るのも少しだけ抵抗がありました(笑)
「やはり私にはアイドルを応援するほうが向いている」と思いながら、なんとか毎日をこなしている感じでした。

―― その結果、最初の卒業生になったのですね。

デビュー前のレッスン時期が約3カ月、さらに舞台に出演するようになってから約3カ月と、約半年の活動で卒業しました。

他のメンバーたちはダンスやボーカルレッスンを小さい頃から受けているのに、私はダンスも歌も未経験だったので、コンプレックスに感じていましたし、本当に苦労しました。短期間でやめることがAKB48のプロジェクトに迷惑をかけることにならないように相談を重ねて卒業のタイミングを決めました。

―― そもそも宇佐美さんの目標がアイドルではなかったというのが、苦しい局面を乗り越えようというモチベーションにはならなかったのかもしれないですね。

そうですね…。
年齢を重ねていると、私がどれだけ頑張っても2〜3年後にAKB48のセンターにはなれないだろうってわかるんですよね。それならば自分は何をモチベーションにAKB48の活動を頑張っていくのかを考えていました。私はアナウンサーになりたかったわけですから、MCのように喋る機会があれば任せてもらえるようにお願いするなど、できることに取り組んではいました。しかしAKB48はチームですから、自分のやりたいことばかりを叶えてもらえるわけではありませんでした。

AKB48のプロジェクトはとても素敵だと思っていましたし、メンバーの子たちが本当に可愛かったので、卒業後もサポートできたらいいなと思い、マネージャーという道も頭をよぎりました。

結局マネージャーにはならなかったですが、卒業後もそのまま事務所には所属してAKB48がイベントに出演するときなどはMCを任せてもらえるようになり、仕事を続けていました。

きっかけは信頼できる人たちとの出会い。紆余曲折を経て出会えた“自分にフィットした仕事”とは。

―― 今のラジオパーソナリティやイベントMCのお仕事にはどうやって繋がっていったのですか。

しばらくして事務所を辞め、登録制の事務所に入りイベントMCの仕事を行っていました。当時始めた「東京ゲームショウ」CAPCOMブースの仕事は15年経った今でも続けさせていただいています。その現場で今の事務所の方からスカウトしていただきました。

この事務所で最初に受けさせていただいたオーディションが「YAMAMAN presents MUSIC SALAD FROM U-kari STUDIO」(bayfm)で、この番組は今も続いている長寿番組です。

私は重要なタイミングで良い縁を繋いでくれる方に出会えています。この時期にラジオの仕事やイベントMCという活動の軸を作ることができました。その後は10年以上事務所も変わらず、信頼できる方たちと仕事ができているのはとてもラッキーなことだと思っています。

―― 活動の軸が決まってからの仕事は順調だったのでしょうか。

まずラジオが初めてだったので、ペースが分からず1〜2年は大変でした。
ラジオは私にとってすごく難しくて、番組は週に1回1時間だけなのに、1週間ずっと次の放送のことだけ考えて眠れない時期がありました。それでも長く続けられる環境があったお陰で、今は大好きなお仕事のひとつです。

信頼できる事務所のマネージャーや、番組スタッフさんが、「宇佐美さんはラジオに向いている」と言ってくれたり、適時的確なアドバイスをくださったので続けられました。しかし、心が折れていてもおかしくないくらい大変でした。AKB48の時は挫折してしまったけどラジオでそうならなかったのは、周りの人達のお陰です。時間がかかっても自分にフィットする仕事に出会えて良かったと思います。

AKB48のときは最年長とはいえまだ20歳でした。ラジオを始めた頃は年齢も経験もあがっていたことが挫折しなかった理由のひとつだと思います。20歳の頃は人生をひとりで歩んでいくビジョンだったものが、ラジオに出会った時は仕事の見え方が全然違っていました。自分がこれから描いていく生活のなかに、選べるもの選べないものがあり、その仕事を心地よくやっていけそうかどうか考えたときに、ラジオはバランスがいいなと感じられたのです。ラジオには仕事という面だけでなく惹かれる部分があったことが、アイドル活動との違いだったと思います。

30代半ばで巡り会えた新しい家族。宇佐美さんの仕事への向き合い方に生まれた変化。

―― 今は子育てをしながら仕事をされていますが、仕事の仕方や気持ちの変化などはありますか。

今、息子が4歳なのですが、ママ4年目になってもまだ自分の心地よいペースが作れていません。
変わらずラジオの仕事もやっているし、ライフステージが母親になっただけなのですが…。
母親モードと仕事モードをスイッチするために、外出するようにしています。
何をするというわけではないのですが…。スマホゲーム「MONSTER HUNTER NOW」をしながら散歩することや、最近はレンタサイクルにハマっていますね。1人で何もしない時間が私にとって大切なものになっています。

家の中だと母親モードになってしまい、仕事に必要な下調べをしようとしても、時間もお金ももったいないし、家事もやらなきゃいけないしと現実に引き戻されてしまって仕事スイッチが入らないのです。
その分、家にいれば息子のおやつを手作りできるかもしれないし、夕食のおかずが一品増えるかもしれないのにと思ってしまうのです。今の自分に必要なことの判断が、母親脳と仕事脳が混在していて整理するのがまだまだ難しいです。

