テレビはどこへ向かうべきか? キー局の新規事業へ挑戦を改めて振り返る

2019年、インターネット広告費がテレビ広告費を抜いたと電通が発表した。広告の王者であったテレビの影響力は、若年層を中心に下がりはじめている。テレビ局には打ち手はあるのか? 2013年以降、キー局が挑戦してきた新規事業を振り返り、そのヒントを探してみる。

2013年にテレビ局のCVCブーム到来

テレビ局の新規事業への挑戦とスタートアップ投資への歴史を振り返ってみる。

テレビ局がスタートアップに投資しはじめたのは2013年頃。日本テレビは社長室や当時のインターネット事業局が主導して、電子チケットサービスの「tixee」(現在 DMMグループが買収)や、スタートアップコミュニティの「Creww」に出資をした。

TBSは、TBSイノベーション・パートナーズというCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を設立。フジテレビもフジ・スタートアップ・ベンチャーズというCVCを立ち上げた。フジテレビに関しては、スマホゲームの会社gumiと共同で、Fuji&gumi Gamesを立ち上げた。

コーポレートベンチャーキャピタルとは、投資を本業としない事業会社が、自社の事業分野とシナジーを生む可能性のあるストーとアップに対して投資を行うことや、そのための組織を指す。

いずれも、メディア及びエンターテインメント領域のイノベーション創出を担う候補となるスタートアップへの投資活動を行っており、その目的は、株式売却で利益を得るキャピタルゲインより、M&Aを見据えた新規事業の創出に近いように見えた。

2014年には、日本テレビはHuluの日本事業を買収。

2015年になると、テレビ朝日はサイバーエージェントとAbemaTVを開始する。ABC朝日放送は、2015年から自社CVCであるABCドリームベンチャーズを立ち上げた。

東京のキー局が集まり、テレビ番組無料配信サービス「TVer」を開始したのも2015年になる。

2013年を起点に、テレビ局の新規事業開発やスタートアップ投資への取り組みが活発になっていることがわかる。

結局、スタートアップ投資はうまくいったのか?

TBSイノベーション・パートナーズの投資先上場企業(https://tbs-ip.co.jp/?page_id=591

投資先において、事業活動継続中のところがあるため、現時点では一概には言えないところはあるが、マネーフォワードなど投資先4社がIPOしたTBSイノベーション・パートナーズを筆頭に、投資収益を得るを得るとという目的に照らせば、一定成果が出ていると言えそうだ。

純粋に投資収益を得ることが目的であるならば、機関投資家としてファンド出資をし、金融のプロに資金運用を任せる方が効率が良いだろう。実際にその流れはある。

当初、期待されていた「協業」による新規事業創出という点ではどうだろうか。

日本のインターネット広告費がテレビ広告費を抜いたというが、テレビCMを中心とした放送産業は、未だ大きな収益を生み出している。そのため、一部キー局では「営業局」の発言力が強くなってしまい、生活者のお茶の間の時間の可処分時間をテレビから奪うようなサービスや事業を推進する足止めになっている状態もあるようだ。

「eスポーツチームをつくる」「VRアプリをつくる」「インフルエンサーマーケティング事業を立ち上げる」というプロジェクトは多々立ち上がっているが、結局のところ「営業局」などの圧力などで、本業であるテレビCMの価値向上にどのようにつながるのか明確に説明できなければ、社内稟議を通過することはほとんどない。

残念ながら、テレビ局発の新規事業・新サービスが成功しているといえるところはほとんどないといってよいだろう。

日本テレビ、テレビとWebを組み合わせた広告商品への挑戦

HAROiDのテレビ局向けDMP構想(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000016368.html

これは、イノベーションのジレンマと呼ばれる現象だが、その中で新規事業を推進していくには、経営層による「トップダウン」型での取り組みが必要となる。

その挑戦として一例にあげるのが、日本テレビと世界的な広告賞常連のクリエイティブカンパニー・バスキュールによる合弁会社/ジョイントベンチャー「HAROiD」である。バスキュール社は「スマホで参加するテレビ番組」を日本テレビと度々立ち上げており、Webとテレビを融合する事業を立ち上げる会社としてHAROiDを、日本テレビ上層部のトップダウンで2015年に立ち上げた。

