GROVE株式会社 代表取締役・北島 惇起氏が語る エンタメ業界から見たインフルエンサーマーケティング
目次
プロフィール
北島 惇起
GROVE株式会社 代表取締役
日本大学出身。2010年4月に株式会社テクノブラッドへ入社し、PCゲームの販路拡大及びイベントプロモーション業務に従事。2012年10月に株式会社ワタナベエンターテインメントとタレントマネジメント契約を結び、お笑い芸人として活動。2014年4月に3rdkind株式会社に入社し、サービス・アプリ事業部の責任者として従事。2015年9月にGROVE株式会社へ入社し、2016年8月に同社取締役就任、2017年9月に同社代表取締役に就任し、現在に至る。
※取材当時の情報になります
『エンタメ人』がお届けする、エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。エンタメ業界へ転職を考えている方へ向けて、若手時代の苦労話から現在の業界動向まで伺っていく。第20回は、インフルエンサーマーケティングを行う会社を取り上げる。(編集部)
インフルエンサービジネス界の異端児? GROVE株式会社とは
── まずは、御社の事業内容について教えていただけますでしょうか。
インフルエンサーのタレントマネジメントを行い、彼らが将来どのようになりたいのかという目標をもとに、マネージャー陣がそこに向かっての道筋や、いつどのような活動をしていくかのプランニングをしながら、IPを作り育てマネタイズするための事業活動を行っています。
2021年からはIPのマネタイズプランのひとつとして、D2C事業(自社サイトを通して顧客に直接商品を販売する事業)に注力していますが、それに限らずインフルエンサー及びファンの方々にとって有益となるサービスの提供を行っています。
── 2020年にAnyMind Groupと資本業務提携されましたが、その経緯を教えてください。
自分たちが持っていないテクノロジーやグローバル展開、AnyMind Groupが行うインフルエンサーマーケティングにおける僕たちが持っていなかった強み、上位互換とも言える部分を任せられることは、資本業務提携をするにあたって重要と感じていた部分です。お互いに強い部分をそれぞれ担っていくために提携を決めました。
── 今後は海外展開も視野に入れていくのでしょうか。
そうですね。AnyMindGroupの強みは、東南アジア領域において17の拠点があり、それぞれに著名なインフルエンサーがいることです。
また、AnyMind GroupがインドのPOKKT Mobile Ads(モバイル動画広告プラットフォーム)を買収したことで、インドや東南アジアを拠点に中東やアフリカへの展開も検討できるようになりました。
発展途上国でも人口が増加する国は、ビジネスでとても勝ちやすい市場だと言えるでしょう。そこに挑めるのはクリエイターやインフルエンサーにとっていい環境だと思います。
コロナ禍における「エンタメ業界の変化」
── エンタメ業界はコロナウイルスにより打撃を受けていますが、御社でも何か変化はありましたか。
GROVEの売上構成比はオフラインのエンタメ関連のシェアが低いため、コロナウイルスによる影響はあまり受けていません。企業が広告を打たなくなった時期には影響がありましたが、事業の本質からすると問題はなく、逆にIPの重要性が高まった時期だったと感じます。
── 作るコンテンツに変化はありましたか?
コンテンツは時流に乗っているかを考えて制作します。例えば、この1年で中食が促進された影響でUber Eatsの利用が大きく伸びたと思いますが、YouTubeでもUber Eatsを使ったコンテンツが増加しました。消費者が求めるものに合わせていくと、必然的に動画コンテンツもコロナウイルスに影響を受けたものになっていったのです。
── コロナウイルスの影響はまだ続きそうですが、今後エンタメ業界に生まれる需要はどのようなものでしょうか。
日本では、コロナウイルスのワクチン接種率がとても低いです。高齢者や医療関係者以外の人は、接種まで3年近く待たなければならないという話もあります。この話が本当だとしたら、3年間で需要が変わるかもしれません。
以前まで、オフラインでファンとの交流イベントを行っていましたが、コロナウイルスの影響を受けて、多くがデジタル化しました。
現在のオンライン交流会の中には、全員がヘッドセットをつけて、バーチャル都市で過ごすようなサービスも増えてきています。例えば、渋谷の街がVRで完全再現されていて、そこを行き来して遊ぶといったようなサービスです。そこから発展して、バーチャル空間での生活における新しいエンタメはどうなのかなと。その空間がある以上は、そこでしか通用しないエンタメも出てくるかもしれません。
スポーツ少年がエンタメ業界に足を踏み入れるまで
── 学生時代はどのような仕事に就きたいと考えていましたか?
