元・愛媛朝日テレビアナウンサー戸谷勇斗さんが挑む、二足の草鞋のセカンドキャリア 〜タレントキャリアアドバイザー 別府 彩が聞く!〜
「タレントのキャリア特集」では、これまで元フジテレビの田中大貴さんや元TBSの国山ハセンさんのキャリアチェンジについて取材させていただきました。今回は、ローカル局である愛媛朝日テレビを2022年秋に退職した戸谷勇斗さんのセカンドキャリアについてお話を伺いました。
戸谷勇斗(とたにはやと)
東京都大田区出身。中学・高校時代は陸上競技部に所属していた。法政大学卒業後は愛媛朝日テレビにアナウンサーとして入社。夢だった「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下東京オリンピック)」の取材活動に関わり、2022年9月同社を退職。現在はセガサミーホールディングス株式会社(以下セガサミー)の広報室に勤務する傍ら、フリーアナウンサーとしても活動中。
この記事の監修者
元フリーアナウンサー/タレント。
大学卒業後、およそ10年間フリーアナウンサーとして活動。31歳のときにグラビア写真集「彩色」(竹書房)を出版。
「踊る!さんま御殿!!」(日本テレビ)に出演するなど、バラエティ番組やラジオパーソナリティ、テレビCMナレーターなどの経験を持つ。
33歳で芸能界を引退、広告代理店に正社員として就職。イベント運営会社、イベントコンパニオン事務所を経て2020年に株式会社エイスリーに入社。
現在は、アナウンサーから会社員という自身の転職経験を活かし、日本初の“タレントキャリアアドバイザー”として、芸能人やクリエイターのパラレルキャリア・セカンドキャリアのサポートを行っている。
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目次
アナウンサーになるため全国行脚の後、愛媛朝日テレビに就職。ローカル局で経験したこととは
―― 戸谷さんは東京出身、神奈川県川崎市で学生時代を過ごされたそうですが、愛媛でアナウンサーとしてご就職されるまでにはどのような経緯があったのでしょうか。
私は小学生時代から朗読など声で表現することが好きでした。また、中学・高校時代は陸上競技に打ち込んでおり、中学生の時にテレビ神奈川さんが全国大会に臨む直前の私の姿を報道してくださったことがあったのですが、それがとても印象に残っていたのです。ただの中学生だった私がヒーローになったような感覚で、当時はすごく嬉しくて、放送業界に興味を持つきっかけになったと思います。
その後、大学でマスコミ志望者が集うゼミに入り、アナウンサーを目指しました。就職活動はキー局からスタートするのですが、順番に全国各局を受けた結果、ご縁があったのが愛媛朝日テレビでした。ローカル局は毎年募集があるわけではありません。誰かが辞めたり異動したり、空席ができないと採用枠がないのです。とくに男性はなかなか枠がないので結構厳しい戦いです。
―― 陸上競技は全国レベルの実力だったそうですね。
中学の時に200メートル走で神奈川県大会優勝、高校では一人400メートルずつ走る1600メートルリレーに出場してインターハイ準決勝まで進み、全国ベスト10に入りました。
―― 男性アナウンサーは学生時代にスポーツで活躍していた方が多い印象です。
みなさん何らかの形でスポーツに携わっていたいという思いで、取材や実況ができることを魅力に感じて、アナウンサーになる方も多いと思います。
私も結果的にテレビ朝日系列の局に入れたので、高校野球を中心に10年半の間、スポーツに関わることができました。
―― アナウンサーの仕事は、テレビ朝日などのキー局とローカル局ではだいぶ役割が異なると聞いたことがあるのですが、実際はいかがでしょうか。
ローカル局の場合、アナウンサーとして話す仕事だけでなく、記者やディレクターの三足の草鞋を履いている感じです。局によって異なりますが、愛媛朝日テレビは自ら原稿を書き、映像の編集作業、ナレーション収録も自分でやっていましたね。入社一年目にジュニアアスリートを紹介するスポーツコーナーを担当したのですが、週に一本、4分くらいのVTRを作っていました。そのために一日取材して、二日かけて編集して、オンエアしたらその当日からまた次の取材のためのアポを取り始める、という感じでした。
それが毎週続くのでなかなか大変でしたね。でも結果的には色々なスキルが身について、数年後には何でも一人でできる状態になっていたので良い経験をさせていただいたと思っています。
―― 愛媛朝日テレビにいた頃のアナウンサーとしての目標はどんなものでしたか。
入社二年目の2013年はオリンピックが東京で開催されることが決まった年でした。東京オリンピック開催の発表を聞いて「なんとしても東京オリンピックに仕事として関わりたい」と思い、そのためにアナウンサーとしてスポーツを中心にやっていこうと決めました。愛媛の将来有望なジュニアアスリートや、オリンピックに出場する可能性のある学生、若手アスリートを取材することに注力しました。