需要がないのかあまり知られていないが、昨今のテレビ端末はインターネットに接続が可能。ネットによる通信と放送を組み合わせることで、データ放送上で簡易なインタラクティブコンテンツを提供することができる。

HAROiDの挑戦は、ネット接続したテレビから視聴者の視聴データをWeb上に集積し、テレビの行動履歴とWebの行動履歴を組み合わせたターゲティング広告商品を開発することにあった。

総務省からの補助金を受けてローカル局で実証実験を重ねていたが、視聴者がわざわざテレビにネット接続するほどの魅力あるコンテンツを開発することができず、肝心の視聴データの集積ができずにおり、未だ成功しているとは言い難い。

その他にもHAROiD社は「LiVE CM」と銘打ち、視聴者がスマホで参加できるテレビCMというのをキリンビール社をクライアントに複数回実施した。しかし、通常のテレビCMよりも数倍の開発コストがかかる上に、LiVE CMならではのリアルタイム演出が放送事故を引き起こすリスクの高さもあり、残念ながら新形態のテレビCMの「普及」とまではならなかった。

日本テレビ発、HAROiD社のデータ活用構想は、現在はTVer社に引き継がれている。AppleによるCookie規制(※ざっくり言うとWeb上でユーザーを識別する仕組み)で、ターゲティング広告の価値そのものの意義が問われている中、同社の展開を見守っていきたい。

 

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「ノバセル」の登場、テレビCMの民主化へ

「ノバセル」のテレビCM PDCAフロー(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000057.000010550.html

一時期、大手広告代理店がその枠を独占していたテレビCMに民主化の波が来ている。

ラクスル社とADKが手がけるサービス「ノバセル」では、テレビCMを1枠から買うことができるようになった。これは、ラクスル社のテレビCM運用のノウハウを凝縮したサービスでもある。

テレビCMのマーケティング効果を問われる際、視聴率以外の明確な指標がなく、価格の決め方もブラックボックス化することで高単価を保っていたテレビCM。基本的に、商品やブランドの認知度を向上させる施策として利用されており、効果測定は外部のリサーチ会社に依頼して一定のコストをかけて行う必要があった。ノバセルでは「ノバセルアナリティクス」というテレビCMの効果測定ツールを合わせて提供している。

効果と価格の最適化が行われ、結果、テレビCMがさまざまな広告手段のOne Of Themになる流れは今後さらに加速していくであろう。

電通グループであるCARTA HOLDINGSも同様の事業である「テレシー」を始めている。

優れたコンテンツメイカーとしてのテレビ局

広告媒体としての価値が希薄化していくテレビビジネスの中で、テレビにはどのような打ち手が存在していくのであろうか。残念ながら、もう昭和のテレビ全盛期のような時代はやってこないだろう。

一方で、テレビドラマ『半沢直樹』のスマッシュヒットに見るように、世の中全体で話題になるコンテンツメイカーとしてのテレビ局は非常に優れている。

テレビコンテンツが、Netflix、Hulu、U-NEXT、Amazon Prime、TELASA、Paraviなどのサブスクサービスに輸出されている。中には、テレビ番組そのものをYouTubeで公式に配信しているとこさえある。

テレビ自体が、徐々に、プラットフォームレイヤーからコンテンツ提供レイヤーになってきているのだ。注力すべきはコンテンツなのではないだろうか。

そして、テレビは「CM」でスポンサー収益を上げるモデルから、視聴者から直接課金されるモデルへと移行するべきなのではないだろうか。『梨泰院クラス』を代表とするNetflixのオリジナル作品などでも見られるように、優れたコンテンツを提供することで、その対価として視聴者からお金をもらうという流れに進み、プラットフォーマーからコンテンツメイカーとなることが生き残る道だ。

そうなると、もはや日本だけのマーケットでコンテンツを流通させていると、やがて限界が来る。「アニメ」は世界中で消費されている日本コンテンツの代表例だが、日本発世界ヒットの海外ドラマがあるだろうか。海外ヒットをいかにつくるか、ということが、テレビ局の「新規事業」を考える上で重要なポイントになりそうだ。

 

<執筆>
石塚 健朗(いしづか たけろう)
学生時代よりVCでスタートアップや大手企業の新規事業創出支援。面白法人カヤック、日本テレビ、SCRAPを経てマーケティングプロデューサーとして独立。ファンの熱量を最大化するコンテンツ開発を軸にしたプロモーションの企画・実行が得意領域。