YouTuber「サリーさん」が上場企業の社外取締役に!『ワークマン式「社外人材の活かし方」』とは 〜タレントキャリアアドバイザー 別府 彩が聞く!〜

 

キャンプをテーマにしたブログやYouTubeチャンネルを運営、インフルエンサーとして活動中の「サリーさん」こと濱屋理沙さんが2023年6月29日に株主総会の承認を得て、作業服などの販売を手掛ける株式会社ワークマン(以下ワークマン)の社外取締役に就任。
2019年からワークマンの公式アンバサダーとして活躍をしていた濱屋さん。上場企業では異例の、YouTuberが社外取締役に就任というニュースは多くのメディアでも取り上げられました。就任までの舞台裏や社外取締役としての活動について掘り下げます。

この記事の監修者

別府 彩
別府 彩タレントキャリアアドバイザー

元フリーアナウンサー/タレント。
大学卒業後、およそ10年間フリーアナウンサーとして活動。31歳のときにグラビア写真集「彩色」(竹書房)を出版。
「踊る!さんま御殿!!」(日本テレビ)に出演するなど、バラエティ番組やラジオパーソナリティ、テレビCMナレーターなどの経験を持つ。
33歳で芸能界を引退、広告代理店に正社員として就職。イベント運営会社、イベントコンパニオン事務所を経て2020年に株式会社エイスリーに入社。
現在は、アナウンサーから会社員という自身の転職経験を活かし、日本初の“タレントキャリアアドバイザー”として、芸能人やクリエイターのパラレルキャリア・セカンドキャリアのサポートを行っている。

Twitter
https://twitter.com/a3_ayabeppu

上場企業の社外取締役に自ら立候補!提案書でワークマンへの熱意と実績をアピール。

―― 社外取締役ご就任、おめでとうございます!濱屋さんが就任することになった経緯をお聞かせいただけますか。

2019年から初代アンバサダーとして商品開発に協力したり、ブログやYouTubeでワークマンの商品情報を発信したり、積極的に活動をしていました。社外取締役を意識することになったきっかけは就任の約2年前頃でしたね。その頃、ワークマンの土屋専務が出版された『ワークマン式「しない経営」』(著者:土屋哲雄/ダイヤモンド社/2020年10月出版)に「今後はアンバサダーを社外取締役に迎えたら面白いと思う」という一文があることをワークマンの社員の方が教えてくれたのです。50名ほどのアンバサダーの中の特定の誰かというわけではありませんでしたが、アンバサダーを社外取締役に起用したいという思いがワークマンの中に生まれているということを知っていました。

―― 複数のアンバサダーの中で、濱屋さんが社外取締役になられたのはどういう流れがあったのでしょうか。

実は、私から会社にお声がけしたのです。私はキャンプをテーマにしたブログやYouTubeでそれなりに収益も上げていたのですが、こういった活動だけで安定した収入を得て生活していくことは簡単ではありません。将来的に色々やっていかないといけないなと感じていたのと同時に、ワークマンに対しても「もっとこうしたらいいのに、あんなふうにしたらいいのに」という思いがどんどん溢れていたので何か形にしていきたいと考えていました。アンバサダーという立場だけではできないことも出て来ていたので、一時は社員になろうと考えた時期もありました。もうひとつの方法として、夫婦でワークマンの加盟店としてフランチャイズ店舗を経営するのはどうか、と思った時期もあったのです。

しかしどれもしっくりは来なくて、2023年の年始くらいに思い出したのが、土屋専務の「アンバサダーを社外取締役に」という言葉でした。

まずは社外取締役に私が就任したらどんなメリットがあるかを伝えるために、提案書を作りました。その提案書と履歴書をお渡しして「社外取締役をやりたい」という気持ちを伝えたのです。

―― ご自分から立候補されたのは意外でした。提案書ではどんなことをアピールしたのでしょうか。

まず私自身が、ワークマンの購買層としてシェアの高い「主婦」「子育て中の親」であること、30〜50代女性の真ん中である「アラフォー女性」であることをメリットとして伝えました。

もうひとつは、私は今でもほぼ毎週キャンプに行っているのでキャンパーとしてリアルに消費者の目線で商品開発に意見を出せますよ、ということを一番押し出しました。
実際に他のアンバサダーの方たちと比較してもおそらく一番多く商品開発をしていましたし、「コットンキャンパー(※)」を一からデザインして販売し、累計40万着売れた実績もありました。

※濱屋さんがアンバサダーをしていた当時にワークマンと共同開発した、可愛く機能的に着られるパーカー型のアウトドア用アウター(上の写真で手に持っている商品)。販売数40万着を超えるヒット商品。

濱屋さんが考える、公式アンバサダーと社外取締役の役割の違いとは。

―― 社外取締役となるとアンバサダーとは異なる役割を求められるのかと思うのですがいかがでしょうか。

そうですね。個別の商品について意見を言うというよりは、もっと全体を俯瞰した提案を求められていると思っています。まさに今日も商品開発の方と夏の商品の全体的な色目についてお話をしたところでした。