―― アナウンサーとして東京オリンピックを目指す一方で、アナウンサーとは異なるキャリアを考えたきっかけはどんなことだったのでしょうか。
東京オリンピックが終わるまでは絶対に放送業界にいようと思っていましたが、やはり新型コロナの影響や、「ABEMA」や「Netflix」など様々な動画配信サービスの普及が加速した影響を受けて、アナウンサーの友人、営業職の仲間らがテレビ局以外の選択肢を模索している姿を見て、私自身も別の道を意識するようになりましたね。
一方で地方ではローカル局が独自色を出していて、狭く深く地域を紹介するコンテンツがまだまだ人気ではあります。ただ、私が担当していたニュース番組などは、視聴者層の多くを60代以上のご年配の方が占めていて、そこをターゲットにしていかないと視聴率が獲れないのです。そうなると番組で扱うテーマが、健康にいい食べ物や温泉に偏りがちになってしまいます。例えば、冬に放送する番組では温泉をテーマにする機会が増えて、自ら裸になり温泉に入って「ああ〜気持ちいい」というロケを一日に4件くらいハシゴしていました。それが仕事になるのでありがたい話ではあるのですが、似たようなテーマばかりの映像をこの先もずっと作り続けるのかという、漠然としたキャリアへの不安みたいなものを感じていました。それもセカンドキャリアへ向けて動こうと考えたきっかけの一つではありましたね。
アナウンサーのキャリアを余すところなく活かす、戸谷さんのセガサミーホールディングスでの役割とは
―― セカンドキャリアとしての業種や職種、転職の軸についてはどのように考えていましたか。
アナウンサーとしておこなってきた「伝える」ということを軸に職種を考えました。広報職なら持っているスキルを活かせるのではないかと考えていました。
もう一つの軸は「スポーツ」です。子どもの頃、内気だった私が陸上競技と出会い、恩師のおかげで実力をつけ県大会で優勝し、自信が持てるようになり性格まで変えることができました。私を成長させてくれたスポーツに恩返しをしたいという思いからアナウンサーになったので、その軸は変えたくないと思い、数ある企業の中でもスポーツに関われる広報の仕事を探しました。その結果、ご縁があったのがセガサミーだったというわけです。
セガサミーは「感動体験を創造し続ける〜社会をもっと元気に、カラフルに。〜」をミッション/パーパスに掲げており、スポーツも含んだ幅広い事業でその実現に向け取り組んでいます。セガサミーはエンタテインメント、リゾートなど幅広い領域で事業をおこなっているので、広報の仕事もスポーツに偏り過ぎず、まずはフラットに幅広く関われるという点も魅力の一つでした。
―― 実際に転職されて、広報としての実務はどのようなことをやっているのでしょうか。
まず、オウンドメディアのスポーツコラム執筆です。セガサミーが運営している社会人野球やプロバスケットボールなど、スポーツチームの方たちにインタビューをして、記事を書くという作業です。数日前にも、野球部が都市対抗野球に出るので、チームメンバーに取材をしてきて、まさにいま執筆の段階です。(取材時:2023年7月14日)
あとはコーポレートサイトの運用ですね。今年(2023年)4月にサイトの大幅なリニューアルがあったのですが、昨年10月に入社してから3カ月はリニューアル案を作成し、その後はリニューアルにむけて各部署および制作会社との調整等、とにかく手を動かしていました。今はその運営を任せてもらっています。
他にも弊社がスポンサーをしているチーム、団体や、サポートしているプロゴルファーの方とのやり取りの担当や、プレスリリースのチェックなどもおこなっています。
―― アナウンサーのご経験が一番活かされていると感じるのはどんな業務でしょうか。
スポーツコラムはまさにそうですね。取材も原稿作成も前職でたくさんやってきましたから。
プレスリリースなどを書く時に必要なリサーチ能力もアナウンサー時代から磨いていますから活かされていると感じます。
セガサミーのグループ会社の一つに株式会社ダーツライブというダーツバー等に置かれているマシンを製造販売している会社があるのですが、ある日、私が社員食堂に設置されているダーツマシンでダーツを投げていたところ、ダーツライブの役員の方とお話しする機会がありました。なんとその方が愛媛ご出身の方でした。ダーツライブはプロのダーツ大会のスポンサーとして普及活動をしているのですが、愛媛繫がりのご縁がきっかけでその試合の実況をやらせていただけることになったのです。
さらに先日は、年に一度北海道のザ・ノースカントリーゴルフクラブで開催している男子プロゴルフトーナメント「セガサミーカップ」の表彰式の司会をさせていただきました。他にも社内で行われる自社プロバスケットボールチームのパブリックビューイングイベントの司会などいくつものチャンスをいただき、アナウンサーとしてのスキルも磨いていきたい私としては非常にありがたいと感じています。
肩書はひとつじゃない!「企業広報✕フリーアナウンサー」のパラレルキャリアに挑戦