学生時代はずっとスポーツをやっていて、小学校~中学校までの9年間は野球を、高校からはアメリカンフットボールをやっていました。12年間スポーツばかりしていましたね。
ただ、大学ではスポーツを続けなかったので、そこからエンタメ業界に興味を持ち始めました。音楽、漫画、お笑い・・・この辺りにはたくさん消費し、浴びるように見ていました。
── その時のインプットが現在のアイデアに繋がっているのでしょうか。
アイデアもそうですが、思春期にエンタメから受けた影響で構成されている人生です。大学を卒業して一度就職しましたが、その会社を1年半ほどで辞めてお笑い芸人の道を志しました。もともとお笑いが好きで、一度はチャレンジしたいという思いからです。ここで初めて、エンタメ業界の片隅に足を踏み入れました。
スペースシャワーネットワークと資本業務提携したのも、もともと僕がスペースシャワーTVっ子だったためです。
思春期のエンタメ体験から、仕事もプライベートもずっと影響を受けていますね。
── お笑い芸人からGROVE入社までには、どのようなことがあったのでしょうか。
ワタナベエンターテインメントでピン芸人として活動していましたが、結婚をきっかけに就職することを決意しました。
当時アルバイトをしていたゲームアプリ開発会社に入社させてもらえることになり、新規事業のサービスアプリを作りました。そこで、プロモーションプランを考えた時に、ワタナベエンターテインメント所属のタレントさんに依頼しようと問い合わせてみました。
すると、ワタナベエンターテインメントの社員の方が、インフルエンサーを使ったほうがいいとアドバイスして下さり、調べていったところGROVEに行き着きました。現在は代表取締役ですが、クライアントの立場として関わったのが最初の出会いです。
インフルエンサーという新しい可能性を目の当たりにして興味を持ちだしたところで、先代の社長である森田からGROVEで営業をやらないかと誘われました。そこで、やはりエンタメ業界により近いほうが楽しいと思い、GROVEへの入社を決めました。
入社後は、ウサギとカメじゃないですが、同業他社が大型の資金調達を行い猛スピードで事業拡大していく中、我々は地味にコツコツと事業拡大を行いました。ようやく今ではパパラピーズやなえなのをはじめ、複数のGROVEタレントがインターネットのみならずテレビや雑誌ラジオなどでも見かけるようになりましたが、世界でも戦えるよう堅実にやっていくしかないと思っています。
変化の激しいエンタメ業界でこれから活躍できる人材とは
── エンタメ業界は変化が激しい業界と言えますが、今エンタメ業界で求められる人材像を教えてください。
一言で言うなら「いいやつ」でしょうか。GROVEは「いい人採用」をしており、誠実な人間性を重視します。人と人とが仕事をする上では、スキルより土台となるマインドのほうが重要だと思っています。人と向き合う中では、誠実さがないとうまくいかないのではないかと。
クリエイターの中には、さまざまな大人にだまされた経験を持つ人もいるので、人の中身をよく見ています。人生をかけて、顔をインターネット上に出して活動をし、後戻りができない状況でこれで一生食べていくという覚悟を決めているのです。立場は異なるものの、同じ温度感で誠実に向き合うようにしなければ相手にしてもらえませんから。
── 最後に北島さまにとって「人材」「エンタメ」とは、それぞれ何でしょうか。
どちらも僕が答えるにはおこがましいですが、強いて言うなら、人材とはビジネスの一番最初に必要な重要構成物質です。ビジネスを何かしらの物と捉えた時に、それの原子となるものです。エンタメ業界は人の心を動かす仕事をしているので、最初に来るのがまず人で、それが最後まで大切なのは変わりません。
月並みな意見ですが、エンタメとは生命活動には必要ないものですが人間である以上、それを楽しめるかどうかは重要で、人間として最も必要なものだと思います。
(2021年4月15日、GROVE株式会社にて)