また、先日、土屋専務にお話したのはシニア向けの商品ラインについてです。私の母が70代なのですが、意外とシニア層が気軽に購入できる洋服屋さんが少ないということを言っていて。カジュアル路線だとベーシックな色や形のものが多くて、年配の方が着るとシンプル過ぎる雰囲気になってしまうのです。もっと、柄物とか顔映りの良い色合いのものとかがリーズナブルに買えるお店があるといいかもしれないと思って専務にお話してみたのです。専務も「気づかなかった。そこにも大きなマーケットがありそうだね」と言ってくださいました。このアイデアは母娘の会話から生まれたものですが、ワークマンは社員の8割が男性なので、こういった会議室では生まれない、女性目線の部分を私が発信していけたらいいなと思っています。

―― 濱屋さんご自身がキャンパーでもあり、一人の消費者として外から客観的に「ワークマン」というブランドを見ているといった感じですね。

もちろん、私自身も社外取締役としてコーポレート・ガバナンスの知識はしっかりつけていかなければならないので、本で知識を付けたり、今後研修を受けたりしていきます。

しかし、ワークマンの社外取締役は他にも弁護士、公認会計士の方がいらっしゃるので、そういった領域は専門家に見ていただきながら、私は今までやってきた自分の視点でアドバイスをすることに注力していきたいと思っています。

会社員からYouTuberへ、キャリアの歴史。やりたいことを実現してきた濱屋さんのスキルとは?

―― 「YouTuberが社外取締役」はニュースとして話題になりましたが、YouTuberになるまでの濱屋さんのご経歴についても教えていただけますか。

大学の経営学部情報管理学科を卒業して、NECソフト株式会社(現NECソリューションイノベータ株式会社)というシステム開発の企業で営業職をしていました。営業としてビジネス展示会の自社ブースでプレゼンをする機会があり、大勢のお客様の前でマイクを持ってサービスの訴求をすることがとても楽しくて、働きながら週に1回夜間のアナウンサー学校に通うようになりました。

その後退社して、2年くらい派遣の仕事をしながら学校に通っていました。オーディションなどのチャンスはありましたが仕事には結びつきませんでした。厳しい世界であることがわかりましたし、せっかく勉強したけれど話す仕事は今じゃないんだなと思って、気持ちを切り替えましたね。

そして始めたのが雑貨や洋服のネット販売の仕事でした。海外の仕入れサイトから商品を仕入れて、洋服は自分で着た写真を撮影したり、受注の対応から梱包発送、クレーム対応までしたりなんでも一人でやりました。そのうちに派遣社員並みに稼げるようになってきたので、ネットショップを本業としておこなっていくようになりました。

―― ブログやYouTubeのテーマであるキャンプはその頃からおこなっていたのでしょうか。

ネットショップを運営していた頃、世間は「山ガール」が流行った時期で、私も可愛い服装で富士山や長野の日本アルプスを登っていました。そこで、アウトドアの有名メーカーの商品を扱ってみたいと考えたのです。結果的に取引は成立しなかったのですが、色々なショップやブランドのリサーチをして相当詳しくなっていました。

それから少し経って、長男が生まれました。元々、旅行好きな夫婦で2ヶ月に一度は旅行をしていたのですが、子どもが生まれると旅費も高くなるし「ホテルで夜泣きをしたら迷惑かな」など考えて旅行に行きにくくなってしまっていたのです。そんな時に、夫がキャンプに誘ってくれました。山登りはしていましたが、私は虫も苦手だし、幼少期からキャンプには全く行ったことがなくて。まずは手ぶらで行けるお手軽キャンプから始めました。

テントも立ててあって、ご飯も作らなくても良いので気楽だし、思いのほか楽しくて。キャンプだったら道具を揃えれば、それほどお金もかからないし…結局欲しい物がどんどん出てくるんですけど(笑)

そこから一気にキャンプにハマってしまいました。一式道具を揃えて、毎週のようにキャンプに行くようになったのです。

―― その頃からブログ「ちょっとキャンプ行ってくる。」を書き始めたのですね。

2017年頃ですね。次男が3歳になった頃に、育児もやりつつできる仕事はないかと考えていて、ブログがとても流行っていた時期で、偶然、ブログで稼いでいる方の本を読んだのです。

この方法なら好きなことを仕事にしていけそうだし、私もやってみようと思いました。テーマをどうするか、これまでのネットショップの話でもいいし、キャンプや洋服など好きなことを色々書くのも良いし、育児ブログもいいし…と考えた末にキャンプを選んだのです。

―― キャンプをテーマにしたブログはまだあまりなかったかもしれないですね。

キャンプをテーマにしたブログはありましたが、マーケティング調査じゃないですけどリサーチしてみたところ、書いている方は男性で、マニアックな知識を披露しているものが多かったのです。どこのテントが耐水圧3,000ミリで、透湿度がいくつで、とか。子どもと家族4人で使うならこのくらいのサイズのテントが広々使えるとか、このテントだったら夏も涼しくて冬も使えるとか、そういう情報をわかりやすい言葉で伝えるブログがなかったのです。