※パラレルキャリア:本業を持ちつつ第二の活動をすること。スキルアップや自己実現など人生を豊かにする目的がその中心にある。
―― 戸谷さんは、セガサミーに勤務しながらフリーアナウンサーとしても活動されていますよね。
そうですね。転職活動の軸としても副業が可能であることをマストの条件にして探していました。アナウンサーの仕事が嫌になったわけではなく、声の表現の仕事はずっと続けていきたいと思っていましたから。まさに、昨日(インタビューの前日)もケーブルテレビで高校野球神奈川大会の試合の実況をさせていただいたばかりです。他にも夏にはeスポーツの実況も担当することになっていて、一生懸命準備しています。
―― 企業広報とアナウンサーのパラレルキャリア、両立させるために心がけていることなどはありますか。
まずは企業人として、広報のプロとして成長していかなければと思っています。パラレルキャリアの形成は大変ですが、前職でもマルチタスクでアナウンサー、ディレクター、記者とやっていましたから、同時に複数の企画や取材を抱えているのが当たり前でした。その経験が引き出しの多さに繋がって、なんとか回せるようになってきたのだと思います。
ただ、今はとにかく時間のやりくりが難しいですね。高校野球の実況もそうですが、アナウンサーの仕事は情報収集など準備に時間がかかるので、睡眠時間を削るなりしてなんとか調整しています。好きなことなので苦にはならないですが、それぞれ仕事のパフォーマンスに影響が出ないように気を使っています。
―― 二枚の名刺を持つ、パラレルキャリアのメリットはどんなところだと思いますか。
アナウンサーという仕事は非常に限定的なので、アナウンサーを求めている場所にしかニーズがありませんが「私はセガサミーの広報担当で、フリーアナウンサーもやっています」とお話することによって「スポンサーになってイベントを一緒にやりませんか」というような別の話もできます。仕事の幅がすごく広がっていくように感じます。そこは両輪でやっていて本当に良かったと思う部分です。
―― 武器を複数持って挑む、という感覚ですね
まさにそうですね。前職でもアナウンサーだけではなく映像編集スキルなど別の武器はありましたが、結局、放送の世界からは飛び出せないスキルだったと思うのです。広報という仕事は様々な企業や人とやり取りができる普遍的なスキルで、そういうものを身に着けたかった私としてはとてもありがたくやりがいを感じています。
ローカル局アナウンサーの経験を活かし、街とスポーツチームの共生に貢献していきたい!
―― アナウンサーは専門職ですが、昨今、アナウンサーから異業種への転職事例も増えて注目をされています
私もまさに、トヨタ自動車株式会社所属のジャーナリストになられた富川悠太さん(元テレビ朝日)やフリーアナウンサーでありながら研究者としても活動されている枡太一さん(元日本テレビ)のニュースを見たときに、アナウンサー一本以外の選択肢がとれる時代が来ているのだと感じました。
キー局のアナウンサーが、これからという時期に退職している。アナウンサーのキャリアを活かしながら異業種に転職している、パラレルキャリアを築いている。そういう時代が来ているのだ、という危機感は私を含めてローカル局のアナウンサーはなおさら感じている部分だと思います。
―― アナウンサーのスキルを活かして、より広いフィールドで活躍できる時代になっているようにも感じます。戸谷さんがこれからかなえたい未来についてもお聞かせください
セガサミーグループは幅広い領域の事業を手掛けています。ゲーム、パチンコ・スロット、他にもグループ会社でダーツやアニメ制作など…。たくさんの可能性を秘めた会社なので、何ができるのかというところはとても楽しみです。
まずは企業広報のプロとしてスキルをしっかり身につけて様々な企業の方たちと勝負できるようになりたいです。アナウンサーとしては戦えますが、まだまだ企業人としては勝負できないので。
現在、セガサミーは三つのプロスポーツチームを運営しています。バスケットボールチーム「サンロッカーズ渋谷」、ダンスチーム「SEGA SAMMY LUX」、競技麻雀Mリーグに参戦する「セガサミーフェニックス」。その他にも社会人野球チームが活動しています。個人的には、一つの競技にフォーカスするというよりは、スポーツを通じた場作りをしたいなと考えています。例えば「サンロッカーズ渋谷」は渋谷界隈で活動しているので、街とバスケットボールの繫がりで地域を盛り上げるキーマンになっていくというようなことですね。
―― スポーツと地域の繫がりという点では、愛媛で頑張っているジュニアアスリートの取材や、高校野球などに関わってきた、地域に根ざしたローカル局アナウンサーの経験が活かせる部分かもしれませんね。戸谷さんのこれからのご活躍、期待しています!
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*本記事に記載された内容は取材時2023年7月14日のものです。その後予告なしに変更されることがあります。