―― 宇佐美さんにとって仕事のやりがいや喜びはどんなものですか。20代の頃と今、変化はありましたか。

20代〜30代前半の頃は、やりたい仕事をもらってどれだけ自分がいいパフォーマンスでこなせるかが大切でした。スタンプラリーみたいに、やりたかった仕事を「ひとつクリア、ふたつクリア…」とどんどん増やしていくのが若い頃の仕事の仕方でしたね。
仕事の規模の大きさ、例えば来客数や会場のキャパシティや、ゲストの知名度などが自分の仕事の評価の軸になっていました。

今はそういうことをあまり気にしなくなりました。目の前のお客様に喜んでいただける仕事、息子や後輩にカッコいいと思ってもらえる仕事をしたいと思っています。そのために、一球入魂というのはなかなか難しいけれど、妥協のない仕事をするために時間をどう使っていくかが重要なところです。仕事の評価の物差しが周りの意見や図りやすい数字ではなく、自分のなかにできたことは以前と違うところかなと思います。

年齢だけでなく、母親になったことが仕事に与えた影響も大きかったです。働きたいママも多いと思いますが、私は子どもとの時間をなにより大切にしたいので、家族と仕事をバランスよくやりたいという時期に入っているような気がします 。

―― 宇佐美さんが今チャレンジしていることやこれからチャレンジしたいことはどんなことでしょうか。

今年の春頃から、所属事務所でマネージャーの仕事を始めました。所属しているMC、タレントのなかにも結婚や出産などライフステージの変化を迎えた女性が増えてきています。芸能の仕事はみんな好きでやり始めるのですが、ずっと好きでいることはとても大変なことです。家族が増えるとライフスタイルが変わるので、心地よいバランスで仕事を続けていくことがとても難しいのです。その結果、仕事から離れた先輩のタレントさんもいます。「自分にとって必要不可欠だと思っていた仕事をお休みしたいとまで思うなんて、出産するまで予想だにしていなかった」というタレントさんもいます。仕事と子育てにどう向き合っていくのか、経験者として、マネージャーとしての視点も大切にしながら相談にのって、アドバイスをしていきたいと思っています。

今、私自身はある程度仕事もプライベートも自分のやりたい方向が定まっていて、このくらい楽しく生きられる人生に好きな仕事ができてすごくいいなと感じているのです。やり方は人それぞれだから全部を教えることはできませんが、背中を見せるだけでなく、言葉でも伝えられることは伝えていきたいと思っています。それが私のお世話になった方たちや好きな事務所の役に立つのならマネージャーをやってみようと思ったのがきっかけでした。

激動の芸能界。芸能人のセカンドキャリアについて、宇佐美さんが思うこと。

―― 昨今、アイドルのセカンドキャリアが話題になっていますが、元AKB48メンバーとして、宇佐美さんはどのように見ていますか。

みんな、ものすごく迷っただろうなと思います。世間からの見られ方として、AKB48のような大きなプロジェクトに関わったら顔と名前を知られている状況でセカンドキャリアとなると、どんな目で見られるのだろうかと不安を感じながら進んでいったのだろうと思います。とはいえ立ち止まっていられないし、アイドルをやめて何者にもなれないのが一番辛いと思います。アイドルでいる時期も「今が旬だからこういう売り方をしていて、ずっとこのままではいられない」ということは理解してやっているのですが、その先に自分になにができるかわからないというのは不安ですよね。

芸能のプロである方によって育てられた才能のある子たちが、もの凄い努力をして数々の辛い局面を乗り越えながらアイドルをやっています。そういう子たちをたくさん見てきた私は、あれだけの努力ができる人は他になかなかいないのではないかと思うのです。

彼女たちの才能やスキルは、数値化するとか、わかりやすい資格では表せません。しかし、頑張れる力があるというだけでも大きな売りになります。だから、芸能ではなくても違う仕事で打ち込める事を見つけたら絶対にやっていけると思うのです。

私にとっては、人との出会いが人生の大きな転機になったので、彼女たちも良いパートナーをどういうタイミングで見つけられるか、どんな人に出会えるかが鍵だと思います。いまセカンドキャリアで成功している人たちも、みんなひとりの力ではできていないはずなので。波長があうな、心地いいなと思える人を大切にしていくと良いと思います。

―― MCやラジオパーソナリティの方のキャリア構築についてはどのように感じていますか。

私自身もどうなっていくか不安だから、聞きたいくらいです(笑)同世代でも若手も先輩もみんなそういう話はよくしていますね。

周りにいる人でいいな、うまくいっているなと思う人は、今の時代は「複数の仕事の軸をもって働いている人」です。過去には色々な仕事をやっていることが、あまり評価されなかった時代があったと思いますが、今はそれが魅力だなと思っています。色々なことをやってそれぞれを極めていけば、それがしゃべりの仕事に繋がっていく可能性もあります。ラジオパーソナリティだって、今はさまざまな職業の方たちが活躍しています。
そういう意味では、母親という役割も今は私にとっての軸のひとつですね。

―― ラジオパーソナリティ、イベントMC、母親、マネージャー…複数の軸で、これからの宇佐美さんのますますのご活躍、期待しています!

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*本記事に記載された内容は取材時2023年9月27日のものです。その後予告なしに変更されることがあります。