女性のブロガーだと「どこのキャンプ場に行ったよ、子どもが楽しそうだった」という写真数枚がある日記のようなものが多い印象でした。

私が書きたかったのはわかりやすい言葉で情報がきちんと詰まっているブログで、これならいけると確信しました。まずは3カ月間、100件の記事を毎日書こうと決めてやり抜きました。書き始めて1カ月くらいでブログランキング3位になって、収益化できるようになり、本格的にブログに邁進していったという流れでした。

―― ただ好きなことを書き連ねたのではなく、かなり戦略的に取り組まれていたのですね。

キャンプそのものは好きで、家族の共通の楽しみでしたけれど、ブログ自体は仕事として工夫しながらやっていましたね。

YouTubeも同様です。必ず競合調査はするし、どういうネタだと視聴数が増えるとか、この話題は意外とダメだったなとか、サムネのデザインを変えてみたり。仕事と同じでPDCAを回していくわけです。

感覚的にできてしまう方もいると思いますが、好きなことでお金を稼ぐためには見ていただいて広告収入を得ないと継続できないので、ファンの方に喜んでいただくためにも戦略は重要だと思います。私の場合はネットショップを運営しながらそういうスキルを身につけていったと思います。

元々、子どもの頃からお金を稼ぐことに興味を持っていたところもありますが…。

―― 子どもの頃からですか…!?

私が小学生の頃、父が趣味で木工家具を作ってフリーマーケットに出品していたのです。私もハンドメイドの粘土細工を一緒に並べていたのですが、ターゲットを子どもにするとお金をあまり持っていないだろうと想定して、大人をターゲットに試行錯誤しながら作品を作った結果、1,000円で売れた感動は未だに覚えています(笑)その頃からものづくりやアイデアを出すこと、商品を販売してお金を得ることに興味を持っていました。

―― ビジネスマインドみたいなものは元々持っていたように感じますが、YouTubeをやりながら身につけたスキルにはどんなことがありますか。

YouTubeは色々なことが勉強できる仕事なのです。わかりやすく発信していくことが求められるのでプレゼン能力が磨かれます。自分がやりたいことだけでなく再生数を稼ぐための企画力も必要です。私はあまり台本を作るタイプではないのですが、この商品を紹介するときはこういう順番で話そうと段取りを考えながらやるので、文章の構成力も身につくと思います。

企業さんとのコラボでPR動画を作ることも経験するようになると、予算のことなど交渉力も身につきます。YouTubeの場合は再生数が非常に重要なので、何日でどのくらい再生されているか、視聴者の性別や年齢層、属性などデータの分析力も身につきます。サムネの作り方と、タイトルの付け方のようなコピーライティングのスキルなどセールスにつながる能力も磨かれると思います。

ブログもYouTubeもそうですが、企画、実行、結果の分析、改善の繰り返しなのでいわゆるPDCAを回す重要なビジネススキルが身につく仕事です。

―― YouTuberとして成功するにはそういう様々な能力が必要なのですね。

そうですね。私は話すことは元々好きでしたが、いざカメラを前にすると全然違うことを話しちゃったり、話があちこちに飛んでしまったりしました。これだけずっと撮影をしているとだいぶ慣れてくるんですね。やはりずっと継続していくことで磨かれていくと感じています。

―― アナウンススクールに通った経験も、活きているのですね(笑)

確かにそうですね(笑)人生って本当に面白いなと思います。あの頃はアナウンサーとかリポーターとしてテレビに出たかったけど叶わなかったのに、巡り巡ってワークマンの関係でテレビ出演も増えて、ようやくここまで来たのか…と思います。

社外取締役になってもワークマン式に「頑張らない」で切り拓く未来。

―― 社外取締役としての実務は始まったばかりですが、これから叶えたい目標はありますか。

色々模索している最中です。上場企業では私のような経歴で社外取締役になった方はおそらく他にいないので、私がその道を作っていくしかないと思っています。お引き受けしたときはプレッシャーも結構あったのですが、社員の方からもそのままの話しやすいお姉さんみたいな「サリーさん」のままでいいのではないかと言っていただいて。ワークマンの会社としての方針でもありますが、頑張ると、無理をするから「頑張らない」。無理すると余裕がなくなって持っている能力を発揮できなくなるから「頑張らない」。自然体で自分のできる範囲でやっていく。その言葉で気が楽になったというか、私にできる能力の範囲でできることを一緒に取り組ませていただければと思っています。

―― 社外取締役としてのご活躍、楽しみにしていますね。ありがとうございました!

エイスリーでは「タレント社外取締役マッチングサービス」を行っております。
▼サービスの詳細はこちら
▼サービスに関するお問い合わせはこちら